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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第六章 お姫さまと修行篇 (一年生夏休み)

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40.本当の意味

 まずは復習。ということで、ソヨ婆さまに風の呪文を披露してもらうことになった。


「それじゃあ、ついておいで。風の魔法はせせこましい部屋に閉じ込められるのを嫌がるからね」


 キャナリーたちは全員、庭に出ていくソヨ婆さまのあとに続く。


 ポワンシェの子犬たちまで一緒なので、マダム・ピレリュンヌも保護者としてついてきている。


「この辺りでいいだろうね」


 ソヨ婆さまは庭の片隅に置かれたベンチに腰掛けると、例の魔法陣の紙を取り出す。


「それじゃあいくから、()()()()おきなさい。ヒュ~、ヒュ~、ヒュ~、ヒュヒュヒュ……ヒヨヒヨヒヨ~♪」


 ゆっくりと呪文を唱え始めると、その呪文はどんどん速くなっていき、まるで鳥の鳴き声のようなトリルへと変わっていく。


「ツピ~♪ チュルルル~ピッ♪ ヒュ~ルルルルヒュピ~♪」


「これ……呪文?」


 ソヨ婆さまの手元を見ても、魔法陣は光っていない。


 魔法じゃないのかな?



 ソヨ婆さまはそのまま鳥の鳴き声のような詠唱を続ける。


 ピュピュピュッ チュルルルチュル~♪


 すると小鳥たちが寄って来て、一緒にハミングを始めた。


 ピュチチュッ チュッカララララッ♪

 ピルルル~ ルピッルピッ♪


 小鳥たちの姿はどんどん増えてくる。


 そよ風がさらさらと吹いて、木々の枝葉をざわざわと揺らす。


 やっぱり魔法? でも魔法陣が光っている様子はどこにもない。


「ええ? ど、どういうこと?」


 キャナリーの疑問の声に、ソヨ婆さまはニコッと笑う。


 すでに彼女の呪文の詠唱は止まっている。でも小鳥の歌声もそよ風も止まらない。


 そして、ソヨ婆さまがその手に持った魔法陣の紙を掲げると、赤、青、黄、色とりどりの輝きでキラキラと輝き始めた。


「……す、すごい」


 まったく意味はわからない。でも今までみた魔法の呪文とはまるっきり違う、そのことだけはキャナリーにもよく理解ができた。



「私にもできるようになるかな……」

「まあ、やってごらんなさいな」


 ソヨ婆さまから魔法陣を受け取ると、キャナリーも呪文を唱える。


「ひゆ~ぅ、ひゆ~ぅ……」


 魔法陣は何も反応しないし、もちろん風だって吹かない。集まっていた小鳥たちはバサバサとどこかに飛び去ってしまった。


「そうだねぇ。なかなか素晴らしいねぇ、とても清々(すがすが)しいよ」

「えっと……それじゃぁ!」


 よくわからないけど、もしかしたらかなり良い感じなのかな!


「ああ、素晴らしいほどにダメだね」


 ガーン…………。


 キャナリーの呪文はどうしようもなくダメだったらしい。



「あの、私、呪文の才能は……?」

「うむ、まるで無いね……」


 キャナリーは目の前が真っ暗になった。そのまま倒れそうになるのを、アーネ姫が後ろからそっと支える。


「ああ、これこれ、年寄りの話は最後までちゃんと聞くもんだよ? それは悪いことじゃない、むしろとっても良いことさ!」


 若い者はせっかちでいけないねぇ、なんて小言を言っているのを、アーネ姫たちは「もう、ソヨ婆さまはこれだから……」などと、苦笑しながら聞いている。


「これほどまで風の魔力に愛されているなぞ、この婆もこの年になって初めて見るわ」

「あの、それってどういうこと?」


「いいかい、よくお聞き? 風の魔法というのはね、才能があればあるほど、呪文の詠唱はできないものなんだよ」


 才能があるほど呪文が使えない? まったく意味がわからない。


 このお婆さん、いい加減なことをいってキャナリーをからかっているんだろうか? いや、そんな風には見えない。


「冗談でも何でもなく、風は自由気まま、それが事実さね。風の魔力は呪文で縛られるのを嫌がるからね、風に愛されれば愛されるほど、呪文がうまく唱えられなくなるのさ」


 もしかしたらそれは魔力による抵抗、と言い換えても良いのかもしれない。非常に強力な風の魔力が強い抵抗になって、呪文の詠唱がうまくできなくなるのだ。


 たとえば、水の中で素早く動こうとしても、水の抵抗が邪魔してうまく動けなくなるのと同じように。


 しかしキャナリーはソヨ婆さまの言葉の端々に、それだけではない『何か』を感じ取っていた。



「この婆のように呪文が唱えられるのは、つまり魔法の才能がないということよ。カッカッカ!」


 大口を開けてカラカラと笑うソヨ婆さま。


「……それじゃ、私には呪文は無理なの?」

「そこは、ほれ、逆に考えることよな」


 逆? それはどういうことだろう?


「呪文で風の魔力を従えるのではなく、風の魔力が喜ぶように呪文を唱える。意味はわかるかの?」


 キャナリーはブンブンとかぶりを振る。


「風の魔力の声を聴く……と言ってもようわからんか……。そうよな、風ともっと仲良くなれば、自然と頭の中に呪文が浮かんで、さらさらと唱えられるようになる」


「仲良くなるって、どうすれば……」

「知らんっ!」


「えええ~~~っ!」

「ソヨ婆さまっ! そこで放り出すのはちょっと鬼畜すぎるわ!」


 アーネ姫たち姉妹も抗議の声を上げる。


「人と同じだよ? 相手の嫌がることをしない、相手の喜ぶことをする、でもそうしたからといって仲良くなれるとは限らん。そうだろう?」


 まずは風の魔力を感じること、そして風の魔力と遊ぶこと。


 どうやら呪文の特訓どころの話じゃない、乗り越えるべきハードルが上がったようだ。それも激しく。



「少しづつでいいから、呪文の練習はちゃんと続けるんだよ?」


 風の魔力を感じながら毎日続ける事、そして部屋の中じゃなくて外で練習すること。それが重要なのだそうだ。


「風の魔力を感じろって……そんなこと言われても……」


 だけどそれがソヨ婆さまの言う、はじめの第一歩。


 キャナリーには何のことだかさっぱりわからない。いったいどこから手をつければいいのやら……


「キャナリーや。さきほど呪文を唱えるとき、何を考えておった?」

「それは、ピカピカって光って欲しいって……」


「まずはそれを止めて見ようかね?」

「えええ~っ?」


「風が吹いてほしいとか、魔法が使いたいとか、そんなことは思わなくて良いんだよ。ただ風が大好き、一緒に風に吹かれていたい、そう思うだけで充分なんだよ」


 たしかエライ先生は魔法の授業で「何としても魔法が使いたい、その思いが何より重要」と言っていた。でもソヨ婆さまの教えはそれとは違っている。


「もしも風と友達なれたら、一緒にやりたいことは何だい?」

「空を飛びたいっ!」


 即答だ。


「よし、いい答えだ。それなら一緒に飛びたい、そう強く思いながら呪文を唱えてみな。いいかい? 一人で飛ぼうとしちゃいけない。風と一緒にだよ?」


 キャナリーは大きく頷くと、魔法陣を握りしめて呪文を唱え始める。


「ひゅ~ひゅ~……、あれ? ちょっと唱えやすい?」


 今までとほとんど違いは無かったけれど、本当にほんのちょっとだけ、呪文が流れていくような感じがする。


 まだ魔法陣は光らない。


 だけどそれは間違いなくキャナリーが魔法使いになるための「はじめの第一歩」だった。


説明回になってしまいました。


ぽわぽわ成分が足りないぞ!作者しっかりしろ!

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