60.戦いと魔法
魔法剣術の部、一年生の戦いは準決勝を迎えた。
最初の戦いはアーシュラ対カミオンである。
開始の合図に合わせて、中央で剣を構える二人。
アーシュラは今までどおり木製の大剣、対するカミオンが構えるのは同じく木製の、こちらは細剣だ。
「それでは存分に戦おうか!」
「いや待て、ちょっと提案がある」
「何だ、この期に及んで」
「ここに金貨が三枚ある、これで俺に勝利を売らないか?」
「ふっ、馬鹿も休み休み言え!」
「足りんか……ならば金貨五枚、いや七枚ならどうだ?」
「馬鹿め。その程度のはした金で、このアーシュラ・スフォルツァーテが転ぶとでも思ったか?」
「よし、それなら金貨十枚! これ以上は出せんぞ?」
「金貨十枚か……面白い!」
アーシュラが乗ってきたと感じたカミオンは、金貨をきっちり十枚袋に詰めて、アーシュラに投げ渡す。
アーシュラはその袋をパッと受け取ると、そのまま間合いを詰めて大剣をズバッ!と振り抜いた。
「金属武器の使用は禁止だ~~~っ!」
「忘れてた~~~っ! それと、お金返して~~~っ!」
叫び声だけを残して、カミオンの体は運動場の端まで吹っ飛んでいく。
記録はアーシュラの勝利、カミオンの反則負けということになった。
「ふう、危なかった。金貨十二枚だったら負けていたかもしれん……」
その勝利は見た目以上に綱渡りだったのかもしれない。
準決勝第二試合はキャナリー対殿下。
「そういえば、お前とは最初の授業で対戦したな」
そう、あの時はキャナリーが開始早々すっ転んで、殿下の勝ちになったのだ。
「今回はもうちょっとマシな戦いを期待しているぞ?」
「へへ~ん、今度は負けないもんね!」
「試合開始じゃ!」
二人が定位置についたところで、学園長の合図。
「リリス、行くよ!」
「ドドド……」
それと共に二人の呪文の詠唱が始まる。
「……、ドゴ~♪」
真っすぐに走りだすキャナリーに迫るように、殿下の土の魔法が地を駆ける。
「うわっ!」
キャナリーがそれを軽く飛び越える。
「ドゴ~♪ ドゴ~♪ ドゴ~♪」
「わわわ、危ないよぅ!」
殿下は土魔法を連射して、キャナリーを近づけようとしない。
子供のころからずっと山の中を走り回ってきたキャナリーの足は、誰もが驚くほど速い。それはまるで風の魔法をまとっていると勘違いするほど。
まずは土の魔法で足止めしてその速度を殺す。さらに地面を凸凹にして走りにくくする。それが殿下の作戦なのだ。
「……大丈夫モモ?」
「当たらなかったら平気かな、まだ走りやすいぐらいだよ?」
「くそ、甘かったか」
これまでずっと、そして今でも、キャナリが走り回るのは森の中だ。ところどころに木の根が出っ張っていたり、倒木があったりと、真っ平なんてことはあり得ない。
すこしぐらい運動場が凸凹になったぐらいでは、キャナリーの速度を落とすことなんて、元からできない相談だったのだ。
「まったく……なんてやつだ、こうなったら!」
殿下は意を決して、細剣を構えたまま今までよりも長い呪文の詠唱を始める。弱い魔法じゃ彼女は止まらない。それならもっと強い魔法を使うまでだ。
「ドドド……」
キャナリーを見据えながら呪文を唱える殿下、そしてそこに向かって風のように駆け寄るキャナリー。
キャナリーが一段、そしてさらにもう一段加速する。
呪文を唱えながら、辛抱強く機会をうかがう殿下。今、魔法を使ってはいけない。もっと引き付けて引き付けて、絶対に逃げられない距離まで引き付けないと……。
しかしその時!
ぶおぉぅぅっ!
突如運動場に突風が吹き抜けた。
風の魔法なのか? いやキャナリーは呪文は唱えていない。やはりこれは……無詠唱?!
「ドドド……」
風に押されたキャナリーが、まるで瞬間移動でもしたかのように殿下の視界から消える。
「ド?」「うわ~止めて~~っ!」
ごちんっ!
キャナリーはそのまま殿下に体当たり、というよりも、強烈な頭突きをカマしていた。
お互いあまりの石頭に、気を失ったのか二人とも立ち上がれない。
「これは……引き分けじゃな」
二人はすぐに目を覚ましたけれど、引き分けという結果が変わるわけじゃない。
「なんでこうなるんだ、まったく納得がいかんっ!」
憤慨する殿下。キャナリーはまだ頭を押さえて涙目だ。
「このままでは決勝戦が不戦勝になってしまうのう……仕方ない、ジャンケンで勝敗を決めるしかあるまい」
準決勝第二試合は、こうしてジャンケン戦に持ち込まれることになった。
「それではジャンケン、始め!」
「あ、待って待って!」
キャナリーはそれを止めると、まるで神に祈るように両手を組んだ。そしてその手を太陽の方に向けると下から覗き込む。
「な、なんだ、それは?」
「へっへ~ん、これで相手が何を出すか見えるんだよ!」
「なんだと、魔法か? 卑怯だぞ!」
殿下も真似してやってみたけれど、相手の手なんか見えっこない。
「それじゃ、いっくよ~! じゃ~んけんっ!」
キャナリーはパー、殿下はチョキ!
「よし、俺の勝ちだ!」
「う~ん、あいこかぁ……」
「何を言ってるんだ、俺が勝っただろ……え、なんだ?」
キャナリーが黙って指さす方向を見ると、そこにはリリスの姿が。そしてその手の形は間違いなくグー。
「ひ、卑怯だぞ!」
「なんでもありルールだもんね!」
殿下は学園長が何か言うかと思い、その顔を見たけれど、どうやらキャナリーの主張が認められたらしい。
「こんな不条理なジャンケンがあっていいのか……」
このまま続ければ殿下は負ける確率が高い。考えなければ……
そこで殿下はハッと気が付いた。リリスのあの手。あの形から考えて、まずチョキは出せないはず。ならばパーを出せば勝率が大きく上がるに違いない。
問題はキャナリーがチョキを出した時。それに合わせてうまくグーを出す、これだ。これしかないっ!
殿下は目を皿のようにして、キャナリーの右手に集中する。
「じゃんけんっ!」 パー、パー、パー。
もう一度、パー、パー、パー。
どうやらキャナリーも気づいたようだ。パーが連続する中で殿下はさらにキャナリーの右手に集中する。
そしてついにキャナリーの手が変化した。この形は……間違いない、チョキだ!
殿下は迷うことなくグーを出す。しかしその瞬間、サッとキャナリーが手を引っ込めた。
何だ? 何をやった? もしかして後出しか?
顔を上げた殿下が見た物は、右手ではなく左手でパーを出したキャナリーの満面の笑みだった。
「や、やっぱり卑怯だ~!」
「えへへ! 勝てばいいんだもんね!」
「……あいこ、じゃな」
学園長の視線の先には、えっへんっ!と胸を張るリリスの姿。そしてその手の形は……
「チョキだって出せるモモ!」
まさかの荒業だった。
これで戦いはまったくわからなくなった。リリスがチョキも出せるとわかった今、パーを出して勝率を上げる作戦はもう成立しない。
いや待てよ? 殿下の頭にある考えが浮かぶ。一か八か、やってみる価値はありそうだ。
「じゃ~んけん!」
仕切り直しの一回目、殿下が出した手はチョキ。そしてキャナリーとリリスはどちらもパー。
「よし、勝ったぁ~っ!」
「あう~、負けちゃった……」
そう、キャナリはここまでパーしか出していなかった。それに気づいた殿下の完全な読み勝ちであった。
これで決勝の組み合わせが確定した。
アーシュラと相対するのは第三王子殿下。
そこではどんな過酷な戦いが繰り広げられるのか、誰もそれを予想できる者はいない……。
次回、ついに決勝戦!
どんな戦いになってしまうんだろう、大丈夫なのか、この話!




