56.学園長の秘密を探れ!
「一次敗退、その程度の事は報告せずとも良い。三位、下がりなさい」
「はい。お耳汚し、失礼いたしました」
興味の無さそうな父親に、無表情のまま報告する息子。
しっかりとした礼を取り、第三王子殿下は父親の私室を後にする。
その背後で、重く分厚い扉がかすかな音を立てて閉じる。
第三王子殿下は真っすぐに前だけを見ながら、黙って中央宮殿から自室のある別館に向かう。
中央宮殿を出る直前、一人の貴人に横から声をかけられた。
「おお、三位ではないか、久しいな」
「これは王太子殿下。ご健壮なご様子、何よりでございます」
「今日は陛下に何かご用事か?」
「はい、学園対抗戦のご報告に」
「おお、もうそんな季節か。本戦は是非とも見に行かねばなるまいな」
「いえ、一次予選敗退でございます。お恥ずかし……」
「そうか、これからも励め」
さっと踵を返して立ち去っていく兄王子を目礼で送る。
「どうせ興味など無いだろうに」
ぼそっと聞こえないような小声で独り言をつぶやくと、王位継承権第三位の王子は真っすぐに自室へと向かった。
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学園対抗戦の一次予選は、大方の予想通り一年生からの通過者無しで終了した。
それから数日が過ぎ、まだまだ最終予選や本選、その観戦や応援などは残っているものの、すでに一年生は普段通りの授業に戻っている。
「ほんとにもう、あの程度のことで停学だなんて、あのハゲ教師って短気すぎますよね!」
「いや、あれはちょっとやり過ぎだったと思うぞ」
学園長のエライ先生に水をぶっかけて停学を食らったショミンダも、今日から元気に授業に参加している。
「それで私、お休みの間に考えたんですけど、あの学園長をちょっとギャフンと言わせてみませんか?」
「えええ~、また停学になっちゃうよ?」
あわててキャナリーが止めに入る。
「あら、面白そうじゃない、私も協力するわよ」
「もう、ジャネまで!」
魔法の代わりに泥団子を投げたことで、停学は免れたもののジャネもしっかりお説教を受けていた。
「そうだな。気分転換を兼ねて、やってみるか!」
「私、どうなっても知らないよ?」
ああ、これはもう怒られるの確定だ。
キャナリーはあきらめて参加することに決めた。誰よりもワクワクした顔で。
「まずは秘密会議だよね! どこでやろうか?」
「誰にも見つからない場所がいいな。あの小広場はどうだ?」
そこはアーシュラがいつも秘密特訓している場所だ。確かにあまり人目につかないし、都合は良さそうに思える。
「いえ、もっといい場所がありますよ」
あそこよりも良い場所?
ショミンダが見つめるその先を、仲間たちが目で追いかける。
そこには……
「何だ? お前ら、俺に何か用があるのか?」
「殿下って、コード会議のあの部屋の鍵を持ってますよね?」
「ああ、もちろん。それが何か……」
「そうか、その手があった!」
アーシュラがポンッと手を打ち、ニコニコしながら殿下をしっかりと捕まえた。
「なんだ、おい、やめろ!」
アーシュラの逆側から、キャナリーも笑顔で殿下の腕をしっかりと掴む。
「ど、どこに連れていくつもりだ? やめろ~~っ!」
声だけを残して、あわれ殿下は暴漢たちに、どこへともなく連れ去られていった。
「さて、どうやってあの学園長をギャフンと言わせるかですね」
「あのハゲ面、なんとかしてやらないとね」
コードの会議室、そこでは悪漢たちの悪だくみがひそかに進行し始めた。
ショミンダもジャネも、私怨を交えてやる気満々だ。
「思いっきりカンチョーをかましてやるというのはどうだ?」
「いやだよ、そんなの! だって臭そうだよ?」
「殿下は何か良いアイデアがありませんか?」
「なんで俺まで! 俺はやらんぞ?」
「何を言ってるのかしら。もう共犯で確定なのよ?」
「ちゃんとやろう! 中途半端が一番ダメなんだよ!」
どうにかして逃れる方法はないのか……殿下の頭はフル回転を始める。しかし残念ながら、良い考えは浮かんでこない。
「奴の秘密を掴んで、あっと言わせるのはどうだ?」
「それは良さそうですね! あのタヌキ、絶対裏で悪い事やってますよ!」
アーシュラの提案に、ショミンダが大きく頷いた。
「潜入捜査ね、面白そうだわ」
「名探偵ジャネキューㇽ・ホームソーの出番だね!」
「いえ、今回の名探偵は殿下に譲るわよ」
「おお! 名探偵殿下キュール・ホームソー、初出撃だね!」
「な、なんで俺が主役なんだぁぁぁっ!」
こうなったら、キャナリーたちはもう止まらない。
一度解散した面々は、名探偵の恰好をして再度集結することに決定した。
「おい、言われた通りに虫眼鏡は買って来たぞ。もう帰っていいな?」
他のみんなと同じように、殿下の頭には麦わら帽子、そして右手には新品の虫眼鏡が握られている。
「待って、その前に決め台詞だよ!」
「「「学園探偵団、真実はいつもある!」」」
「真実など、知らんっ!」
その瞬間、黄色探偵・殿下キュール・ホームソーが爆誕してしまった。
少し時を置いて、夕闇の迫る放課後の魔法学園。
その全く人気のない学園長室の前で、複数の麦わら帽子軍団がまるで何かを探しているように、虫眼鏡を片手に床を這いずり回る。
「あっ! これは!」
「何かみつけたの? キャナソン博士!」
「多分これ、ドングリの欠片!」
「スンスン……この香り、間違いないモモ!」
「これは正真正銘、悪事の証拠ですね!」
「ああ、ここがドングリ魔人のアジトに違いない」
キャナソン博士が便せんを一枚取り出し、見つけた証拠の品を丁寧に包み込む。
「やっと決定的な証拠を掴んだわね」
キラっと輝く眼鏡を人差し指でキュッと上げながら、ジャネソン博士が口角を上げる。
「待て待て待て、お前ら、ドングリぐらいどこにでも落ちてるだろうがっ!」
「あら? 殿下キュール・ホムソーのくせに、まだわからないの?」
「な、何がだ?」
「そう、今はまだいい。でもそのうちわかる時が来るわ」
(その場のノリなんだけどね……)
どうやら何か重要な秘密がありそうだ。そう感じた殿下は、突っ込みたい気持ちを抑えて口を閉ざした。
「それじゃ、学園長室に入ろう!」
がちゃがちゃ……
ドアに手をかけてみたけれど、どうやら鍵がかかっている様子だ。
「どうしよう、鍵なんか持ってないよ?」
キャナソン博士の困惑に、全員が殿下の方を見つめる。
「お、おい、さすがにここの鍵は持っていないぞ?」
「ダメですか……名探偵なのにまったく使えない」
「なんだと、おい、貴様……」
「まあまあ、興奮しないで」
ジャネソン博士が暴れ出しそうになった殿下を止めると、さっと懐から何かを取り出した。
「針……金?」
「ええ、これで鍵を開けてみましょう」
かちゃかちゃ……
まるで本物の盗賊のように、鍵穴に針金を突っ込んで開けようとする。
かちゃかちゃ……
「おい、まだ開かないのか?」
「もう少し、焦らさないでよ」
かちゃかちゃ……ポキッ!
「「「あっ!」」」
「これ……鍵があってももう開かないぞ……」
「撤退! 撤退だよ!」
キャナソン博士の号令で、探偵団の面々は大急ぎで学園長室の前から逃げ出した。
ただ一人、殿下を残して。
「お、お前ら~っ!」
全力で後を追いかける殿下の叫び声が誰もいない校舎の中で、まるでこだまのように響き渡った。
一瞬の戸惑いで窮地に立たたされた殿下。キャナリーたち探偵団の運命はいかに!




