53.怪盗ガゼッタ参上!主役奪うぜ!
狼男の謎、解決編!
キャナリーたちから離れ、ここから物語は、しばらく全く別の場面に移り変わる。
場所は王都、とある高級貴族の屋敷の屋根の上。
そこに座り込み、何事かをぼやいている男の姿。
「全く俺としたことが、下手を打ったもんだぜ」
それは王都を騒がす怪盗ガゼッタ、その本人だ。
「まさかあの狼の群れがケチのつき始めとはな……」
王都に狼の群れが入って来たというニュース、それを嗅ぎつけた怪盗ガゼッタは一計を講じた。
狼男が出た、そんなうわさを流したのである。
けむくじゃらの変装をして、複数の貴族屋敷に何度も侵入してまで流したそのうわさ、うまく王都中の話題にはなったものの計画自体は失敗だった。
狼男から王都を守ろう、そう動いて屋敷の警備が手薄になるかと思っていたのだけれど、ふたを開けてみればまったくそんなことはない。
ぶくぶくと肥え太った貴族たちは町を守るよりも、ただ自分の屋敷を、身を、財産を守ることに大忙しで、町の治安を守るなんて、殊勝な思いはどこにも無かった。
「トアール伯爵などはさすが、粋だねえ」
けむくじゃらの変装で、その屋敷にまで侵入してやったというのに、数少ない騎士を繰り出して王都の警備についている。これが辺境の外国勢のやることだと思うと涙が出てくる。
まったく王都の豚どもにも、その爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだ。
それにしても毎日が忙しい。
ターゲットにしていた屋敷の警備は厳しくなっている。それだけでなく狼男のうわさのせいで、それに興味をもった子供たちが危険なことをして、襲われる事件まで発生している始末。
その対応で毎晩のように深夜の巡回を行っているのだ。
「ああ、今夜はもう疲れた……そろそろ切り上げるかね……いや、寝る前に魔法学園を一回りするか」
怪盗ガゼッタは重い腰を上げ、王都の闇の中に溶け込んでいく。その姿を追うものは誰もいない。
~~~~~
その翌朝、王都は一枚のカードを前に大騒ぎとなった。
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ヤッテラーレン卿
貴殿が受け取られた偽物のサファイヤ、たしかにお預かりしました。
怪盗ガゼッタ
――――――
「な、なんじゃこれは! あのサファイヤ、あれが偽物だったというのかっ! おのれ、この私をたばかるとは! ヨルシエめ、ただでは済まさんぞ!」
激怒するヤッテラーレン卿の声を遠くに聞きながら、怪盗ガゼッタはほくそ笑んだ。
怪盗ガゼッタといえば、盗む物は銅貨など、ごく安価なものばかり。犯行現場にカードまで残してそういう印象を積み上げてきたのだ。
だからこそ、この『偽物』という言葉が効く。
今日狙う獲物はもう一匹。
まさか一日のうちに二件も盗みに入るとは誰も思うまい。
怪盗ガゼッタは暗い笑みを浮かべながら、その現場を後にした。
~~~~~
ここは豪商ダメダメールの屋敷。
贅を凝らしたその屋敷の中には、多くの警備員でごった返していた。
その理由は簡単、数日前に怪盗ガゼッタからの「近日参上」との予告状が届いたからだ。
それからは警備員の数を倍に増やしているが、あまりにも心配で夜も眠れない。ダメダメールの両眼にはしっかりとクマができていた。
盗みの予告を受けた金塊の前には、数人の警備員が交代で詰めている。そんな簡単には盗み出すことなどできるわけがない。
銅貨一枚ならともかく、相手は大きくて重い金塊なのだ。運び出すだけでも一苦労、それを誰にも見つからずにやり遂げるなど、たとえ怪盗ガゼッタでも無理に違いない。
そうは思うものの、相手は怪盗ガゼッタ。これまで幾多の不可能にも思える盗みをやってのけた盗みの天才である。やはり安心することはどうしてもできなかった。
「おい、金塊は無事だろうな!」
心配のあまり、ダメダメールは警備責任者に怒鳴りつけるように問いただした。
このところずっとこの調子で、警備責任者も少し辟易しているけれど、そこは雇い主の事。何食わぬ顔で質問に応じる。
「はい、先ほど警備員も交代したところです。全く問題は……」
しかしその言葉は警備員たちの言葉で止められた。
「た、大変です! 金塊がっ! 金塊が土くれに変わってますっ!」
「な、なんだと!」
急いで駆けつけた警備責任者、そして豪商ダメダメールの目の前には、ただの土くれのかたまりが、そして一枚のカードが置かれていた。
――――――
豪商ダメダメール殿
貴殿が貯め込まれていた狼男対策の費用につき、狼男を討伐したこの怪盗ガゼッタが確かにお受け取りいたしました。
怪盗ガゼッタ
――――――
「や、やられた……」
ダメダメールは力を失い、床に膝をついた。
「ふう、思ったよりも簡単だったな」
警備員の変装を解きながら、怪盗ガゼッタはひとりごちる。
そのすぐ横には同じくしっかりした体つきの警備員が二人。
「まさかこの警備員がゴーレムだったなんて、誰も思うまいよ」
土ゴーレムの姿で屋敷に入り、金塊ゴーレムになって出てきた。怪盗ガゼッタにとっては、たったそれだけのことだ。
その夜、狼男騒動に乗せられて事故にあった子供たちの家に、誰からともなく金貨が配られた。
「きっと怪盗ガゼッタだ!」
「やはり彼は義賊だ!」
そんなことを口々に叫ぶ民衆を、怪盗ガゼッタは遠い屋根の上から、暗い笑みを浮かべながら見つめていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これで第七章は終わり、次回から第八章!
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