24.さすらいのポワポワ
太陽は真上でさんさんと輝いている。昨日のお昼から始まった探偵団活動もいよいよ大詰めだ。
「それじゃおさらいね。飼い主のカイヌシーヌによると、いなくなった犬の名前はノーラ。犬種はポワンシェ。首輪なんかはついてない。名前を呼べば返事をしてくれるそうよ」
「ポワンシェってどんな犬ですか?」
「真っ白で、ぽわぽわ巻き毛の可愛い犬、ですよ」
カイヌシーヌの話では、わた雲が走り回ってる感じだそう。
「それでは、行きますわよ!」
しっかり戻って来ているトルネが、レースの扇をパサッと開いて、高らかに宣言した。
「いつもの扇に戻ったんですね!」
「ふっ、シロウトはこれだから困りますわ」
いつもと……ちがう! 模様が犬になってる!
「わざわざ用意したのか?」
アーシュラの問いに、トルネは人差し指を立ててチッチッチと左右に振ると、頭の上のとんがり帽子をおもむろにとった。
その中からは……出るわ出るわ、犬だけじゃなく、猫にねずみ、鳥にちょうちょ、どうやって入ってたんだというばかりの、あらゆる種類の模様が入った扇の数々。
「おほほほ、最初から準備はできてますのよ。勝負は戦う前から始まっているのですわ~!」
お嬢さまの扇道、思ったよりも奥が深かった。
「そういえば、キャナソン博士。『真実はドングリだけが知っている』……とか、おっしゃってましたわよね?」
「オレ、ドングリ。シャベレナイ……」
リリスの抱えたドングリに手を当てて、腹話術? いや、口はしっかり動いている。
「さすがキャナソン博士、私には見破れないトリックだ!」
「……どうでもいいから、早くはじめましょうか」
捜査の基本、それは現場の探索、そして地道な聞き込みだ。名探偵シャーロキュール・ホームソーもそう言っている。
「ここがポワンシェのノーラがいなくなった場所ですね」
探偵団のみんなが虫眼鏡を持ってしゃがみ込み、思い思いに色々な場所を調べ始める。
トルネは一人、扇を手に立ったまま。別に偉そうにしているわけじゃない。ただ虫眼鏡を持っていなくて、やることがないだけだ。
「あっ!」
「なにかございましたの、キャナソン博士!」
「ありんこが、大きなダンゴ虫を運んでる!」
「大発見だな」
「これは負けていられませんね」
探偵たちによる現場での懸命な探索。しかしミミズやへびの抜け殻は得られても、確かな手がかりは何も得られない。これは厳しい捜査になりそうだ。
「次は聞き込みよ」
校舎の中に入るとすぐに、前から金キラキンのカボチャが歩いてきた。
「このデブリスもお力になりますぞ!」
「いや、大丈夫だから」
「いやいや、ご遠慮いりませんぞ!」
「いやいやいや、本当に問題ないから」
「いやいやいやいや、これも伯爵家子息のつとめですぞ!」
「いやいやいやいやいや、……」
………………ふぅ。
「いや」がニ十個ほど並んだところで、何とか丁寧にお断りすることに成功した。
「しかし……どこから聞きつけてくるんだ?」
「手伝ってもらったほうが良かったかも」
「情報力はすごいですよね」
「あっちにコード会議の人たちがいるよ? 何か知らないかな?」
「迷子のポワンシェを探してるんだけど、何か知らない?」
「ポワンシェって、あの丸っこいふわふわの犬? 知らないな」
「それはそうと、魚の食べ方なんだけど……」
「そ、それは、コード会議の時にでも! またね!」
「あ、殿下がいる! 聞いてみようよ」
「知らん、自分たちで探せ!」
その他にも、いろいろな人に聞いて回ってみたものの、迷子のポワンシェを見たとか、そんな話を聞いた、という人は見つからなかった。
現場捜査も、聞き込みも、結果としては空振りだ。
「名探偵ジャネキュール・ホームソー、次はどうしよう?」
「自分たちの足で探す。最後はこれよ!」
いくつもある運動場や中庭など、犬がいそうな場所を見て回ったけれど、どこにもそれらしい姿はみつからない。
「あと、残るは森だけですわね」
「森は広いからな、どこかに紛れ込んでるかもしれないぞ」
「手分けして探そう!」
それにしてもおかしい。あんなタンポポの綿毛がそのまま大きくなった姿、見逃すはずがないのに。
「たぶん穴の中モモ」
それがあったか!
キャナリーとリリスは森の中で穴を探しては、その中を覗いてみる。
でも、空っぽ、空っぽ、ときどきアナグマ。そう簡単には見つからない。
「あ、何か白いのがいる!」
「見つけたモモ?」
手を突っ込んでみるキャナリー。しかし出てきたのは真っ白は真っ白でも、真っ白なウサギだった。
「ひょえ~~、ごめんなさい~。ゆるして~!」
怒ったウサギに追いかけられて、キャナリーはわき目もふらずに逃げ出した。
「ふぇぇ、危なかったね……って、変なところに来ちゃったね」
このあたりは森のはずれで、毎朝の散歩でもあまり通らない所だ。
「あそこにも穴があるモモ!」
「よし、調べてみよう!」
リリスの見つけてくれた穴を虫眼鏡で覗いてみる。
「なっ、何?」
その穴の中では、色とりどりのサンタ帽をかぶった小人たちが、大きな焚火を囲んで酒盛りをしている。
驚いて目をこすってもう一度みると、小人なんてどこにもいない。
そう、小人じゃない。そこにいたのは白いぽわぽわ!
「痛っ!」
引っ張り出そうと手を突っ込むと噛みつかれてしまった。優しい子だって聞いてたのに、かなりイライラしているのかも。
抵抗して暴れるぽわぽわを外に出してみると、うん、間違いない。ウサギじゃなくて、今度こそ犬。ポワンシェだ。
「大変モモ! まだ中に何かいるモモ!」
穴の中には、まったく動こうともしない、とても小さなぽわぽわたちの姿があった。
キャナリーは冷たい穴の中にもう一度ゆっくり手を入れる。
「……あれ、あたたかい? まだ……生きてる? 生きてるよ!」
穴から助け出されたばかりの、まだ小さな四匹のポワンシェの子犬は、かなり弱々しく「きゅぅぅ」とだけ鳴いた。
その直後、仲間たちに助けを求めるキャナリーの声が森に大きく響きわたった。
「……ぽわぽわ、増えた」
「まあ! 大変!」
探偵仲間たちと一緒に応援にやってきた飼い主のカイヌシーヌ。彼女の指示に従って、子犬たちをつれて保健室に急ぐ。
「ノーラ。あなた赤ちゃん産んじゃったの? 男の子なのに……」
「えええ~! オスだったの!」
だとしたら、母親はどこにいっちゃったんだろう……。
「いじめ……あの様子からしても、これはただの誤解のようですわね……」
口々に子犬の心配をしながら慌ただしく去っていく探偵仲間たちを、トルネは一人静かに見送る。
「いじめは赦しがたいが……それはそれとして、今日の授業はどうしたんじゃ。トルネディアーネア嬢?」
「ひぃっ? が、学園長先生!」
「やはり少しお説教が必要かのぅ?」
なんでわたくしだけが! あの天然連中め!
「これはやっぱり、『いじめ』ですわ~~~っ!」
(作者注:ポワンシェは実在する犬種をイメージした造語です。ぽわぽわしてて真っ白な、小さくて可愛い犬。ほら、あの子です。もしも興味をお持ちなら、当ててみてくださいね!)
迷子の犬のとんでもない秘密とは……仔犬がいて、しかもオスでした!(母親どこだ……)
四匹の仔犬の里親になってみたいな~ってみなさん、ぜひとも★評価や感想★をお願いいたします!
この仔たち、ほんとにどうしよう……里親募集……の前に母犬見つけないとマズい!




