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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第八章 学園対抗戦篇 (一年生後期)

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60.戦いと魔法

 魔法剣術の部、一年生の戦いは準決勝を迎えた。


 最初の戦いはアーシュラ対カミオンである。


 開始の合図に合わせて、中央で剣を構える二人。


 アーシュラは今までどおり木製の大剣、対するカミオンが構えるのは同じく木製の、こちらは細剣だ。


「それでは存分に戦おうか!」

「いや待て、ちょっと提案がある」


「何だ、この期に及んで」

「ここに金貨が三枚ある、これで俺に勝利を売らないか?」


「ふっ、馬鹿も休み休み言え!」

「足りんか……ならば金貨五枚、いや七枚ならどうだ?」


「馬鹿め。その程度のはした金で、このアーシュラ・スフォルツァーテが転ぶとでも思ったか?」

「よし、それなら金貨十枚! これ以上は出せんぞ?」


「金貨十枚か……面白い!」


 アーシュラが乗ってきたと感じたカミオンは、金貨をきっちり十枚袋に詰めて、アーシュラに投げ渡す。


 アーシュラはその袋をパッと受け取ると、そのまま間合いを詰めて大剣をズバッ!と振り抜いた。


「金属武器の使用は禁止だ~~~っ!」

「忘れてた~~~っ! それと、お金返して~~~っ!」


 叫び声だけを残して、カミオンの体は運動場の端まで吹っ飛んでいく。


 記録はアーシュラの勝利、カミオンの反則負けということになった。



「ふう、危なかった。金貨十二枚だったら負けていたかもしれん……」


 その勝利は見た目以上に綱渡りだったのかもしれない。



 準決勝第二試合はキャナリー対殿下。


「そういえば、お前とは最初の授業で対戦したな」


 そう、あの時はキャナリーが開始早々すっ転んで、殿下の勝ちになったのだ。


「今回はもうちょっとマシな戦いを期待しているぞ?」

「へへ~ん、今度は負けないもんね!」


「試合開始じゃ!」


 二人が定位置についたところで、学園長の合図。


「リリス、行くよ!」

「ドドド……」


 それと共に二人の呪文の詠唱が始まる。


「……、ドゴ~♪」


 真っすぐに走りだすキャナリーに迫るように、殿下の土の魔法が地を駆ける。


「うわっ!」


 キャナリーがそれを軽く飛び越える。


「ドゴ~♪ ドゴ~♪ ドゴ~♪」

「わわわ、危ないよぅ!」


 殿下は土魔法を連射して、キャナリーを近づけようとしない。


 子供のころからずっと山の中を走り回ってきたキャナリーの足は、誰もが驚くほど速い。それはまるで風の魔法をまとっていると勘違いするほど。


 まずは土の魔法で足止めしてその速度を殺す。さらに地面を凸凹にして走りにくくする。それが殿下の作戦なのだ。



「……大丈夫モモ?」

「当たらなかったら平気かな、まだ走りやすいぐらいだよ?」


「くそ、甘かったか」


 これまでずっと、そして今でも、キャナリが走り回るのは森の中だ。ところどころに木の根が出っ張っていたり、倒木があったりと、真っ平なんてことはあり得ない。


 すこしぐらい運動場が凸凹になったぐらいでは、キャナリーの速度を落とすことなんて、元からできない相談だったのだ。


「まったく……なんてやつだ、こうなったら!」


 殿下は意を決して、細剣を構えたまま今までよりも長い呪文の詠唱を始める。弱い魔法じゃ彼女は止まらない。それならもっと強い魔法を使うまでだ。


「ドドド……」


 キャナリーを見据えながら呪文を唱える殿下、そしてそこに向かって風のように駆け寄るキャナリー。


 キャナリーが一段、そしてさらにもう一段加速する。


 呪文を唱えながら、辛抱強く機会をうかがう殿下。今、魔法を使ってはいけない。もっと引き付けて引き付けて、絶対に逃げられない距離まで引き付けないと……。


 しかしその時!


 ぶおぉぅぅっ!


 突如運動場に突風が吹き抜けた。


 風の魔法なのか? いやキャナリーは呪文は唱えていない。やはりこれは……無詠唱?!


「ドドド……」


 風に押されたキャナリーが、まるで瞬間移動でもしたかのように殿下の視界から消える。


「ド?」「うわ~止めて~~っ!」


 ごちんっ!


 キャナリーはそのまま殿下に体当たり、というよりも、強烈な頭突きをカマしていた。


 お互いあまりの石頭に、気を失ったのか二人とも立ち上がれない。


「これは……引き分けじゃな」



 二人はすぐに目を覚ましたけれど、引き分けという結果が変わるわけじゃない。


「なんでこうなるんだ、まったく納得がいかんっ!」


 憤慨する殿下。キャナリーはまだ頭を押さえて涙目だ。


「このままでは決勝戦が不戦勝になってしまうのう……仕方ない、ジャンケンで勝敗を決めるしかあるまい」


 準決勝第二試合は、こうしてジャンケン戦に持ち込まれることになった。



「それではジャンケン、始め!」

「あ、待って待って!」


 キャナリーはそれを止めると、まるで神に祈るように両手を組んだ。そしてその手を太陽の方に向けると下から覗き込む。


「な、なんだ、それは?」

「へっへ~ん、これで相手が何を出すか見えるんだよ!」


「なんだと、魔法か? 卑怯だぞ!」


 殿下も真似してやってみたけれど、相手の手なんか見えっこない。


「それじゃ、いっくよ~! じゃ~んけんっ!」


 キャナリーはパー、殿下はチョキ!


「よし、俺の勝ちだ!」

「う~ん、あいこかぁ……」


「何を言ってるんだ、俺が勝っただろ……え、なんだ?」


 キャナリーが黙って指さす方向を見ると、そこにはリリスの姿が。そしてその手の形は間違いなくグー。


「ひ、卑怯だぞ!」

「なんでもありルールだもんね!」


 殿下は学園長が何か言うかと思い、その顔を見たけれど、どうやらキャナリーの主張が認められたらしい。


「こんな不条理なジャンケンがあっていいのか……」


 このまま続ければ殿下は負ける確率が高い。考えなければ……


 そこで殿下はハッと気が付いた。リリスのあの手。あの形から考えて、まずチョキは出せないはず。ならばパーを出せば勝率が大きく上がるに違いない。


 問題はキャナリーがチョキを出した時。それに合わせてうまくグーを出す、これだ。これしかないっ!


 殿下は目を皿のようにして、キャナリーの右手に集中する。


「じゃんけんっ!」 パー、パー、パー。


 もう一度、パー、パー、パー。


 どうやらキャナリーも気づいたようだ。パーが連続する中で殿下はさらにキャナリーの右手に集中する。


 そしてついにキャナリーの手が変化した。この形は……間違いない、チョキだ!


 殿下は迷うことなくグーを出す。しかしその瞬間、サッとキャナリーが手を引っ込めた。


 何だ? 何をやった? もしかして後出しか?


 顔を上げた殿下が見た物は、右手ではなく左手でパーを出したキャナリーの満面の笑みだった。


「や、やっぱり卑怯だ~!」

「えへへ! 勝てばいいんだもんね!」


「……あいこ、じゃな」


 学園長の視線の先には、えっへんっ!と胸を張るリリスの姿。そしてその手の形は……


「チョキだって出せるモモ!」


 まさかの荒業(あらわざ)だった。



 これで戦いはまったくわからなくなった。リリスがチョキも出せるとわかった今、パーを出して勝率を上げる作戦はもう成立しない。


 いや待てよ? 殿下の頭にある考えが浮かぶ。一か八か、やってみる価値はありそうだ。


「じゃ~んけん!」


 仕切り直しの一回目、殿下が出した手はチョキ。そしてキャナリーとリリスはどちらもパー。


「よし、勝ったぁ~っ!」

「あう~、負けちゃった……」


 そう、キャナリはここまでパーしか出していなかった。それに気づいた殿下の完全な読み勝ちであった。



 これで決勝の組み合わせが確定した。


 アーシュラと相対するのは第三王子殿下。


 そこではどんな過酷な戦いが繰り広げられるのか、誰もそれを予想できる者はいない……。


次回、ついに決勝戦!

どんな戦いになってしまうんだろう、大丈夫なのか、この話!

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