34.森の子リス
3連投2話目
「ねえねえ、お父さん、お願い! またあの『女の子』のお話を聞かせて?」
とある森に代々続く由緒正しいリスの一族。その末っ子リスは、そのお話が大好きだった。
お父さんのお父さんのお父さんの、そのまたお父さんの、もっとお父さんが森で出会った、人間の女の子のお話だ。
まるで山みたいにとっても背が高くて、とっても大きな暖かい手をした女の子。もっとお父さんを森で助けてくれた、とっても強くて、とっても優しい女の子。
人間は危険だ。見かけたらすぐに逃げないと、何をされるかわからない。
捕まっていたずらされるぐらいならまだましで、どこかに連れていかれて帰って来ないなんてことはよくあることだった。
でもその女の子は違っていた。森で怪我をしていた、もっとお父さんの手当てをしてくれた上に、森のリスたちにとっては最高の宝物、王様のドングリを惜しげもなくくれたのだ。
「元気になあれ!」っていう魔法の言葉と一緒に。
もっとお父さんが植えた王様のドングリはすくすくと成長して、今年になって初めての実をつけた。まだまだ小さな子供の木だけれど、そのドングリはもう立派な王様の大きさだ。
「さすがは女神さまのドングリだ。立派なものだね」
「今でもこうして、ずっと一族を見守ってくれているんだね……」
もしも兄弟リスたちに話したら笑われるかもしれないし、もしかしたら恐れ多いと怒られるかもしれない。
でも末っ子リスは、実はその女の子とお友達になりたいと思っていた。
大きくて強くて優しくて、一族のみんなから慕われている元気な人間の女の子。
もしもお友達になってくださいってお願いしたら、笑わずに聞いてくれるだろうか。「うん、喜んで!」って手を取ってくれるだろうか。一緒に森をお散歩してくれるだろうか。
ある日の夜、末っ子リスは夢を見た。今その女の子がいる場所の夢だ。
ただの夢じゃない。枕元にあの王様のドングリから生まれてきた、新しい王様のドングリが落ちていたのだ。
女の子が呼んでいる。
末っ子リスは夢に従って旅に出る。
新しい王様のドングリを大切に持って。女の子に会うために。会ってお友達になるために。
会えるかな、会えたらいいな。
もしも会えたら、お友達になれるかな。
旅を続ける末っ子リスの前に、夢に出てきた白い建物が現れた。夢の通りに壁をよじ登り、部屋の中を覗き見る。
間違いない、あの子だ!
ガラス窓をこんこんと叩いた。
「来たよ! 会いに来たよ!」
……しかし窓は開かない。
やせ衰えた女の子が、ベッドの中からこちらを見て悲しそうに微笑んだ。
元気いっぱいなはずの、大きくて強くて優しいはずの女の子は、病に倒れていた。
「元気になって!」
末っ子リスの心からの叫びは、窓に阻まれて伝わらない。
女の子はこちらに手を伸ばそうとして、そして、最後にとても優しそうな笑顔を見せてくれた。
それで眠ってしまったのか、優しそうな笑顔のまま動かなくなった。
そしてその翌日、もう女の子はそこにはいなかった。
最初はちらちらと降っていた雪が次第にどんどん強まり、辺り一面を白く変え始めた。それでも末っ子リスは、女の子が戻って来るのを待っていた。
降りしきる雪に体が完全に埋もれてしまっても、末っ子リスは待ち続けた。
ずっとずっと待ち続けた。
「……お友達に……なって……ずっと……」
冷たくなった子リスの腕から大きなドングリが零れ落ち、どこへともなく転がっていった。




