27.前期・野外実習
転生少女キャナリーは、強烈なライバル・トルネ嬢に巻き込まれて(?)迷子のポワンシェ探しに奔走する。
仲間たちとの絆を深めるその陰で、彼女の『隠れた魔力』が少しずつ目覚め始めていた。
新章!
キャナリーを待つのは、広大な自然の中での野外実習と、森に眠る古の秘密!
~~中央学園新聞~~
《大特集!野外実習、ここが違う?》
一年A組担任に就任した学園長が、その権力を振りかざして、実習内容を大幅に変更したとのうわさを我が新聞部は聞きつけた……
《運勢》
火 今の友情を大切に、迷うな
水 水場は吉
土 試練の時、焦るな
風 忘れ物は見つかる、かも?
~~~~~~~~~~
ここは中央魔法学園。
この広大なルミナール王国でも、最上級の魔力を持った者たちだけが学ぶことができる、王国最高の学園だ。
その学園にはなんだか最近になって、少し浮かれたような、どことなく楽しそうな、そんな溌剌とした空気が流れている。
夏の陽気に誘われて、というのはある。夏休みが近づいてきた、というのももちろんある。
でもそれだけじゃない。学園前期、夏休み前最大のイベント、野外実習が近づいてきたのだ。
キャナリー、アーシュラ、そしてショミンダの三人も、そんな楽し気な気配に流されていた。
「ほへ~。野外実習って何するんだろ?」
「みんなで森に行って何かするらしい。鍛錬じゃないか?」
「私は、野宿するって聞きましたよ?」
「森で野宿……熊と戦ったりする? 弓矢がいるかな?」
「熊どころか、魔獣と戦うのかもしれん……腕が鳴るなっ!」
「……おなか痛くなってきました……ズル休みしたい……」
森の中で野宿、そして鍛錬……、とても危険な香りだ。
「ズル休みなんかしたら、逮捕されちゃうかもしれないよ?」
「間違いなく牢屋入りだ」
「えええ? 早く逃げないと……どうやって逃げましょう……」
「走って逃げても追いつかれちゃうかな……」
「川を船で下る、これしかないですよ!」
「新聞にも水場が良いって書いてあったもんね!」
「船は……木を伐れば……」
……。
放っておいたら、どこまで行くつもりなんだろうか。
「いったい何の話なのよ……。みんなで森に行って自然の中で楽しく学びましょうっていうイベントよ? 木を伐ってどうするのよ……」
ジャネの説明によれば、簡単に言えば、野外実習とは泊まりがけの遠足だ。
「おお! 遠足か!」
「おやつはいくらまでかな?」
「ドングリはおやつに入るモモ?」
多分ドングリはおやつに入らない。食べ放題だぞ。
「さて、みな聞いていると思うが、来週には野外実習が行われる」
「おお~~!」「やった~!」
教室に入ってきたエライ先生の言葉に、わきおこる歓声。
「これ、静かにせよ。騒ぐようなら留守番してもらうぞぃ?」
教室は一瞬で静まり返る。
「野外実習は二泊三日、行先は王都近くのモンモリヨンの森じゃ。班ごとに活動してもらうことになるゆえ、今から仲の良い者同士で四人組を作るのじゃ!」
四人一組で班を作ると聞いて、トルネと三人娘が速攻で班を作っている。
キャナリーたちはというと、キャナリー、アーシュラ、ショミンダの三人、そしてあと一人。
ジャネに声をかけようと思ってそちらの方をうかがうと、どうやら別のグループに先を越されてしまったようだ。
「……これって、どうなるの?」
「クラス二十人のうち、女子は十一人ですよね」
「男子から一人、このグループに入るってことだな!」
この三人、男子だからと言って、特に毛嫌いするということはない。それはないけど、一体誰がこっちにくるのだろう?
……。
「誰も来ないよ?」
「もしかして、このグループだけ三人なのでは?」
いや、そんなはずはない。このクラス一年A組には、ちゃんとぴったり二十人いるはずだ。
「誰か余ってる人、いませんか~?」
キャナリーが声をかけるが、誰も反応がない。
「一人づつ聞いてみるか」
「それしかありませんね……」
みんなに聞いてみても誰も余っている様子がない。
「どこかに五人の班があるんじゃありませんこと?」
「さすがトルネさま!」
クラスのみんなも初めて「さすが!」と思ったトルネの意見だったが、どの班もしっかり四人で、どこにも五人の班など無かった。
「こうなったら、名探偵キャナキュール・ホームソーの出番……」
「無理ですよ、麦わら帽子と虫眼鏡を部屋から持ってこないと」
「私も剣はさすがに持ち込んでいないしな」
まさかの迷宮入りかと思ったその時、
「一人だけいるモモ……」
まさか!
リリスが指さす方向、そこには第三王子殿下が背筋をしっかり伸ばし、前だけを見つめて座っていた。
「殿下ぁ~、余ってるなら余ってるって、教えていただけないと困りますよ……」
「失敬な、俺は余ってなどいないぞ。余っているのはお前たちの方だろう?」
この殿下、かなり面倒臭いタイプだった。
「みな、班はできたようじゃな。では班長を決めて、わしの所まで報告に来るようにのう」
「ふえ~、班長ですか~」
「仕方ないな」
「しかたありませんね」
キャナリーたち三人の顔が思案に沈む。
その姿を見て、王子は思った。
王家の者にあまり敬意を表さない者たちではあるが、ここは嫌でも王子である自分に班長の座を譲らざるをえない、そう考えているんだろう。
ならばこちらから言い出すことで、彼女たちの心を軽くしてやらねばなるまい。それもまた王族の義務というものだ。
「確かにしかたあるまい。ここはオ……」
「「「ジャンケンで!」」」
王子が言い出そうとすると同時に、三人の顔がパッと上がった。その三対の瞳は間違いなく燃え上がっている。
「待ってください、こういうのは三回勝負ですよ!」
「駄目ですよ~だ。一発勝負で~す!」
「くぅ! 負けた! このチョキが!ちょきが憎い!」
「やった勝った! わ~い、私が班長だ~!」
「副班長か……まあ、それも悪くないな」
「それじゃ私は参謀長ですね……」
「ちょっと待て、俺……」
「殿下は一番負けだから……平班員?」
「だな」
「ですね」
第三王子殿下、これが人生で初めてヒラに落ちた瞬間であった。
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今回の一年生の野外実習は、前述のとおり、二泊三日で行われる。
行先は王都近郊、北西に位置するモンモリヨンの森。
去年までのパターンなら、みんなで馬車で行って馬車で帰って来る、それこそただの遠足だったんだけど、今年は少し様相が異なっていた。
「野外実習というには、なんとも、ぬるすぎじゃのう……」
教師たちにとってすべての悪夢は、今年A組担任を兼任している学園長のこの一言から始まったのである。
「学園長、相手はまだ十歳の一年生ですからねぇ」
「そうですよ? ぬるいぐらいでちょうど良いんです」
「いや、駄目じゃな。馬車はやめて徒歩で現地に向かう。一日分の水と食料、それにテントなどの道具も自分で運んでもらうかの」
「そんなの、大人でも厳しいですよ!」
「子供の足じゃ、荷物無しでも丸一日かかりますよ?」
「あと、ここはこうして、こうじゃな!」
「駄目ですよ、死人が出ちゃいますよ!」
「さらにこうじゃ!」
「だれかお願い、学園長を止めて~~!」
こうして楽しい遠足とは程遠い、なんだか激しく厳しい軍事演習のようなものが行われようとしていた。
さて学園長に魔改造された野外実習、キャナリーたちは生き延びることができるのか!
キャナリー頑張れ、殿下頑張れ! 応援して下さる皆さま、ぜひとも★評価や感想★をお願いいたします!




