35.二人はずっと一緒に
3連投2話目
「…………、…………リー、……ナリー!」
「……して、キャナリー!」
違うよ、私は飛鳥だよ? あれ? キャナリーだっけ?
「…………、キャナリー!」
なんだろう、この二人。なんで私に抱きついているんだろう。
会ったことはないはずなのに、なぜかどこかで会ったような気がする。いつだったかな、はるか遠い……あのとき…………。
二人とも、怪我してるのかな。頭から血が……、血が……。ちゃんと手当てしないと……。
「キャナリー! 戻って来い、キャナリー!」
「しっかりして! 気を強く持って!」
「アー……シュラ……?」
そうだ。違う! これ、夢じゃない!
「アーシュラ、ショミンダ! 怪我が! それにリリス、リリスが!」
キャナリーにしがみつくように抱きついている二人、そして目の前に倒れて動かないリリス。
いや、動いた? 手が、そして足がピクッピクッと動いている?
「リリスっ!」
キャナリーは必死になって傷ついた相棒を抱き上げる。
「い、痛いモモ~!」
カランッと音を立てて矢が転がる。その矢はとっても大きいドングリに突き刺さって止まっていた。
「リリス、良かった……」
キャナリーを取り巻いていた緑の光も、そして魔法陣も完全に消えさり、あれだけ激しかった暴風も完全に過ぎ去って、森は静寂を取り戻していた。
ふと気が付くと、そこにはいつの間にか安心したように眠るキャナリーの姿。
その頭の上には、リリスが座って「痛かったモモ~!」と、お腹をさすっている。
その周囲では一抱えもあるような大木が何本もなぎ倒され、激しく渦巻いた暴風のすさまじい爪痕が、はっきりと残されている。
魔力暴走による暴風。たぶん教師も生徒も、ここにいる多くの人はそう感じただろう。
「……恐ろしいまでの力だな」
しかしそれを一番の近くで見ていた殿下の眼には、愛する精霊を傷つけられて怒り狂う森を、一人の少女が懸命になって押さえこんでいた姿、そのようにしか見えなかった。
殿下はほこりを浴びただけで何ともない体をパンパンと払った。
「全員、集合だ~! 出発地点に集まれ~!」
生徒に呼びかける教師たちの慌ただしい声が、何度も森の中を往復する。
とても残念だけれど、おそらく今回の野外実習はこのまま終了になるだろう。
特に大きな怪我をした者もなく、びっくりして転んでひざを擦りむいたとか、お尻を打ったとか、その程度。
あの時の森の惨状を思えば、本当によくこの程度で済んだものだ。
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魔力暴走を起こしたキャナリーは、特に外傷などは無かったけれど、大事を取って数日入院、安静ということになった。
「えええ~、何ともないし、入院なんて大げさだよ~!」
「駄目ですよ? 魔力暴走を起こすと、魔力が無くなっちゃうことだってあるんですから。大人しくしてたら、すぐに出られますからね?」
「むぐぐっ……!」
いくら抗議しても、どうやら聞いてもらえないらしい。
キャナリーはあきらめて、おとなしくすることに決めた。
コンコンコンッ
アーシュラとショミンダがお見舞いに来てくれた。
「もっと暴れたり、駄々をこねたりするかと思ったけど、本当に大人しくしてるみたいだな」
「びっくりしましたよ。絶対に病室を抜け出してると思っていたのに」
「えへへっ! 明日には退院できるんだって!」
「そうか、それは良かった!」
「そのまま病院で夏休み突入は避けられそうですね」
キャナリーの普段の様子から、病室で静かに過ごすことなんてできないかと思いきや、お医者さんたちの話では、びっくりするほど大人しくしているらしい。
病室を抜け出すどころか、部屋の中で暴れたり、歩き回ったりすることもなく、窓枠に腰かけたリリスに、ベッドの上から楽しそうに話しかけたりしているそうだ。
「ごめんね、怪我させちゃって……」
「謝る必要ないですよ? 自業自得なんですから」
「ほへ?」
「いや、パニックにならないように気合を入れようとしてだな、自分で自分を殴ったら、ちょっと強すぎて血が出た……」
「私にまで血が飛んできちゃったんですよ? アーシュラったら、もうほんとにやりすぎです!」
「うん、でも、ありがとう!」
帰っていく二人の赤と青のローブ姿に手を振ると、キャナリーはポフンっとベッドの上に仰向けに転がった。
こうして病室で暮らすのは、実は前世の時から慣れている。あの時とは違って、こうしてお友達がお見舞いに来てくれるし、それに何よりリリスだっているから独りぼっちじゃない。
それにすぐにでも退院できるとわかっているのだ。入院のプロであるキャナリーが耐えられないなんてことはありえなかった。
「あの時のあの子……元気にしてるのかな……」
まだ飛鳥だった頃の、ドングリ拾いの遠足のことをキャナリーは思い出していた。
もうほとんど忘れかけていた、怪我をしていたあの小さなリスのことを。
もう一度会いに行きたかったけど、それからすぐに入院することになってしまい、二度と行けなくなってしまったあの森のことを。
物思いに沈むキャナリーの隣で、リリスはお腹を出して大の字になっていびきをかいている。
……魔力暴走。
運よく無事で済んだけれど、リリスまで吹き飛ばしていたかもしれないのだ。
リリスがいなくなる……このままじゃいけない……。
キャナリーはリリスの頭を撫でようとした手をそっと引っ込めると、病室の白い壁を睨みつけ、何かを求めるようにキュッと口を結んだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もうほんと、感謝感激ですよ!
これで第5章は終わり、登場人物紹介を挟んで、次回は新章が始まります。
キャナリーとリリスを応援してくださる皆さん、ぜひとも★感想と評価★をお願いいたします!




