59.決勝トーナメント
明日から学園対抗戦が行われる、その前日の早朝。
昇り始めたばかりの朝日が横から照らす学園を、秋の冷たい風がヒュゥと吹き抜け、屋上に立てられた赤と青の旗がパタパタと音を立てる。
今日は中央魔法学園単独で開催される魔法剣術の部、その決勝トーナメントの日だ。
先日行われた予選で、一年A組からはキャナリーたち三人の他に、殿下とトルネ嬢、そしてカミオンの六人が勝ち残っている。
対戦相手の抽選も行われ、カミオンが第一試合、次に殿下、第三試合はアーシュラ対ショミンダ、そして最後はキャナリー対トルネ、という組み合わせに決まった。
「ふわ~、まだ眠いよ……」
「まだ時間がありますし、顔を洗ってきたほうがいいんじゃないですか?」
キャナリーはまだ目をこすっている。寝ぐせも酷い。
観客席を見ると、人はあまり集まっていない。観戦しているのはせいぜい、最初に戦う一年生たちのクラスメイト、それに教師などの関係者ぐらいだろう。
対抗戦は明日からなので、もちろん他の学園の生徒たちもいない。
しかしそんなことを気にする者はほとんどいない。これは他人に見せるための戦いではない。持てる力を発揮し、誇りをかけて戦う。そのための場なのだから。
学園長の簡単な挨拶のあと、ついに本戦が始まった。
「カミオン、また勝ったか」
「彼、あまり強そうに見えないんですが、何かあるんでしょうか」
気になるのは、負けた相手が喜びの表情を浮かべていることだ。「かなり儲かった」とか何とか、友人たちと話しているのも耳に入ってくる。
「殿下も勝ったね」
かなり剣術も使えるようで、堂々とした勝ちっぷり。
次は第三試合、アーシュラとショミンダの対戦だ。
予選の時と違って、今日は陰口は聞こえてこない。わざわざ早起きしてまで嫌がらせをするほど、彼らも暇ではなかったということだろう。
「ショミンダ、今日はお互い、正々堂々と戦おう!」
「嫌ですよ~、私は卑怯な手を使いますからね! それと、ちゃんと手加減してくださいね? でないと私、死んじゃいますからね! 絶対ですよ!」
離れたところで、お互いが武器を構える。
アーシュラはもちろん、木製の大剣。対するショミンダはというと、なんと釣り竿!
「私、剣なんて握ったことありませんし、一番手に馴染んだものを選んでみました」
なるほど、と言えばいいのか、そんな馬鹿な、と言えばいいのか。
「この竿、かなり高価ですから、傷つけないでくださいね? 泣いちゃいますよ?」
なんと、釣り竿を人質にしてアーシュラを牽制する作戦……言葉通り、ショミンダは卑怯だった。
釣り竿だと、例え当てても相手にダメージは与えられない。だけど大剣よりもはるかに長い上、軽くて取り回しも楽。これならしっかりと距離を取って魔法をぶち込める。
それにアーシュラの性格なら、友人の持ち物を傷つけることは嫌うはず。そこまでしっかり考えられた作戦だ。
この釣り竿、思ったよりも厄介かもしれない。
アーシュラはすぐにその事に気がついた。
目に前でふらふらと動く竿の先は、対して威力が無いように見えるけれど、もしも顔、特に目に入れば致命的にならないとも限らない。
だからといって剣で払っても何の手ごたえも無い。
何より、速いっ!
「ショミンダ、卑怯だぞ!」
「何とでも言ってください、勝負は勝てばいいんです、勝てば!」
まるであざ笑うようなショミンダの言葉に、アーシュラはムッとするどころか、逆に嬉しくなっていた。
戦いなどやったこともない友達が、一所懸命に作戦を立てて、本気で勝負しに来てくれている。それが何より嬉しい。
「よし、こうなったらっ!」
アーシュラは釣り竿を無視してショミンダに突進した。
「あ、待って! 釣り竿が折れちゃいますっ!」
ショミンダの悲鳴が上がる。
「どうせ、本当は安物だろうっ!」
「あ、やっぱりバレてました?」
ショミンダがアーシュラの性格を読んでいたのと同じように、アーシュラもショミンダの性格を完全に読んでいた。
「勝者、アーシュラ!」
次は準々決勝最後の試合、キャナリー対トルネ嬢。
彼女の登場に、三人娘たちの歓声が飛ぶ。
「お~ほっほっほ。完膚なきまでに叩きのめして差し上げますわ~!」
両手に派手な扇を持って、高笑いする令嬢。
いつもの縦三色ローブだけでなく、その金髪超二重ドリルの上には、レースでふんだんに飾り付けられたとんがり帽子が乗っている。
対するキャナリーは……大きな麻袋を引きずっていた。
「なんじゃ、その麻袋は」
「えへへ! 秘密兵器!」
「秘密兵器とはえらく物騒じゃな。いったい中に何を入れておる?」
袋をひっくり返すと、中から出てきたのは大量のいがぐり。
「こんな危険な物は禁止じゃ、禁止!」
「えええ~、木の武器は使えるって書いてあったよ!」
「ダメと言ったらダメじゃ!」
「困ったな、他に武器なんて無いし……あ、そうだ!」
キャナリーはポケットからドングリを一つ取り出した。
「ドングリ……ですわね……」
さらに麻袋のいがのトゲを一本折り取って、ドングリのお尻からまっすぐに突き刺す。
「それが……なんじゃ?」
「えへへ! これをこうするとね……」
キャナリーはドングリのお尻から飛び出したトゲを指で掴んで、キュルッと素早くひねる。
「ほら、コマになるんだよ!」
「……だから、どうしたんじゃ?」
「え? すごくない? う~ん、ダメかぁ……」
武器を用意された物の中から選ぶように言われ、キャナリーはしぶしぶ短めの木刀を選んだ。
戦う前から大きく肩を落としているキャナリー。早くも風前の灯だ。
「お~ほっほっほ、これはわたくしが勝ったも同然ですわね!」
「そんなの、やってみないとわからないもんっ!」
やっと審判から「始め!」の合図がかかり、二人は同時に動き出す。
二つの大ぶりな扇子を構えるトルネ嬢と、慣れない木刀を構えたキャナリー。
「まずは様子見だね」
「賛成モモ」
キャナリーは軽く素振りをしてみるが、どう見てもその動きは危なっかしい。
「お~ほっほっほ、それではこちらから行きますわよ。そおれっ! じょろ~♪」
トルネ嬢が手に持った扇子から、噴水のように水が噴き出す。
「まだまだ行きますわよ! それ、じょろ~♪ じょろ~♪」
今度は両手の扇子から水が飛び出す。
「リリス、どうしよう……すごい技だよ?」
「お~っほっほっほ、もちろんこんなものでは終わりませんわよ? じょろ~♪」
今度はとんがり帽子のてっぺんから水が噴き出した。
キャナリーも負けてはいられない。
「強敵だモモ」
だからと言って、いがぐりもドングリも封じられた今、キャナリーにできることはあまりにも少ない。
「ぐぬぬぬ……」
「それそれ~~! じょろ~♪ じょろ~♪」
トルネ嬢が扇であおぐと、それに合わせて噴水がより高く水を噴き上げる。
これは万事休すか?
「ま、負けないもん! リリス、行くよ!」
「やっちゃえ~モモっ!」
キャナリーは気合を入れなおし、全力でトルネ嬢に向かって駆けだした。
「お~ほっほっほ! じょろ~♪ じょろ~♪」
そんなキャナリーを無視して、トルネ嬢はさらに水芸を繰り広げる。
ぽかりっ!
「痛いっ! な、なんてことを! 酷いのではなくてっ?」
ぽかりっ! ぽかりっ!
駆け寄ったキャナリーが、隙だらけのトルネ嬢の頭を木刀でポカポカ叩く。
「痛いっ! 痛いっ! こ、降参! 降参ですわ~っ!」
「厳しい戦いだったね」
「どっちかというと完勝だモモ」
まるで薄氷を踏む割るなキャナリーの勝利だった。
これで四強が出揃った。
準決勝はアーシュラ対カミオン、そしてキャナリー対殿下。
戦いの行方は一体どこへ行ってしまうのか!




