52.勝利の誓い
少し胸糞展開があります。ご注意ください。
タッタッタッダダダダッ!
突然に響いた足音に振り向くと、その主が避ける素振りもなく突っ込んできた。
「痛っ!」
「おいこら、どこで突っ立ってるんだ! ぶち殺すぞ!」
その人影はショミンダに体当たりをかましたかと思ったら、謝罪もせずに恫喝してくる。
たしかにショミンダはしっかり気配を殺していた。だからといってこれはあんまりだ。
キャナリーがその顔をしっかりと睨みつける。たしかそれは、同じA組の荒くれ者、カミオン……。
「まったくクソのような貴族モドキどもが!」
アーシュラがニッと口角を上げ、黙って剣の柄に手をかけた。
この阿呆はこの場で真っ二つに斬る! 切り捨てる! その声も出さない激しい気合が、瞬く間に周囲を包み込む。
「あ~もう、ひどいですよね。ローブが土まみれですよ」
まるでその気合をはずすように、ショミンダがのんびりした声で起き上がった。同時に、アーシュラの剣の頭に手を伸ばして止めている。
そしてカミオンの方に向き直り、スッと目を細めると、小声でこう告げた。
「……精霊に嫌われるわよ? 呪われるかも」
「な、呪い、だと? 馬鹿を言……痛いっ!」
呪いと聞いたカミオンは思わず後ずさりして、そこに落ちていたいがぐりを思いっきり踏みつぶした。そのトゲは靴底をしっかり貫通するほど鋭い。
さらにその勢いで尻餅をついた先には、いつの間にか大量のいがぐりが……。
「痛いっ! 痛いっ! 痛いっ!」
まさかこれは本当に?
カミオンは足を引きずって、というよりも片足で跳びはねながら、捨て台詞も言えないままに逃げ去っていった。
「ひどいよ、ショミンダ! リリスは呪ったりなんかしないのにっ!」
「この季節ですし、偶然ですよね、ぐ・う・ぜ・ん!」
もちろんそこまでの偶然があるわけがない。
何も言わなかったけれど、アーシュラの優れた動体視力は、ショミンダが拾い集めていたいがぐりを彼の足元にまき散らす姿をはっきりと捉えていたのだから。
「栗……踏まれてつぶれちゃったモモ」
「ごめんね、あげる約束だったのに」
「またみんなで栗拾いしよう!」
「そうだな、それがいい!」
「いがぐりはとっておいて、試合前にあいつの靴の中に入れちゃいましょうね!」
「中身はダメモモ。でも殻だけならいいモモ!」
「あはは、でも卑怯なことはやめ……いや、ちょっとぐらいにしよう!」
剣を抜かずに済んで良かった、そうアーシュラは思う。
戦うのは今じゃない、どうせ大会で出会うことになるのだ。
「ねえ、二人に見てもらいたい場所があるんだけど、いいかな?」
そこは生きようと思う力をもらえる、そんな特別な場所。
「今夜はやめて、明日にしないか?」
「駄目、今夜じゃないと」
だって今夜は満月、生命が激しく輝く日だから。
まだ殺伐とした空気が残っている中でキャナリーが二人を案内した場所は、学園の森の奥深く。少し開けた場所に堂々とそびえた大木。
ドングリの王様の木。
「なんとも……立派な木だな……」
何本も絡まるように生えた枝の先で、大量に実るツヤツヤのドングリ。その実が満月の光を浴びて、キラキラと星のように輝く。
根元から見上げると、まるで天の川の中にいるかのようなきらめき。
「え~い!」
キャナリーがそのゴツゴツした極太の幹に抱きついた。
その真似をしてアーシュラとショミンダも。
「三人だと全然届きませんね……」
「なんだか、おひさまのような匂いがするな」
ドングリの王さまの木。こうしているとその圧倒的な生命の輝きが、体の隅々まで流れ込んでくるかのようだ。
「……私は……勝つよ」
他の二人には聞こえないような小さな声で、アーシュラは勝利を誓う。
「そうだよ、アーシュラは絶対に勝つ!」
「ですね、誰にも負けっこありません!」
とんでもないプレッシャーをぶつけてくる地獄耳の二人に苦笑しそうになりながら、アーシュラもまた大きな声で宣言した。
「私は絶対に勝つ!」




