45.栗拾い対決!決着編
王家専用の森は広く深く、そしてとても静か。
……のはずだったのだけれど、ひっそりと穏やかなはずのその森に、今は小さな喧噪が渦巻いていた。
「空っぽのいがぐりは、できるだけまとめるんだぞ!」
「わかってるよ! あとで来た人が拾いやすいもんね」
こんな場所に後から来る人はいないだろうが、キャナリーたちはそんな話をしながら森の奥に踏み込んでいく。
殿下はまだ勝手がわからないのか、少し首をかしげながらキャナリーたちの様子を見守っている。
「そんな落ちて汚れている物よりも、木からもぎとったほうがいいのではないか?」
「ああ、まだ木にくっついてる奴は熟してないんだ」
「こうして、いがぐりを足で踏んづけて、中身を取り出すんだよ~」
「ツヤがあって、押したときにぺこぺこ凹まないものがいいぞ」
「お尻に穴が開いてるのは、中に虫がいるから注意だよ」
「虫入りは当たりモモ!」
「ありがとう、だいたい分かった」
次は殿下が自分でやってみる番だ。
「これは……なかなか難しいぞ」
殿下は栗拾い楽しさに気づき始めたらしい。自分で色々と工夫しながら、丁寧に栗を集める手が止まらない。
「痛っ! このイガというのは、見た目以上に鋭いな」
「うまく踏まないと大怪我するから注意だぞ!」
王族への敬意というものをまったく知らない、野蛮極まりない連中だと思いながら、まるで這いつくばってお辞儀をするように、何度も腰をかがめていることに気づいていない。
「殿下の拾ってる栗、虫食いばっかりだね!」
「な、なんだと? そんなはずは!」
「ほとんど全部、当たりモモ!」
ドングリだけでなく、栗に対しても人知を越える高い鑑定眼を持つ精霊のリリスが、殿下の栗にダメ出しする。
「く、くっそう! 全部、拾い直しか!」
「いらないなら貰うモモ! 美味しいモモ!」
温室育ちな殿下にとって、前途多難な滑り出しだった。
キャナリーとアーシュラは、殿下が一人でなんとかやっていけそうだと見て取ると、それぞれが全力で栗拾いに力を注ぎはじめる。
ガサガサガサッ!
熊手をふるっていがぐりをかき集め、どんどん割って中身を取り出していく。
山育ちの彼女たちにとって、最初からもう手慣れたものだ。
「やるな、キャナリー!」
「アーシュラこそ!」
二人の眼がキラリと光り、栗を拾う速度が加速する。
「お、おい、ちょっと待て! リリスの分を混ぜるのは卑怯だぞ!」
「リリスは一心同体の相棒だもん、それに仲間外れは可哀想だよ!」
「そ、そうだ、いい考えがある! 別だ、別に分けるんだ!」
「うん、いいよ! アーシュラ、勝負だね!」
「もちろん、受けて立つ!」
「へへ~ん、絶対負けないもんね!」
キャナリーは大きな二つのかごの中から、それぞれ小さなかごを取り出した。これこそが秘密兵器!
「キャナリー! そ、そのかごは!」
「えへへ! いっぱい拾っちゃうよ!」
これでかごだけならばアーシュラの四倍!
そう、かごだけならば!
「な、中身を詰めないと意味がないんだぞ?」
「わかってるってば、大丈夫!」
西の深山のキャナリーと、南の高山のアーシュラ。
なんだか知らないうちに、西対南、二人の一騎打ちが始まった。
そんな二人を尻目に、リリスは素早く森中を駆け回り、栗をガンガン集めまくっている。
早い!
その小さな体で、なんであんなに大量に集めてまわれるのだろうか。まさに魔法のようだ。
ただ、よく見ると……、なんだか口の中に入れて運んでいるような、そんな気がしないでもない。
けっこう湿っているようだけれど、大丈夫なのだろうか……。
「みなさん、用意はよろしいですの? それでは行きますわよ!」
「はい、トルネさま!」「がんばります、トルネさま!」
「どうやらあちらの方にたくさん落ちてるようですわ」
「行きましょう、トルネさま!」
棒の先に扇子がついた熊手のようなものを、さっと振ってその方向をしめすトルネ嬢。
その方向に小走りで向かい、栗を拾う三人娘たち。
トルネ嬢はそのあとからゆっくりと、周りを見回しながら追いついていく。
「次はどちらへ行くのがよろしいかしら……」
どうやら役割を分担して効率を上げる作戦のようだけれど、実質働いているのは三人娘だけ。見たところ、トルネ嬢はあんまり戦力になっていなかった。
「なんだ、トルネ、口だけか? 想像してたよりも全然集まってないぞ?」
「まあ、お黙りなさいな。どうせあとで吠え面をかくことになりますわよ?」
三人娘のかごの中身は、目分量でそれぞれアーシュラのかごの七割ほど。これだとキャナリーと二人で集めている分を少し超えるぐらいだ。
「他人のかごを心配するより、自分のかごをいっぱいにすることに集中したほうがよろしくてよ?」
「くっ! 言われなくてもそうする!」
トルネ嬢には何か考えがあるのか? しかしここから逆転するどんな秘策があるというのだろう。アーシュラは不気味なものを感じざるを得ない。
陽が大きく傾いたころ、南の森の入り口近くには、かごを背負った仲間たちが集まって来ていた。一日中立ったり座ったりを繰り返したので、みんなどことなく疲れたような顔をしている。
「あまり数は拾えなかったが。この栗拾いというものは、そう馬鹿にしたものではないな」
殿下のかごは満杯には程遠く、拾った栗の量は半分にも満たない。
もちろんくたびれた顔をしているが、それでもどことなく充実したような、晴れやかな笑顔だ。
「……やっぱり、当たりばっかりモモ!」
「な、なんだと? そんなはずは、おい、もう一度ちゃんと見ろ!」
「美味しそうな虫食いがいっぱいモモ!」
「な、なんということだ……」
膝から崩れ落ちる殿下……。これこそが栗拾いの洗礼。
トルネ班の三人娘のかごは、三つとも七割ほど埋まっている。でもこれだと一位は厳しいだろう。
キャナリーとアーシュラ、二人の山育ちのかごは、どちらも上までぎっしり詰まっていた。ただキャナリーのかごはどうしたことか、四個から一個に減っている。
「どうやら私の勝ちだな!」
「ええ~、私の方が多いよ?」
「最初にリリスの分を入れてただろう? 私の勝ちだ!」
「ちゃんと抜きました~、それに私の方が多いよ、たぶん三個ぐらい!」
「そこまで言うならちゃんと数えて……」
アーシュラが栗の数をしっかり数えようとしていると、ショミンダがかごを二つ抱えて戻ってきた。一つは山盛り、もう一つは半分ほど栗が入っている。
「ショミンダ……どうやってそんなにたくさん……」
「みんなで同じ場所で拾っていたら、たくさん拾えるはずがないじゃないですか」
「姿が見えないと思ったら!」
どうやらみんなから遠く離れたところで、コツコツ、もくもくと栗を拾っていたらしい。
しかもフライングまでかましていた。
「お~~ほっほっほ! どうやらこの勝負、わたくしの勝ちのようですわね!」
「えええ~? かごも無いのにどうやって……」
トルネ嬢の合図に合わせて三人娘たちが自分のかごを差し出す。ひとまとめにすると、かご二つ分を軽く超えていた。
「教えてさしあげます。これが正しいチームワークというものですわ!」
「そんな卑怯な!」
どうやら最初から個人戦に持ち込んで、三人娘の力で勝つ算段だったらしい。
仲間たちが献身して支え合う? これをチームワークと呼んでいいものか。
しかしそんなトルネを上回る者がいた。その者がまるで影のように飛んでくる。
その者のかごをキャナリーが代わりに担いできた。その数三つ、全部山盛り!
「リリスの方が多いよ、やったね!」
さすが精霊。ドングリを拾わせたら並ぶ者はいない、栗であってもそれは変わらない。
「当たりいっぱい拾ったモモ! 美味しいモモ!」
しかし殿下と同じく、リリスの栗は虫食いばかりだった。わざわざ当たりを選んで拾っていたらしい。
「うん、これで、私たちの圧勝だね!」
「……たち? 個人戦では無くて? 誰が勝つかって言ったのは何だったんですの!」
「えへへ! 適当に言っただけ! 勝負はもちろん団体戦だよ!」
こうして四対四の栗拾い対決は、キャナリー組の完全勝利に終わった。
しかしこの大量の栗、どうやって料理すればいいのだろう?
調理方法を知っている者はこの中にいるのだろうか?
陽が沈んでいく西の空では、まるで興味深いものでも見るように、赤と青の双子星が小さくキラリと光を放った。
結果はキャナリー組の圧勝でした!
ちょっと簡単すぎましたかね。
四人+一匹と、三人(トルネ嬢は手袋も何もない)ですから、勝負は最初からついてました!
そもそも名探偵キャナソン博士が適当に言っただけなので、誰が一位になるかの証拠は揃ってませんでしたが、順位予想もつけやすかったのではないでしょうか。




