58.戦いの舞台
時は数日前にさかのぼる。
中央魔法学園では臨時の職員会議が行われていた。
「魔法剣術の部……学園長、これは何ですか! このようなもの、侯爵家の方々はご納得しませんよ!」
「構わんよ、奴らが納得しようがしまいが、我らが魔法学園とは何の関係もあるまい?」
「しかし学園長、それでは尊き方々のご理解が得られません。このような……」
「ああ、しかとわかった」
学園長をやり込めたと思ったのか、かすかにニヤリと笑った相手に学園長の激しい言葉が飛ぶ。
「君は荷物をまとめて今すぐ出ていきなさい。もちろん明日から来なくても良い、いや、はっきり言おう。邪魔だ、二度と顔を見せるでない!」
「ちょ、そんな横暴なっ!」
魔法学園の教師たちの人事権を持っているのは学園長だ。どれだけ何を言っても、その決定はもう引っ繰り返らない。
「きっと後悔しますよ?」
捨て台詞を吐こうが、彼の運命は何も変わらない。
「中央貴族の意見に従うことが悪いのではない。この国の将来を担う子供たちのためになるかどうか、その視点を失っていることが悪いのじゃ」
先の対抗戦での剣術の部の廃止、それに最後まで反対し続けたのがこの学園長だ。
他の四学園が廃止を決定したため、泣く泣く受け入れることになったものの、わけのわからない中央貴族同士の勢力争いの結果に、黙って従うほど耄碌してはいない。
長い間、平和が続いてはいるが、最近になって東の果てからキナ臭い話も聞こえてくる。もしも自分で戦うことを忘れてしまえば、彼らは自分の未来をどうやって守っていくというのか。
「さて、皆の意見を聞こうかのう? 存分に議論してくれて構わんぞ?」
学園の教師は腰ぎんちゃくばかりではない。熱意ある意見が大きく取り入れられて、第一回魔法剣術の部の開催が正式に決定した。
学園対抗戦ではない、中央魔法学園の単独開催として。
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――告 魔法剣術の部 開催決定――
そんな文字が中央魔法学園の掲示板に踊った。
それは魔法も剣も何でもあり、学年ごとのトーナメント対戦。
何でもありといっても、もちろん相手を殺してはいけないし、降参を宣言したり、右手を上げて負けを認めた相手を追撃してもいけない。
参加は自由。もしも勝てば『初代・魔法剣士』の称号が学園長エライ=ヒカール・”キャトル”・ド・ルミナールの名によって与えられるという。
つまり、学年一位は誰か? それを決める大会だ。
掲示板の前に群がる学園生を遠目に見ながら、キャナリーたちは掲示板を無視して教室に向かう。別に興味が無いわけじゃない。ただ、事前にその内容を全部知っていた、ただそれだけだ。
最初は学園対抗戦の前日にすべてが行われる予定だったけれど、参加者が予想よりも多すぎたため予選が行われ、各学年八人が決勝トーナメントに進むことになった。
そして今日がその予選。朝からすでに何試合も行われ、弱者はふるい落とされている。
それでもアーシュラはもちろんのこと、キャナリーやショミンダも勝ち残っているし、A組では殿下やトルネ嬢、他にも数人がベスト十六に残っていた。
次の試合に勝てば次は準々決勝、決勝トーナメント進出だ。
「殿下が勝ちましたね」
彼は危なげない勝ちっぷりで堂々と駒を進めている。
カミオン、以前ショミンダに体当たりしてきたヤツも勝った。なぜか負けた方が大喜びしている。
「次はトルネだね! 相手は……クルル?」
キャナリーの疑問に、どこからともなくジャネが顔を突っ込んでくる。
「クルル・ビヨン・ド・クルクーレンね。トルネの遠縁の親戚にあたるらしいわ。彼も一応、私たちA組の一員よ?」
「え~? そんな人、いたっけ?」
「私も記憶にないぞ」
「ちゃんとクラスにいますよ、ほら、出てきました!」
「トルネさま~、負けないで~!」「がんばって、トルネさま~」
ものすごい声援を受けて運動場のコートに出てきたのはトルネ嬢だ。金髪に二重螺旋の超ドリル、いつもの縦三色のローブ、その手には扇を携えている。
そしてもう一人がクルルだ。トルネ嬢の縦ロールに対して、こちらは音楽室の肖像画のような見事な横ロール。
「今日こそはボクの横ロールが最強だってところを見せてあげるよ!」
「お~ほっほっほ、寝言は寝てからおっしゃいなさいませ!」
審判の開始の合図とともに動き出す二人。
「行くよ、ボクの必殺技!」
クルルは両側の横ロールに手をかけると、それを引っ張って伸ばしてからパッと手を離す。
ビヨンビヨンッ!
「どう? このボクのバネの素晴らしさが分かったかな?」
「お~ほっほっほ! それがどうしたといのかしら?」
トルネの二重螺旋の超ドリルが唸る!
ビヨンビヨンッ! ビヨンビヨンッ!
それは手で伸ばしたわけでもないのに、自然にビヨンッと伸びてはビヨンッと縮み、激しく振動を続ける。
「な、なんてことだ……ボクの完敗だよ……」
「勝者、トルネディアーネア!」
圧倒的なトルネ嬢の貫禄勝ちであった。
次の試合はショミンダ対ニュマエル。
「ニュマエル・ド・フィオール・ヤミノージュね、彼もA組よ?」
「ジャネ、良く覚えてるね……」
キャナリーならこの試合が終わったらもう忘れているだろう。いや、もう忘れているかもしれない。それに忘れても問題ない。
「僕の……魔法薬の……力で……」
「ざば~♪」
「ああ……魔法薬が……水浸し……降参……」
あっけなく勝負がついた。
次はキャナリー対デブリス。
いつもお世話になってるいし、やりにくい相手だ。
「私めの負けですぞ!」
「へっ?」
「このデブリス・デブラン、たとえ腐っても婦女子に手を上げることなどできませんぞ!」
試合開始を待たずして、キャナリーの不戦勝。
予選最後はアーシュラ対ホルホル。
大剣を手にしたアーシュラが出てくると、あちこちから嫌味な陰口が聞こえてきた。
「なんだか大人気だな?」
「ああ、暇な奴らだ」
陰口に眉をひそめるホルホルに、アーシュラは何事も無さそうに応える。
ホルホルは同じコードのメンバーで西の鉱山地帯出身。その体はがっしりとしていて、かなり鍛えられている。
その手に持つのは大きな木製のハンマーだ。
「ツルハシが良かったんだが、金属の武器は禁止だと言われてな」
「私もそれで、木剣になってしまったんだ」
審判の試合開始の合図で、両者ともに中央に足を進め、自分の武器を構えた。
ズトンッ!
ホルホルの木製ハンマーが地面を叩く。その大きな振動は観客席にまで伝わってきそうなほど。
もしもあんなものが体に当たったら、絶対にただでは済まない。
ズトンッ! ズトンッ!
当たれば必殺のハンマーの連射を掻いくぐり、アーシュラが間合いを詰める。
そしてホルホルがもう一度ハンマーを振りかぶろうとした時、アーシュラの木剣が彼の喉元にすっと当てられた。
「降参だ。ここまでは相手が怖がってくれたんだけどな。やっぱり本物の剣士には通用しないか」
「勝者、アーシュラ!」あ
二人はお互いの健闘を称え、握手を交わして引き返してくる。
最初はどうなるかと思ったものの、終わってみればアーシュラの順当勝ちだった。
これで予選は終わり、八強が出揃った。
次の戦いは決勝トーナメント、学園対抗戦の前日だ。
そこでいったい何が起こるのか、まだまだ予断は許さない。




