48.狼男を追え!
ちょっと新展開!
「おい、聞いたか? また狼男が出たらしいぞ」
「最近よく聞くけど本当なのか?」
「ああ、まあ聞けよ、実はここだけの話だがな……」
教室でまたクラスメイトたちがうわさ話をしている。
ここ最近ずっとだ。
キャナリーは軽く身ぶるいすると両手で耳を塞いだ。まったく狼男だなんて。ドングリ男の話なら良かったのに。
「狼男、いるわよ?」
机に突っ伏しているキャナリーに口をつけるぐらいに近寄りながら、ジャネがささやく。
「ええ? ジャネ、もしかして見たんですか?」
「ああん、もうやめてよう!」
「なんでそこまで。もしかして何かあるの?」
「え、あ、う……な、内緒! 内緒だよ!」
口の前に指でバッテンを作る。
そう、あのことは誰にも喋っちゃいけない。トアール屋敷で見た、あの謎の影については。
もしかしたら悪い人、いや悪霊だったのかもしれない。もしも目撃した事を知られたら襲われることだってある。自分だけじゃなく、友人たちまでも。
狼男。
もう早く消えて欲しい、キャナリーはそう願う。
「そういえば、アーシュラは遅いわね」
「ええ、さすがに遅すぎますよ」
朝はいつも早起きしてトレーニングしているはずだ。今朝は出会わなかったけれど、早朝の散歩のときに剣を振っているのを時々見かけることがある。
キ~ンコ~ン♪
本鈴の鐘が鳴ってもアーシュラはやってこない。
エライ先生が少し遅れて入って来て、その理由の説明がないまま、彼女がいないまま授業が始まる。
そしてその日、アーシュラは最後まで教室に顔を出さなかった。
~~~~~
放課後になってキャナリーとショミンダは、アーシュラの南寮へと足を向けていた。
「一日中来ないなんて、絶対おかしいよ!」
「はい、何かあったに違いないです」
いったい彼女に何があったのか。まさか狼男に襲われたのか?
エライ先生が遅れたのは、もしかしてそのせい?
気が急く二人は、いつの間にか早足になっている。
「南寮、ここだね!」
「部屋に急ぎましょう」
寮監さんに部屋番号を聞いて、急いで階段を駆け上がる。
「……アーシュラ?」
部屋をノックしても、呼びかけても返事が無い。
「いないのかな?」
「入りましょう」
緊張しながらドアノブを回し、二人はゆっくりと部屋の中に入っていく。
「あ、アーシュラっ!」
そんな二人の目に、ベッドの横に倒れるように転がるアーシュラの姿が飛び込んできた。
その不自然な姿勢。
そして部屋の中に漂う異臭……。
顔を青くしたショミンダが必死に駆け寄る。
「アーシュラっ! 大丈夫? 起きて!」
「アーシュラぁっ!」
「くか~……」
かなり焦って抱き起こそうとした二人の前で、アーシュラは鼻ちょうちんを作りながら、異常なほど汗臭い状態で、すやすやと寝入っていた……。
ぱちんっ!
立派な鼻ちょうちんがリリスに突っつかれて、音を立てて割れた。
~~~~~
「ははは、面目ない……」
アーシュラは叩き起こされて、キャナリーとショミンダの前で正座させられていた。
「ちょっと汗臭すぎます! ほんと、吐きそうになりましたよ!」
ショミンダはまだ気分が悪いのか、顔が青いままだ。
キャナリーが窓を開けてパタパタと手で扇いでいるけれど、酸っぱい匂いはこもったまま。これはちょっと場所を変えないとショミンダの命が危ないかもしれない。
「それで、何をしていたんですか?」
寮から出て命の安全を確保してから、改めて話を聞いてみる。
「いや、そうだな、どこから話そうか。もうじき学園対抗戦があるのは知ってるよな?」
「中央学園だけじゃなくて東西南北の四校も含めて、代表者が戦うっていう、あれですよね?」
「ああ、そうだ。そこに剣術の部っていうのがあってだな、そのために特訓していた」
アーシュラが腰の大剣の柄をポンッと叩く。
「大剣と細剣、しっかり両方ともあって、私は大剣で出るつもりなんだ。やっぱり実戦はそっちだからな」
もしもこの対抗戦で優勝すれば、若手騎士たちの士官学校の生徒の大会に出場することができ、さらにそこで優勝すれば、本物の騎士への道が開けるのだという。
「本物の騎士? すごいねっ!」
「な、なんでそんな大切な話、黙ってたんですか!」
「いや、ほら、まず負けるし、負けたら恥ずかしいだろ?」
正直な話、ほぼ勝てない。
それは五つの魔法学園だけでなく、士官学校の生徒たちも含めた剣の頂点。
しかも一年生だけで戦うわけではない。最高学年の年齢は十五歳なのだ。まだ十歳のアーシュラにはとてもかなうはずがない。
「それでムキになって剣を振っていたんだ。どうせ勝てないし、やめた方がいいよな……」
アーシュラのあきらめたような乾いた笑いに、キャナリーが噛みついた。
「そんなの、やってみないとわからないよ! 勝てるかどうかはわからないけど、挑戦しないと絶対勝てないんだから!」
「その通りモモ!」
「そうか、そうだよな。まあどうせ駄目で元々だ。精いっぱいやってみるか!」
「うん、その調子だよ!」
それは最近どこかのソヨ婆さまから聞いた話、ただの受け売りだ。しかし、その言葉はそれなりに、アーシュラの心に届いたようだ。
「でも授業は出ないと駄目です!」
「……はい」
アーシュラによれば、他にも夜中に特訓している人たちはけっこういるらしい。
「私たちは私たちにできることをしましょう」
「うん、敵の偵察だね!」
夜の闇の中での敵情視察。絶対に誰にも見つかってはいけない。
二人と一匹は、その過酷な任務に今、立ち向かう!




