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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第七章 狼男!篇 (一年生後期)

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45.栗拾い対決!決着編

 王家専用の森は広く深く、そしてとても静か。


 ……のはずだったのだけれど、ひっそりと穏やかなはずのその森に、今は小さな喧噪が渦巻いていた。



「空っぽのいがぐりは、できるだけまとめるんだぞ!」

「わかってるよ! あとで来た人が拾いやすいもんね」


 こんな場所に後から来る人はいないだろうが、キャナリーたちはそんな話をしながら森の奥に踏み込んでいく。


 殿下はまだ勝手がわからないのか、少し首をかしげながらキャナリーたちの様子を見守っている。


「そんな落ちて汚れている物よりも、木からもぎとったほうがいいのではないか?」

「ああ、まだ木にくっついてる奴は熟してないんだ」


「こうして、いがぐりを足で踏んづけて、中身を取り出すんだよ~」

「ツヤがあって、押したときにぺこぺこ凹まないものがいいぞ」


「お尻に穴が開いてるのは、中に虫がいるから注意だよ」

「虫入りは当たりモモ!」


「ありがとう、だいたい分かった」


 次は殿下が自分でやってみる番だ。



「これは……なかなか難しいぞ」


 殿下は栗拾い楽しさに気づき始めたらしい。自分で色々と工夫しながら、丁寧に栗を集める手が止まらない。


「痛っ! このイガというのは、見た目以上に鋭いな」

「うまく踏まないと大怪我するから注意だぞ!」


 王族への敬意というものをまったく知らない、野蛮極まりない連中だと思いながら、まるで這いつくばってお辞儀をするように、何度も腰をかがめていることに気づいていない。


「殿下の拾ってる栗、虫食いばっかりだね!」

「な、なんだと? そんなはずは!」


「ほとんど全部、当たりモモ!」


 ドングリだけでなく、栗に対しても人知を越える高い鑑定眼を持つ精霊のリリスが、殿下の栗にダメ出しする。


「く、くっそう! 全部、拾い直しか!」

「いらないなら貰うモモ! 美味しいモモ!」


 温室育ちな殿下にとって、前途多難な滑り出しだった。



 キャナリーとアーシュラは、殿下が一人でなんとかやっていけそうだと見て取ると、それぞれが全力で栗拾いに力を注ぎはじめる。


 ガサガサガサッ!


 熊手をふるっていがぐりをかき集め、どんどん割って中身を取り出していく。


 山育ちの彼女たちにとって、最初からもう手慣れたものだ。


「やるな、キャナリー!」

「アーシュラこそ!」


 二人の眼がキラリと光り、栗を拾う速度が加速する。


「お、おい、ちょっと待て! リリスの分を混ぜるのは卑怯だぞ!」

「リリスは一心同体の相棒だもん、それに仲間外れは可哀想だよ!」


「そ、そうだ、いい考えがある! 別だ、別に分けるんだ!」

「うん、いいよ! アーシュラ、勝負だね!」


「もちろん、受けて立つ!」

「へへ~ん、絶対負けないもんね!」


 キャナリーは大きな二つのかごの中から、それぞれ小さなかごを取り出した。これこそが秘密兵器!


「キャナリー! そ、そのかごは!」

「えへへ! いっぱい拾っちゃうよ!」


 これでかごだけならばアーシュラの四倍!


 そう、かごだけならば!


「な、中身を詰めないと意味がないんだぞ?」

「わかってるってば、大丈夫!」


 西の深山のキャナリーと、南の高山のアーシュラ。


 なんだか知らないうちに、西対南、二人の一騎打ちが始まった。



 そんな二人を尻目に、リリスは素早く森中を駆け回り、栗をガンガン集めまくっている。


 早い!


 その小さな体で、なんであんなに大量に集めてまわれるのだろうか。まさに魔法のようだ。


 ただ、よく見ると……、なんだか口の中に入れて運んでいるような、そんな気がしないでもない。


 けっこう湿っているようだけれど、大丈夫なのだろうか……。



「みなさん、用意はよろしいですの? それでは行きますわよ!」

「はい、トルネさま!」「がんばります、トルネさま!」


「どうやらあちらの方にたくさん落ちてるようですわ」

「行きましょう、トルネさま!」


 棒の先に扇子がついた熊手のようなものを、さっと振ってその方向をしめすトルネ嬢。


 その方向に小走りで向かい、栗を拾う三人娘たち。


 トルネ嬢はそのあとからゆっくりと、周りを見回しながら追いついていく。


「次はどちらへ行くのがよろしいかしら……」


 どうやら役割を分担して効率を上げる作戦のようだけれど、実質働いているのは三人娘だけ。見たところ、トルネ嬢はあんまり戦力になっていなかった。


「なんだ、トルネ、口だけか? 想像してたよりも全然集まってないぞ?」

「まあ、お黙りなさいな。どうせあとで吠え面をかくことになりますわよ?」


 三人娘のかごの中身は、目分量でそれぞれアーシュラのかごの七割ほど。これだとキャナリーと二人で集めている分を少し超えるぐらいだ。


「他人のかごを心配するより、自分のかごをいっぱいにすることに集中したほうがよろしくてよ?」

「くっ! 言われなくてもそうする!」


 トルネ嬢には何か考えがあるのか? しかしここから逆転するどんな秘策があるというのだろう。アーシュラは不気味なものを感じざるを得ない。



 陽が大きく傾いたころ、南の森の入り口近くには、かごを背負った仲間たちが集まって来ていた。一日中立ったり座ったりを繰り返したので、みんなどことなく疲れたような顔をしている。


「あまり数は拾えなかったが。この栗拾いというものは、そう馬鹿にしたものではないな」


 殿下のかごは満杯には程遠く、拾った栗の量は半分にも満たない。


 もちろんくたびれた顔をしているが、それでもどことなく充実したような、晴れやかな笑顔だ。


「……やっぱり、当たりばっかりモモ!」

「な、なんだと? そんなはずは、おい、もう一度ちゃんと見ろ!」


「美味しそうな虫食いがいっぱいモモ!」

「な、なんということだ……」


 膝から崩れ落ちる殿下……。これこそが栗拾いの洗礼。



 トルネ班の三人娘のかごは、三つとも七割ほど埋まっている。でもこれだと一位は厳しいだろう。


 キャナリーとアーシュラ、二人の山育ちのかごは、どちらも上までぎっしり詰まっていた。ただキャナリーのかごはどうしたことか、四個から一個に減っている。


「どうやら私の勝ちだな!」

「ええ~、私の方が多いよ?」


「最初にリリスの分を入れてただろう? 私の勝ちだ!」

「ちゃんと抜きました~、それに私の方が多いよ、たぶん三個ぐらい!」


「そこまで言うならちゃんと数えて……」


 アーシュラが栗の数をしっかり数えようとしていると、ショミンダがかごを二つ抱えて戻ってきた。一つは山盛り、もう一つは半分ほど栗が入っている。


「ショミンダ……どうやってそんなにたくさん……」

「みんなで同じ場所で拾っていたら、たくさん拾えるはずがないじゃないですか」


「姿が見えないと思ったら!」


 どうやらみんなから遠く離れたところで、コツコツ、もくもくと栗を拾っていたらしい。


 しかもフライングまでかましていた。



「お~~ほっほっほ! どうやらこの勝負、わたくしの勝ちのようですわね!」

「えええ~? かごも無いのにどうやって……」


 トルネ嬢の合図に合わせて三人娘たちが自分のかごを差し出す。ひとまとめにすると、かご二つ分を軽く超えていた。


「教えてさしあげます。これが正しいチームワークというものですわ!」

「そんな卑怯な!」


 どうやら最初から個人戦に持ち込んで、三人娘の力で勝つ算段だったらしい。


 仲間たちが献身して支え合う? これをチームワークと呼んでいいものか。



 しかしそんなトルネを上回る者がいた。その者がまるで影のように飛んでくる。


 その者のかごをキャナリーが代わりに担いできた。その数三つ、全部山盛り!


「リリスの方が多いよ、やったね!」


 さすが精霊。ドングリを拾わせたら並ぶ者はいない、栗であってもそれは変わらない。


「当たりいっぱい拾ったモモ! 美味しいモモ!」


 しかし殿下と同じく、リリスの栗は虫食いばかりだった。わざわざ当たりを選んで拾っていたらしい。



「うん、これで、私()()の圧勝だね!」

「……たち? 個人戦では無くて? 誰が勝つかって言ったのは何だったんですの!」


「えへへ! 適当に言っただけ! 勝負はもちろん団体戦だよ!」


 こうして四対四の栗拾い対決は、キャナリー組の完全勝利に終わった。



 しかしこの大量の栗、どうやって料理すればいいのだろう?


 調理方法を知っている者はこの中にいるのだろうか?


 陽が沈んでいく西の空では、まるで興味深いものでも見るように、赤と青の双子星が小さくキラリと光を放った。


結果はキャナリー組の圧勝でした!

ちょっと簡単すぎましたかね。


四人+一匹と、三人(トルネ嬢は手袋も何もない)ですから、勝負は最初からついてました!


そもそも名探偵キャナソン博士が適当に言っただけなので、誰が一位になるかの証拠は揃ってませんでしたが、順位予想もつけやすかったのではないでしょうか。


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