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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第ニ章 旅立ち篇 (九歳)

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09.トアールの町

 イナカモントの村を出てちょうど八日目の昼、キャナリーを乗せた荷馬車の一行は町に到着した。


「うわ~、すごい人! 今日ってもしかして、すごいお祭り?」

「ははは、すごいよな。これが町だよ」


 これだけ人が忙しくしているのに普通の日だなんて。


 それがここ、トアール伯国の首都。ジロ兄が通う学校がある町だ。



 荷馬車の列はカポッカポッと(ひづめ)の音を軽く響かせながら、ゆっくりと町の中を進んでいく。


 道の両脇には二階建てが並んでいる。村だと、ちゃんとした二階建ての家はキャナリーの住んでいた屋敷ぐらいなのに。


「ほえ~~~、町ってすごいねえ。ドングリはあるのかなぁ」

「大丈夫、ちゃんと匂いがするモモ」


 キャナリーもスンスンと匂いを嗅いでみる。だけどドングリの匂いは分からなかった。



 荷馬車の列は石造りの門の手前で一度止まる。正面には大きく立派な石造りの建物。


「お城だ!」


 荷馬車はそのお城のはるか手前を右に曲がり、倉庫のような別の建物が並ぶ一角で止まった。


「キャナリー、ようこそ町へ!」

「ジロお兄ちゃん!」


 納品作業を始めた荷馬車の一行と別れ、キャナリーはジロ兄に手を引かれて、そのお城のすぐ近く、数台の立派な馬車が止まっている所で立ち止まった。


 その中の一台は特にキラキラしていて、まるで物語に出てくる馬車のようだ。大きな青い伯国旗がその後部ではためいている。


「うわぁ……まるでお姫さまの馬車みたい……」


 この馬車に乗って舞踏会に向かうお姫さまの姿が目に浮かぶ。



 キャナリーがぼ~っとした顔で素敵な馬車を眺めていると、お城の大きな玄関扉が開いて、中からドレスを着た若い女性と、それをエスコートする若い男性が現れた。


「……おひめ……さま……?」


 若い女性は青く透き通るようなドレスを着て、まるで絵本の中のお姫さまがそのまま出てきたかのようだ。その長く豊かな鳶色の髪がそよ風に揺れる。


「あら、その子が例の?」


 キャナリーはあわあわしながら、ジロ兄の真似をしてペコリと頭を下げる。


「きゃ、キャナリー・イナカモントでしゅ!」


 そしてしっかり噛んだ。


「はじめまして、キャナリー。私はアーネ・トアール、魔法学園の三年生よ。王都までご一緒ですから、仲良くしましょうね」

「は、はい! お姫さま!」


「キャナリー嬢というのか、はじめまして。私は護衛の隊長を務めるガルド・トアール。これからの長い道中、なにとぞよしなに頼む」


 お姫さまの隣を歩いていた若い男性だ。


「はい! キャナリー・イナカモントです! おうじ……さま?」

「ははは、私はアーネの従兄だ、王子ではないよ? でも誉め言葉として受け取っておこう」



 挨拶している間に、使用人たちが手分けして、たくさんあった荷物をどんどん馬車に積み込んでいた。キャナリーの大きなカバンも、ジロ兄が積み込んでくれている。


「まあ、ミケ。遅刻よ?」


 アーネ姫に飛びついて抱き上げられたのは、トラ柄の小柄な猫だ。


 ミケと呼ばれた猫は、アーネ姫の胸元から顔をリリスに、そしてキャナリーに向ける。その青く小さな瞳がきらっと光った。


 キャナリーが何かを言う間もなく、アーネ姫はそのまま馬車に乗り込んでいく。キャナリーも慌ててその後ろにいた馬車に向かおうとした。


「何をしているの? キャナリー。あなたはこっちよ?」


 アーネ姫が手招きしているのは、先ほど彼女が乗り込んだ、お姫さま専用のきらびやかな馬車。


 キャナリーがどうしたら良いのかと戸惑っていると、ガルド隊長が笑いながら彼女の手を取って、お姫さまの待つ馬車へと乗せてくれた。


「あ、ありがとう……」

「どういたしまして」



 ガルド隊長の号令で馬車の列は出発する。


 アーネ姫とキャナリーの馬車に、侍女の馬車、そして荷馬車が続き、その馬車列を囲むようにガルド隊長を合わせて六騎の騎馬、そして二十名ほどの従士が付き従う。


 親指を立てて見送るジロ兄に手を振ったものの、キャナリーの頭の中はふわふわしていて、現実感がまるでない。


 キラキラの馬車、隣の席にはお姫さま。キャナリーにはもう完全に夢の世界の話だ。


「キャナリー、それじゃ少しお話ししましょうか。お互いのお友達の紹介もしたいわ」

「は、はいぃっ!」



 どうやらキャナリーは、まだまともに話ができる状態じゃない。ちょっと困った表情を浮かべるアーネ姫。


 それを見て取ったのか、アーネ姫の膝の上でゆったりと寛いでいたトラネコのミケが、ひょいと隣のキャナリーに飛び移った。


「ニャニャ~~!」

「ひょわ~っ!」


 突然のことに、キャナリーがびっくりして変な声を上げた。


「こら、ミケ、いたずらは駄目ですよ?」

「ニャオ~ウ……」

「ふええ、びっくりしたモモ……」


「その子がうさわの話ができる精霊さんね?」

「あ、はい! リリスって言います!」

「リリスだモモ。キャナリーの相棒だモモ」


 びっくりしたお陰で、やっと再起動してきたキャナリー、そしてリリスが胸を張って答える。


「ニャ~ニャ~オウ!」


 ミケもどうやら名乗っているようだ。


「あの、その子も精霊さん、ですか?」

「そうよ、ミケっていうの。私と同じ水の魔力よ」


 あの時の青い眼の輝き、やっぱり精霊さんだった。


 よっぽど相性が良かったのか、ミケとリリスは一瞬にして仲良しになり、狭い馬車の中で、鬼ごっこをしたりお馬さんごっこをしたりと大忙しだ。



「お姫さまは、水……」


 やっぱりお姫さま、キャナリーみたいな嫌われ者の風なんかとは違うらしい。


「あら、あなたの風は素敵じゃない? この国一番の魔女のお婆さまも、それに私のお父さまだって風の魔力よ?」


「ええ~! 王さまが風?」

「うふふ、ここはトアール()()だから、王さまじゃなくて伯爵だけどね!」

「一番えらい人が……風って悪者じゃないの?」

「そんなはずないでしょう? リリスを見てごらんなさいな、悪者に見える?」


 キャナリーが顔を向けると、リリスは自分より大きなミケにまたがられれて馬にされている。


「この私が言うんだから、自信を持っていいわ」


 たしかにリリスとミケ、二匹の様子を見ていても、全然悪い者には見えない。



「そういえば私、リリス以外の精霊って初めてかも……」

「あら、そうなの?」


「他にもいたモモよ! あの大きなクルミの木が風の精霊だモモ!」

「えええ! 全然気づいてなかったよ!」


 リリスがミケの下でペッちゃんこになりながら教えてくれる。


 今になって知らされる驚愕の事実!


「私、クルミさんに失礼なことしちゃったかな?」

「心配いらないモモ。あの子は黙って見守ってるのが大好きモモ」


「クルミの精霊……しかも風、イナカモントにはまた珍しい子がいるのね」

「ニャ~~~ニャ~~オウッ!」


 精霊はリリスやミケのような小さな動物の姿を取るのがほとんどだそうだ。でも中にはクマのような大きな動物や、クルミの木などの植物、時には小さな宝石や大きな山のような精霊もいるらしい。


「私の近くだと、お父さまの精霊かしら。あの子はトンビで、いつも空から国中を見回っているのよ?」


 トンビの精霊、そういえばキャナリーも見かけた事があるかもしれない。


 そうか、あの子は風の精霊だったのか。



 馬車は誇り高き山鳶の青い紋章旗をはためかせながら、山道を下っていく。


 キャナリーが窓から身を乗り出すようにして空を見上げると、トンビが大きく輪を描いて飛んでいる姿が見えた。


 風も魔力は悪者なのかもしれない。でもリリスは、風の精霊は悪者なんかじゃないはずだ。一緒に行こう、そして確かめよう。王都へ、そして魔法学園へ。


 キャナリーは馬車の窓から落ちそうになりながら、何よりも力強く、そして自由に空を飛び回る風の精霊に向かって、大きく手を振った。


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