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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな


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05.ソリで勝負!

 真っ白な雪が山を、森を、そして村を覆い尽くしている。


 冬。


 何もかもが白く、吐く息までも白い。周りのすべてが、音さえも雪で閉ざされる、そんな真っ白に塗りつぶされた世界。


 裏の大きなクルミの木も、暖かそうな葉っぱを脱ぎすてて、白い雪の衣に着替えていた。



 いつも元気なキャナリーだけど、実はちょっとだけ冬が苦手だ。


 寒いのもそうだけど、深い雪にズボズボはまって自由に走り回れないし、もしも吹雪になってしまったらもう大変。


 屋敷のすぐ横にいるはずなのに、屋敷がどっちにあるのか、それどころか、どっちが上でどっちが下なのかもわからなくなってしまう。


「そろそろ起きるモモ。もう吹雪はやんで、晴れてるモモよ?」

「う~、わかったぁ~」


 キャナリーはモゾモゾと起きだして、毛布の中で着替え始める。まったくとんだ横着者だ。


「冬はドングリないのに、リリスは平気なの?」

「大丈夫モモ。ちゃんといっぱい貯めてあるモモ」


 リリスはやっと着替え終わったキャナリーの肩に軽く飛び乗って、引っ繰り返ったえりを引っ張り出す。


 ぐうたらしているように見えて、リリスは思いのほか働き者だった。



 家族で朝食をとり、いつものように外に遊びに行こうとしていると、玄関からイモーティの声が聞こえてきた。


「雪もやんだし、一緒にソリで遊ばない?」

「い、行く~~~っ!」


 キャナリーは二つ返事。


「俺も行くぜ、イモーティとはまだ決着がついていないからな」


 どうやらサブロ兄も参戦するらしい。


「臨むところよ! 私の『淑女の気品号』の速さについて来られるならね!」

「ふん、俺の『熊殺し号』の速度に腰を抜かすなよ?」


 こうして今日は突如、三人でソリ対決が行われることになったのだ。



 冷たくて寒い冬だけど、ソリ遊びだけは特別で最高だ。


 それに、今までは他の人のソリに乗せてもらうだけだったけれど、今年のキャナリーは一味違う。ちゃんと自分専用のソリがあるのだ。


「へっへ~。ジロお兄ちゃんに自慢のソリをもらったんだもんね~」


 そう、キャナリーのソリ、『疾風号』は、村の中で最速を誇る、ジロ兄のソリをそのままもらい受けたもの、チャンピオン・マシンなのだ。


「キャナリー、ずるいわよ! ソリは自分で作らなくちゃ」

「そうだぞ、卑怯だ」


 二人とも、自分で作ったみたいなことを言っているが、イモーティのソリは姉と一緒に作った物だし、サブロ兄のソリはタロ兄のソリを修理・改造した物。


 つまりここにはオリジナルのソリは一つも無かった。



「よ~し、それじゃあ、ジャンケンだ!」

「負けないもん!」

「いいわよ。それじゃ、じゃんけん……っ」


 グー、パー、パー。


 サブロ兄の負け。


「くっそぅ、次は負けんっ!」


 負けたサブロ兄がまとめてソリを引く係、勝った二人はソリに乗る係だ。


 さらさらの雪が膝まで積もっている。キャナリーの家からついてきたブチが手伝ってくれるとはいえ、結構の重労働だ。


 ソリはしばらく進むと一度止まる。


「次のジャンケンだ!」

「ええ、かかってきなさい!」

「また勝っちゃうもんね!」


 チョキ、グー、グー。


 またもやサブロ兄の負け。


「な、なぜだ、なぜ勝てない……」


 またサブロ兄がソリを引いていく。キャナリーとイモーティはソリの上で大はしゃぎだ。


 こうしてサブロ兄がほとんどずっと一人でソリを引き、へとへとになりそうな頃に、ようやく丘に到着した。



「ふう~、やっと着いたぁ」


 まだ足あと一つついていない、真っ白な小高い丘が二つ。


 いつ誰が名付けたか、なぜか通称、地獄谷。二つの丘が並んだここはソリ遊びには最適で、子供たちに代々受け継がれてきた特別な場所だ。


 丘からもう一つの丘を目指して滑り降りると、ソリはその勢いでもう一つの丘に登って止まる。つまりここでは頑張って何度も登らなくても、繰り返し滑り降りることができるのだ。


 丘の上から降り積もった雪がキラキラと輝く斜面を見下ろす。


 そこには足跡も何も残っていない、まだ真新しいふかふかの雪が、まるで銀色の絨毯のように向かいの丘までずっと広がっていた。


 もしも三人が登ってきた足跡がなければ、雪の妖精の国に迷い込んだのかと勘違いするくらいだ。



「それじゃ、まずは小手調べね」

「おうよ!」


 いきなり勝負ではなく、まずはそれぞれ思い思いにソリを走らせ始める。


 シュパッ! シュパシュパッ!


「よぉし、私も!」


 イモーティ、そしてサブロ兄が、降ったばかりの雪を粉のように巻きたてて滑り降りていくのを見て、キャナリーも気合を入れてソリに乗り込んだ。


 へろへろ~、へにょ~~~ん……。


「あれ? あれ~?」


 キャナリーのソリはゆっくりと滑りだすと、ふわふわと丘の合間を通り過ぎ、向かいの丘を少しのぼったところで止まった。見上げると、二人はすでに丘の上まで到達している。


「なんで~~! 最高のソリなのにぃ~!」


 雪に埋もれながら、ソリを引っ張ってのろのろ丘をのぼるキャナリー。見かねたのかブチが駆け寄って、後ろから押してくれる。


「ちゃんと手入れしてないんじゃないの?」

「そんなことないもん。ジロお兄ちゃんにしっかり見てもらったもん」


 三人はもう一度滑り出すが、結果は同じ。キャナリーだけが一人取り残されてしまう。


「ジロ兄のソリだから警戒してたけど、これなら勝負にならないな」

「ええ、そうね。つまり私たちの一騎打ちよ!」

「おう、望むところだ!」



「うわわ、……ぺっぺっぺ」


 今度は同時に出発できたけれどすぐに引き離されて、二人のソリが飛ばす粉雪まみれになってしまった。


「きっと勢いが足りないモモ!」

「勢い、う~ん、勢いかぁ」


 ソリの勝負というのは、実はソリの性能もさることながら、最初に押す勢いでほとんど勝負が決まる。いくら元チャンピオンのソリでも、滑り出しの勢いがまったく足りないキャナリーでは、勝負は最初からついていたのだ。



「そろそろ本番といこうか」

「ええ、勝つのは私よ!」


 二人からは完全に相手にされてなかったが、実はキャナリー、まだあきらめていない。


「リリス、行くよ! 絶対あきらめないんだから!」

「もっといっぱい勢いをつけていくモモ!」


 丘の上で横一列に並ぶ三人。


 投げ上げられたハンカチが宙に舞う。これが落ちた時が……


 スタート!



 サブロ兄、そしてイモーティのソリが勢いよく滑り出した。


「あわわ、急ごう!」

「追いかけるモモ~!」


 キャナリーも必死にソリを押して乗り込む。勢いは充分。


「負けないもん!」

「もっと! もっとモモ!」


 今度は引き離されない。それどころかジワジワと二人に追いついていく。


 猛スピードで滑り降りるソリの周りの粉雪が、まるで妖精たちが飛び立ったように一面に舞い上がった。



「え? 追いついてきた?」「うそだろ、おい!」


 風をまとったキャナリーのソリは飛ぶように滑り、ぐんぐん二人に追いつき、ついにほぼ一直線に並びかける。


「行っけぇ~~!」

「あとちょっとモモ~!」


 必死に逃げる二人と、追うキャナリー。


 キャナリーのソリは、もうまるで風そのもの。粉雪がさらに大きく舞い上がる。


 あと……ちょっと!



 そして谷底を……


 通り過ぎて、ゴール!



 残念ながらキャナリーはわずかに及ばなかった。


 もしかしたらあと十センチ、いや三センチあったら並んだかもしれない。そのぐらい僅差の勝負だった。



 ソリはその勢いのまま、向かいの丘を登っていく。


「うう~~、もうちょっとだったのにぃ! くやしい!」

「次は負けないモモ!」


 丘の上でキャナリーが降りようとしたその時、ビュワッと谷底から風が吹きつけた。


「うわわっ?」


 バランスを崩しかけたキャナリーが踏ん張ろうとする。


 しかし足元は雪、まるで落とし穴のようにズボっとはまる。


 そしてそこに吹き付ける一陣の風。



「うわぁ~! だめぇ~!」


 キャナリーはそのままスッテンひっくり返って……。


 ごろごろごろごろっ!


「いや~、誰か止めて~~っ!」

「止まらないモモ~~!」



 キャナリーの悲鳴で急いで丘に登った二人が見たものは、雪だるまのようになって伸びているキャナリーの姿。そしてその横で尻尾を振る犬。


 そのまま無事救出されたキャナリーは、帰り道のソリの上でなぜかご機嫌だった。


「惜しかった! このソリなら、次こそ勝つ!」

「いい滑りだったわ。でも次も負けないわよ?」


 ソリの上で熱く再戦を誓い合う二人。


 まずはジャンケンを鍛えなければ……サブロ兄はそんな二人の乗るソリを引きながら、心の中でそう強く誓った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回からは大きく話が動き始めます。お楽しみに!

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