43.学園の新学期
転生少女キャナリーは伝説の老婆から風の真理を学び、魔法使いへの第一歩を踏み出した。
ポワンシェの子犬たちを『小さな騎士』として送り出し、絆という温かな光を胸に学園へと戻る。
新章!
キャナリーを待つのは、黄金の栗きんとん、そして王都を脅かす狼の遠吠え?
~~中央学園新聞~~
《狼男、その正体に迫る!》
夜な夜な王都ルミナリスを騒がす狼男。我々新聞部はその秘密に迫るため、命がけの取材を敢行した……
《新学期特集!》
……
《運勢》
火 悩み多し、近くの友を頼れ
水 ときには羽目を外そう
土 嵐の予感
風 落とし穴に気を付けて
~~~~~~~~~~
長かった二ヶ月間の夏休みも終わり、今日からは魔法学園の新学期。それに合わせて新しい新聞を掲示するなんて、ジャネもけっこう大変だ。
「みんな、おはよ~!」
「おはよ~モモ!」
「おお、キャナリーおはよう! 久しぶり! 元気だったか?」
柔らかくなった日差しの中、少し冷たくなった手をこすりながら教室に入ると、何人かの遠慮がちな声の中に、ひときわ大きなあいさつの声。アーシュラだ。
「おはようキャナリー。夏休みはどうでした?」
「ん~、まあいろいろあったよ! 二人はどうだったの?」
「私は実家でずっと魚釣り三昧でしたよ」
「私は馬車三昧だった、よっ!」
「うわ、アーシュラ! なにするのっ!」
いきなりキャナリーのお尻をもんだ手がさっと引っ込んだ。
「おかしいな。ずっと馬車の旅じゃなかったのか?」
「ほんとですね。アーシュラは私がもんだら跳び上がってたのに……」
「それは簡単、キャナリーはずっと王都にいたからよ」
「ジャネ! なんでそれをっ!」
「新聞部に隠し事は通用しないわ!」
ジャネがかけている眼鏡を中指でクイッと上げる。
「キャナリー! 夏休み、何をしていたのか白状するんだ!」
「誤魔化そうったって、そうはいきませんよ」
「えっと実は、うちの国のお姫さまに招待されて……」
「贅沢な暮らしをしてたのか!」
「魔法の特訓してた! えへへ!」
キャナリーはトアール屋敷での出来事をとても楽しそうに話す。
そういえばポワポワたちはどうしてるだろう? 週末にでも行ってみようかな。そんなことをキャナリーは考える。
「二人の夏休みは本当はどうだったの? ちゃんと白状してよね!」
「そう言われても、本当に魚釣りばっかりしていたんですよね。あとは釣った魚を捌いて干したり、網を繕ったり……」
「ほとんど漁民の生活じゃないか。サーモンネ男爵家はそんな感じなのか?」
「ええ、そりゃ実家に帰ってましたから……」
「あれ? 実家って、たしか養子になって帰れないって言ってなかった?」
「間違いない、たしかそう言ってたぞ」
「ああ、たぶんそれ勘違いです。学園に入る前、男爵家に缶詰にされて『貴族とは』なんて教え込まれてたんですよ」
ショミンダが家族に会えなかったのは、あの時だけだったらしい。
「私の実家のことなんかより、アーシュラはどうだったんですか?」
「ん? 私か? そうだな……特に何もないぞ? 朝起きて素振りして、昼は素振りして、寝る前に素振りしてって、本当にそれだけだ」
「素振りしかしてないじゃないですか!」
「はっはっは、まあ、そうだな!」
夏休みの生活について談笑していると、教室の扉が開いてエライ先生が入ってきた。相変わらずの黒髪に白髭に生成りのローブ姿だ。
「病気や事故もなく、こうして皆と再会できたことを嬉しく思う。さて本日から後期の始まりじゃ。そこで呪文の小テストを行う!」
「ええ~~、そんなぁ」「抜き打ちテストかよぉ」「ずるいぞ~」
静かだった教室がクラスメイトたちの不平で一気に騒がしくなる。
「まあ別に大したことはせん。毎日の努力の成果を見せてもらうだけじゃよ」
テストの内容は簡単。一人一人順番に呪文を唱えて魔法陣を光らせる、ただそれだけ。
名前を呼ばれて呪文を唱えるクラスメイト。ごくりと生唾を飲んで見守る。
ぴかっ! 光った!
「大丈夫、深呼吸して、慌てずゆっくりじゃ」
中には緊張しすぎてどもったり、魔法陣が光らなくて涙目になっているクラスメイトもいるが、ここまでみんな何とか成功で終わっていた。
次は殿下。まっすぐ背筋を伸ばして立ち上がると、落ち着いた様子で呪文を唱えていく。
ピカピカッ! 難なく成功。
ふうっと肩の力を抜いたところを見ると、普段通りというわけではなかったのかもしれない。
その次はトルネ。
「メラ~♪ ザバ~♪ ドゴ~♪」 ピカッピカッピカッ!
まさかの三連射、それも問題なく成功!
「お~~ほっほっほ! わたくしにかかれば、こんなものですわ~~~!」
「次、アーシュラだよ?」
「あ、ああ、そうか」
ぼーっとしているなんて、ちょっと彼女らしくない。
でもそう感じたのも束の間、すぐにいつものアーシュラに戻り、「メン!メン!」と元気よく素振りのような呪文を唱え始めた。
テストはどんどん進み、ついにキャナリーの番がやってきた。ここまで全員成功、知らず知らずのうちに緊張が高まってくる。
「あの、先生……ソヨ婆さまに部屋の中で呪文は禁止されたんだけど……どうしよう?」
「……あの婆さまか。魔法陣があるから大丈夫じゃよ、やってみなさい」
よし、がんばろう!
ぽんっ!
キャナリーが魔法陣を手に取ったかと思うと、シャンパンを抜いた時のような音が教室に鳴り響き、小さな風がキャナリーの前髪を揺らした。
「ほへっ?」
まだ呪文も唱えてないのに。
「魔法陣が働かんとは……、何をやったんじゃ!」
「ふえええ~~、わかりませ~~ん!」
「あのクソババア、いったい何を教えたんじゃ~~~っ!」
よくわからない事態に涙目になるキャナリー。
にやにやしているショミンダ。
そして大きな声で笑っているアーシュラ。
肩の上にはドングリかじってどこ吹く風のリリス。
学園の始まりとともに夏は過ぎ去り、王都ルミナリスには秋がやって来ようとしていた。
始まりました新章、一体どんな事件が巻き起こるのか。
果たしてポワポワたちは再登場できるのか!
乞う、ご期待!




