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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第七章 狼男!篇 (一年生後期)

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51.アーシュラ立つ

 真っ青な顔をして立ちすくむキャナリー。ショミンダはその手を引っ張るようにしてアーシュラの元に急いだ。


 あれが何なのかはわからない。でも早く合流した方がいいに決まっている。


 そしてアーシュラのいる小さな広場についた時……


「くか~」


 やっぱり寝ていた。


「ていっ!」

「い、痛いっ!」


「なんで今夜も寝てるんですかっ!」

「すまん、連日の特訓の疲れが……」


 ショミンダの情け容赦ないキックで目を覚ましたアーシュラは、キャナリーの泣き出しそうな様子に言葉を無くした。


「何があった?」

「その前に、まずはこれを」


 アーシュラは報告書をショミンダから奪い取るようにして手に取ると、それをすぐに蝋燭の火であぶる。


 にゅま まほう きけん

 くるくる まほう びよんびよん


「……なんてことだ」


 アーシュラの顔が悲痛にゆがむ。


「……全く意味が分からん!」


 キャナリーの目からついに涙がこぼれた。


「いや、すまない、そういうつもりじゃ……」


「うわ~ん、通信機が壊れちゃったよ~! まだショミンダとしか遊んでなかったのにい~~!」



 少し落ち着くのを待ってから、アーシュラはショミンダの報告を聞いた。


「そうか……ありがとう、よく教えてくれた。感謝する」

「いえ、そこはもうほら、友達ですから!」


「でも駄目なんだ。私が出場するのは剣術の部、魔法は禁止だから関係ないんだ……」

「およびで……ない?」


 アーシュラが深く首肯する。


「私が必要だったのは、剣を振っている様子だったんだよっ!」


 アーシュラの叫びが、ほぼ真ん丸の月明りの下で空しく響いた。



 混乱の後、今度はキャナリーが口を開く。


「あの風みたいなの、あれは何だったんだろ? 狼男?」

「それにしては遠吠えは聞こえませんでしたね。学園生の可能性のほうが高いかと……」


 後からよく考えたら、狼男だとしたら二人に襲い掛かってきたはずだ。でもそうではなく、ただ二人の間を走って通り過ぎただけ。通信機の毛糸を引きちぎって。


「もしかしたら、剣術の部の出場者かな?」


 剣術の部、その言葉を受けて、アーシュラの瞳に力が宿った。


「そんなに速かったのか?」

「暗がりだったから良く分からなかったけど、すっごく速かったよ」


 一瞬で見えなくなったのもあるけれど、長い毛糸を地面に引きずることなく駆けていった、それだけは間違いない。


「キャナリー、同じ毛糸は持ってるか? 試してみたいんだが」

「もうないよ、新しいのを買わないと」


 おこづかいの財布はもう空っぽで、また週末にアルバイトをしてお金を貰わないと新しい毛糸も何も買えない。



「そうか……ならば、明日の夜は私も視察に出よう」

「特訓はどうするんですか?」


「なあに一晩くらい、やらなくても大丈夫だ!」

「はぁ、きっと我慢できなくなるって思っていましたよ……」


「これで怪盗団がそろったね! 使命は一つ、毛糸を取り返そう!」

「「ええ~~?」」


 噛み合っていなかった。



 ~~~~~



 翌朝の教室。


 この一年A組の中には、一人だけ、狂犬のような者がいる。


 カミオン・ヨルシエ子爵令息。


 アーシュラと同じ、火の魔力の持ち主。


 最初の授業の時、担任のエライ先生に楯突いて退出した生徒だ。


「ふん、俺に何か文句でもあるのか!」


 また今日も誰かに噛みつき、捨て台詞を残して一人どこかに出ていった。



「いつもながら嫌な態度だな」

「情緒不安定すぎて笑えますよね」


 アーシュラが吐き捨てると、ショミンダもそれに頷いた。


「カミオン、あの子には秘密がありそうよ」

「なに? ジャニは何か知ってるの?」


「まだしっかり調べたわけじゃないけどね。でも夜になるとね……」


 今夜は満月。


 彼の秘密はそれと関係があるのだろうか。



 ~~~~~



 東の空に丸い月が赤く浮かび上がる頃、三人の怪盗たちはしっかりと準備を整えて、学園の陰に潜んでいた。


 満月。それが理由か、昨夜にはなかったというのに、狼の遠吠えが遠くから聞こえてくる。


「今夜こそ、秘密特訓の現場を見つけるもんね!」

「それに、昨夜の風の正体ですね」

「ああ、行くぞ! ……って、ショミンダ、いや、怪盗ショミッタ、何をしてるんだ?」


 見ると、怪盗ショミッタはたくさん落ちているいがぐりを拾い集めている。


「あ! 一人だけ栗拾い! ずるいよ!」


「違うわよ? いざとなったらぶつけてやろうかと思って。あとでリリスにあげるね?」

「やった~モモ!」


「奥の小運動場が怪しいな」


 リリスのお友達情報からそう判断したアーシュラに従って、そのまま三人は現場に向かった。


 生ぬるい風が辺りから吹き寄ってくる。


 それにガサッ、ガサッと草むらを揺するような音。昨夜と同じ学園なのに、何か違う気配が漂う。


 バタッ! バサバサッ!


 何かが倒れるような大きな音、それもかなり近い!


 間違いない、小運動場だ!


「行ってみよう!」

「そうだね、行こう!」


 怪盗たちはいっせいにその足を音がした方向に向けた。



 その時!


 バシューーーン、タンッ!


 闇を引き裂く音!


 地面に突き刺さり、風を受けてクルクル回る赤い風車(かざぐるま)



 そこには毛糸の束と、小さなカードが一枚ぶら下がっている。


「あ、私の毛糸!」


 声を弾ませるキャナリーの横で、アーシュラが顔色を失った。


「カードの方は……死ぬぞ……小運動場……近寄るな? ……怪盗ガゼッタ……」

「怪盗ガゼッタ! でも……なんで?」


「一度、引き返そう。本当に危ないのかもしれん」


 ショミンダも声を出さずに首を縦に振る。カードを見てからというもの、気配を消したままだ。


 赤い風車を持ったまま、三人は元来た道を引き返していく。あの先、小運動場にはきっと、遊びでは済まない何かが待ち受けていたのだと。



 しかしそんな彼らの後ろからは、何者かがすぐそばまで迫っていた。


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