57.本当の秘密
「はぁはぁ……何とか逃げ切ったね!」
「大ピンチだったモモ!」
殿下が少し逃げ遅れたような気がしたけれど、なんとか全員無事に危機を逃れることができたようだ。
「しかし、どうしましょうか。もうあのドアは開かないでしょうし」
「屋根裏から忍び込むか?」
「この学園の建物って、屋根裏には盗賊返しの仕掛けがしてあるから、かなり厳しいわよ?」
「さすがは新聞部、すでにお試し済みでしたか」
「こうなったら小説みたいに修理の人に化けて……」
その手口はそれこそ小説の中の名探偵シャーロキュール・ホームソーが解決した事件そのものだ。
「その手は良くない、悪人のやる事だ。今、我々は名探偵なんだぞ?」
やはり騎士を目指す者として悪事には加担できない。
殿下も真面目な顔でそれに同意する。
「うう、ごめんなさい~」
「もしもやるなら、怪盗アシュッタに変身してからだ!」
「おい、ちょっと待て!」
「化けるなら大人の手助けが必要ですよ。私たちだと背の高さですぐバレてしまいます」
学園長室に火をつけて「火事だ~!」と叫ぶとか、学園長を拉致して秘密を吐かせるとか、話はどんどん過激かつ現実離れした方に向かっていく。
「本当に困ったわね」
もうこれは本当に手詰まりか。探偵団のみんながそう思った時……
シュパパパパッ!
目の前を鳥のように通り過ぎる白い影!
「だ、誰だ!」
「お~~~ほっほっほっほ! みなさん、お困りのようですわね?」
困り切った仲間の前に現れたのは、金髪二重螺旋の超ドリルに縦三色のローブ、もちろんその正体はトルネ嬢だ。
白い扇が本物の鳥のように空を舞う。
良く見ると扇には細い紐が結ばれていて、トルネ嬢が操っているようだ。
その鮮やかな手並みはまるで芸術のよう。
「おっほっほっほ、これがわたくしの新兵器なのですわ~~!」
「「「さすがトルネさま!」」」
困り果てた仲間たちに、最強の助っ人が合流した。
「それでこれが、開かない扉というわけですわね?」
「ああ、鍵穴が詰まってしまって、鍵があってももう開かないんだ」
「おっほっほっほ、この程度の事、わたくしの力でいくらでも解決して差し上げますわ! それっ!」
トルネは掛け声とともに、閉じた扇をシュパッと扉に向ける。
それを受けてササっと動き出す三人娘。その顔にはあきらめにも似た表情が浮かんでいる気がする。
ドンデンッガンデンッ!
大きな木づちを取り出した三人娘は、あっというまに扉ごと破壊して、部屋に入れるようにしてしまった。
「おっほっほっほ! このトルネディアーネアの辞書には不可能はありませんのよ。何と言ってもこの私、辞書など持ち合わせておりませんもの~!」
「のんびりはしていられないですよ」
「早く秘密を見つけないと!」
「そうだな、手分けして……って、ジャネ、何をしてるんだ?」
ジャネは学園長室の窓を大きく開け放っている。
「まずは退路の確保よ?」
「ああ、たしか『名探偵ホームソー対怪盗ロールパン』の……」
「だめ~言っちゃ駄目~! 私まだ読んでない~!」
キャナリーが両手で耳を塞ぎながら身もだえする。
「あ、こんなところに食べかけのパンが!」
「これは何でしょう……水虫の薬でしょうか……」
急いで探し回るけれど、決定的な秘密が見つからない。
「ああもう! カツラとか毛生え薬とか、何で無いのよ! こんなことなら仕込んでおけば良かったわ!」
ジャネの怒りが爆発しそうになる。
「誰じゃ! ワシの部屋で何をやっておるっ!」
「て、撤退!」
今度は逃げ遅れずに、しっかりついてくる殿下。いや、それどころか彼は先頭集団に混じって突っ走っている。
「お待ちになって~! このわたくしを置いてどこに行きますの~~っ!」
退却の最中、キャナリーが足を止めて学園長室の方を振り返る。
「全部わかった……。学園長室の扉を壊した犯人は、トルネ!」
それは見事な解決であった。
「何とか逃げ切ったね!」
小広場まで逃げてきた探偵団は、ほっと腰を下ろす。
「どうするんだ、この始末は。冗談では済まんぞ?」
「まあ、それは置いといて……」
殿下の追及をいったん棚に上げ、ショミンダが懐から何やら書類のようなものを出した。
「何だ? それは」
「手当たり次第に掴んだので、何とも……」
「魔法……剣術の……部? なんだろ?」
「魔法剣術の部、設立指示書、そう書かれてますね……」
さっと中身に目を通すと、それは魔法あり、剣術あり、なんでもありの戦いの部門を新設するための書類。
「魔法剣術……」
アーシュラの目にかすかな炎が浮かびあがる。
「あのタヌキ、なんていう秘密を……」
「さて、悪ガキども。その書類は返して貰おうかのう?」
ハッとして顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした学園長のエライ先生と、その腕にがっしりと捕まえられたトルネ嬢が立っていた。
「なぜこんなひどいイタズラをしたんじゃ?」
エライ先生がキャナリーたちに優しく問いただす。
「あの、先生……真実はいつも……」
「いつも、なんじゃ?」
「「「その場のノリ!」」」
めちゃくちゃに怒られた。
さて、新設されるという魔法剣術の部、このまま無事に開催されるのだろうか?
波乱の予感が一陣の風となって学園を吹き抜けていく。
戦いはまだ、終わって無かった!




