28.出発!野外実習
野外実習への出発の朝。
まだ朝陽が昇ったばかりの真っ青に澄み切った空の下、赤と青の双子の旗が大きくたなびく中央魔法学園。
キャナリーたち一年生は眠い目をこすりながら、第一運動場に集合しはじめていた。
「おはよう、キャナリー班長! かなり眠そうだな?」
「アーシュラ……、おやすみなさい……ぐう……」
ふらふらして頭の麦わら帽子がずり落ちそうになるキャナリーを、ショミンダが慌てて支える。
「班長~、こんなところで眠っちゃだめですよ~」
「そうだぞ、寝たら死ぬぞ!」
「それは大変、死んだら死んじゃうモモ!」
「死んでもいいから寝る~~ぅ……」
キャナリーのことだ。どうせ楽しみ過ぎて眠れなかったに決まっているが、実はそれだけじゃない。
王都のあるこの辺りはかなり北に位置していて、夏は日がとても長く、冬はとても短くなる。
もうとっくに朝日が昇っているが、これが冬ならまだベッドの中で毛布にくるまってぐっすり眠っている時間帯だ。
山奥の谷での暮らしのように、日の出とともに目覚める生活をしていれば、眠くなるのも当然のことだった。
一学年は四クラス、総勢八十人。全員が同じ運動場に集まっているけれど、場所はクラスごとに東西南北、四カ所に分かれている。キャナリーたちA組は東側だ。
まだ馬車は来ていないらしく、テントや毛布など、野外実習に持って行く荷物が集合場所の近くにまとめて置かれている。
それ以外にも小さな荷物が置かれた机の上には、朝や昼に食べるお弁当だろう、パンやチーズ、干し肉などの食べ物が大量に並んでいた。
「お腹空いたね!」
「こうして目の前に置かれていると、誘惑に負けそうになりますね」
「班長も参謀長も、ここは我慢だぞ!」
そのとき突然、出発を待ちわびるキャナリーたち三人は、地面に描かれた鋭い三角形の影にとらわれた。
顔を上げるとそこにあったのは、輝く朝日を背にした豪華絢爛とんがり帽子、金髪超二重ドリルに縦三色ローブの、言わずと知れたトルネ嬢の姿。
「お~ほっほっほ。みなさん、お揃いのようですわね!」
「さす!」「すば!」「あこ!」
「おはよ~、トル……ネ……?」
トルネ嬢の後ろには豪華な馬車、その四隅には金糸の太くて長い房飾りが、螺旋を描くように垂れ下がっている。そう、まるで彼女の髪型のように……。
「……馬車までドリル!」
「これぞ我が侯爵家秘蔵の特注馬車。感動のあまりに間違ってひれ伏してしまわないように、お気をつけなさるのがよろしくてよ~! お~ほっほっほっ……ほ?」
そのトルネ嬢の背後から、朝日を背負うようにしてエライ=ヒカール先生が現れた。
ふさふさ黒髪だというのに輝くような日光のせいで、頭がピカピカ光り輝いているかのようだ。
「馬車の持ち込みは不可じゃから、置いていくんじゃぞ?」
「そんな、聞いてませんわ~~~っ! まだ七つの秘密機能の説明もしてませんのに~~~」
トルネ嬢の絶叫が響き渡る中、ついに前期・野外実習が始まった。
「あまり余計なものは持ってくるなと言っておったのに、困ったもんじゃな。それではしっかり聞きなさい。野外実習の初日じゃが、行きは徒歩。馬車は使わん!」
「えええ?」「ど、どういうこと?」
クラスメイトの間に困惑するような声が広がる。
「そしてもう一つ。目の前に置いてある物から必要な物を自分で選び、自分で背負い袋につめて運ぶのじゃ。選んだ物は最後まで持って行くように。途中で捨てるのは禁止じゃぞ?」
運動場に大ブーイングが巻き起こった。少し離れたところで集まっている他のクラスからもブーイングが聞こえてくる。
目の前に置かれた荷物には、テントや毛布、パンやチーズ、干し肉などの食べ物、さらには大きな水袋に、食器や鍋まである。
「水と食べ物については、明日には別途補給があるゆえ、持って行くのは今日の分だけでよろしい。班長には地図を渡しておくゆえ取りに来なさい。それでは各自、準備開始じゃ!」
「こんなの、持てっこないよ……」
「無茶苦茶すぎる……」
クラスのみんなが文句を言っているが、それも当然の話だ。
例えばテント。丁寧にクラスの人数と同じ二十個用意されているけれど、これは実は四人用。班に一つあれば十分である。
そして教師たちはそんな説明を一切してくれない。にこにこ笑いながら見ているだけだ。
「くそ~、かばんに入りきらない……」
このあたりで気づく者も出始める。
全部持って行くなんて到底無理だ。そもそも背負い袋に入らない。
自分で判断して何かをあきらめないといけない。まだ一年生の子供たちにとって、いきなりしょっぱなから意地悪な課題だった。
「これは困りましたわね」
「どうしましょう、トルネさま……」
みんなが大きな袋に荷物をつめて出発していくその横で、トルネ嬢は考え込んでいた。
この事態、おそらくだけど、うまく解決する方法がどこかにありそうである。
「わかりました、謎はすべて解けましたわ!」
「さすが、トルネさま!」
「まず、荷物は全部、馬車に積み込むのです」
「でも、馬車は使っちゃ駄目だって、先ほど先生が……」
「お~ほっほっほ。そこがポイントなのですわ。わたくしは命じていないのだけど、馬車がわたくしを慕ってどこまでも勝手についてきてしまう。これは避けられないのですわ~!」
「その通りです、トルネさま!」「名案です、トルネさま!」
「馬車が勝手について来ぬよう、しっかりと命令しておくんじゃぞ?」
学園長の一言に、再度トルネ嬢の絶叫が響いた。
「そんなの、横暴すぎますわ~~~!」
「ここはもう、先生のお言葉に従うしか……」
「いいえ、違いますわ。ここは相手の裏の裏を読まねばならない場面ですのよ?」
「では、いったいどのような……」
トルネ嬢がパチン!と指を鳴らすと、モ~~!という牛の鳴き声が聞こえてきた。
「トルネさま、そ、それは……?」
現れたのは馬車ではなくて牛車。
「禁止されているのは馬車。ならば牛に引かせる牛車ならば問題ないのですわ~! お~ほっほっほ!」
「馬車も牛車も禁止じゃぞ。あともちろん、ロバ車も犬車も人力車も、すべて禁止じゃ!」
「ならば、奥の手!」
パオ~~~~ンッ!
もちろんゾウも禁止された。
出発……しない!
この野外実習、ほんとうに出発できるのか!
キャナリーたちはどうなってしまうのか!
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