54.学園対抗戦
魔法学園の新学期、キャナリーたちは秋の味覚を楽しみながら、王都を騒がす狼男の正体へと迫った。
怪盗たちの暗躍、その余波が大きな渦になって、学園対抗戦を揺るがし始める。
新章!
キャナリーを待つのは、誇りをかけた剣と魔法の大勝負!
~~中央学園新聞~~
《特報! 剣術の部、まさかの廃止に!》
五大魔法学園、その最大のイベント学園対抗戦が迫っている。そんな折、今年から剣術の部が廃止になり、魔術の部に一本化されるという驚くような情報が……
《怪盗ガゼッタ、狼男を退治!》
……
《運勢》
火 短慮は禁物!焦るな
水 時には大胆に
土 努力が実を結ぶとき
風 立ち止まって振り返れ
~~~~~~~~~~
冷たい秋風が吹く中央魔法学園、その掲示板。その朝、そこに張り出された新聞に多くの学園生たちが詰めかけていた。
「剣術の部、今年から廃止かぁ。まあ、参加者が少ないしな」
「あんな野蛮な物、そりゃ無くなっても当然だよ」
多くの者たちが冷めた目でその記事を語る中で、一部の者は激しく落ち込み、また一部の者は激しく憤っていた。
「なんで剣術の部ごと廃止になるんだ! 大剣部門だけ廃止になるように裏工作したはずだぞ! おかしいじゃないかっ!」
その怒りの声の元、それは一年A組のカミオンだ。
「細剣部門まで無くしてどうするんだ! それじゃ俺が、俺が目立てないだろうがっ!」
あまりの怒りに我を忘れているのか、表で言っちゃいけないようなことまで思いっきり叫んでしまっている。
「……おい、今の聞いたか?」
「裏工作だってよ」
「あいつ、たしかただの子爵家だぞ」
「子爵の分際で学園に裏工作かよ、そりゃ潰されるに決まってるわ」
「もしかして剣術の部が無くなったっていうのは……」
「多分あいつのせいだろうな」
最初は小声のひそひそ話だったのが、どんどん大きくなって広がっていく。
そして刺すような視線がカミオンに集中する。
「ま、待て! 俺は悪くない! そうだ、あいつだ、アーシュラ! 元はと言えば剛爵とか名乗っている、あのペテン師のせいだっ!」
さすがにそれは言いがかりだと誰にでもわかる。
どんどん冷たくなっていく視線。それに耐えられなくなったのか、カミオンは走って逃げだした。少し足を引きずりながら。
アーシュラはそんな騒動を全く表情を動かさないまま聞いていた。
いや、聞いていたかどうか疑わしい。その表情を見る限り、もう何も耳に入っていなかったに違いない。
「アーシュラ、大丈夫? しっかりして! って、ちゃんと聞こえてる?」
「あ、ああ、ちゃんと聞こえてるから、そんなに揺らさないでくれ」
ショミンダに体を揺らされても、まだ反応が鈍い。
「よし、私も! えいえい!」
「もっと行くわよ、ぶるぶるぶる~~っ!」
「おおいい、ややめめろろ~~~~!!」
さらに追加で揺らす、それどころかブルブルと振られて、アーシュラはやっとこっちの世界に戻ってきた。
「うん、ちょと復活したみたいだね!」
「それじゃあ、行きましょうか」
「行くってどこへ?」
「とってもいい所ですよ?」
「おい待て、どこに連れていく気だ? 授業は? おい、おいってば!」
アーシュラが引っ張って行かれた場所。それは昨夜まで特訓をしていたあの小広場だった。
「ショミンダ、こんなところに引っ張って来て、どうするつもりだ?」
「気合が抜けているみたいですからね、ちょっと荒療治です!」
そう言うと、ショミンダはアーシュラの背中に回って羽交い締めに押さえつけた。
「お、おい、何をする気だ?」
「キャナリー! コチョコチョしちゃって!」
「えへへ、了解!」
キャナリーが両手をワキワキしながらアーシュラに迫る。
「お、おい待ってくれ、冗談だよな? な? やめて~~~!」
…………。
「はぁはぁ……笑い死にするかと思った……」
アーシュラはやっと普段の表情に戻ったみたいだ。
「二人とも酷いぞ。私にだって落ち込む自由ぐらいはあるんだ」
「まだ言ってるよ? ショミンダ、どうする?」
「ちょっとコチョコチョが足りないみたいですね」
再びキャナリーが手をワキワキしながらアーシュラに迫る。
「わ、わかった! わかったから、もうやめて、いや~~~っ!」
…………。
「はぁはぁ……。二人とも、もしかして状況がわかってないんじゃないか?」
アーシュラが落ち込んでいたのは、剣術の部が無くなって活躍できなくなったなんて、そんな単純な話ではない。
学園対抗戦の剣術の部、もしもここで優勝すると騎士の士官学校の強者と対戦できる。そしてそれに圧勝すれば騎士になれる。
それは正式な騎士になるためのたった一本しかない細い道。それが完全に無くなったのだ。
ショミンダは苦い顔をしているが、キャナリーはやはり理解していなかったのか、説明してもホケ~とした顔をしている。
「つまり私はもう騎士にはなれないんだ」
「道が無くなったからなんだっていうんですか? 海の上なんて道は無いんですよ?」
ショミンダがなんだか正論っぽく聞こえる暴論をぶつけてくる。
それでもアーシュラが煮え切らない態度を取っていると、キャナリーがまた変なことを言い出した。
「アーシュラはそんな普通の騎士じゃなくて、もっとカッコイイ騎士になればいいと思う!」
「それってどんな騎士だよ!」
「だって、アーシュラは魔力があるでしょ? だから剣から炎をビュ~~ッて出したり、燃えてる剣で相手を引き裂いたり!」
「なんの冗談だ、それはっ! そんな剣術、見たことも聞いたこともないぞ!」
「あ、それはいいかも! つまりただの騎士じゃなくて、魔法騎士ですね!」
「おお~! かっこいい!」
アーシュラは何だか馬鹿らしくなってきた。
この二人と話をしても、おそらく問題は複雑になるだけで、まったく解決しない。
でも、なんとなくだけれど、道が見えた気がする。
そうだ、迷う必要なんてない。何も正式な騎士である必要はない。ただ、自分の心のままに、騎士として生きていけば良いのだ。
アーシュラはいつの間にか、完全に立ち直っていた。
それに魔法騎士! なんだかとてもワクワクするじゃないか!
ここが魔法学園である以上、魔術の部は全員参加。しかし気分は、そう……
「魔術の部へ。全身全霊で殴り込みだ!」
今回はアーシュラの章!
行け、アーシュラ、勝利を目指して!




