22.幽霊を追え!
カチッ カチッ カチッ カチッ
誰もが声を失い、静まりかえった暗闇の中で、古い柱時計の音だけが正確に時を刻み続ける。
置物と化した応援団の三人だけでなく、五人と一匹の探偵たちまでもが、まるで時の魔法で止められたかのように身じろぎもせず、ただ魔法ランプの黄色い灯りだけを見つめている。
ぎぎぎぎぎぎぃ~~~、バタンッ!
「い、い、今のは!?」
「下からだったぞ?」
反響してわかりにくかったが、間違いない。それは確かに階下から聞こえてきた。
「行ってみましょう!」
「ああ、そんなに急いじゃ危ないです、特に階段は足元に注意しないと!」
「ゆっくり急いで、だな」
「ゆっくり急ぐって……どうすれば~?」
二階、一階と、少しづつ降りながら、怪しい場所がないかを順番に確認していく。
「特にそれらしい場所はありませんわね」
「とすると、あとは……地下?」
地下。それは化け物たちの巣窟。そして魔物たちの楽園。
特にここは魔法学園、それも旧校舎である。その地下にはどんな妖怪がはびこっているのか、それは誰にもわからないのだ。
「……行くしかないぞ」
「うん、そうだね。行くしかない!」
「気をつけるモモ!」
リリスの警告の元、ゆっくりと地下に降りていく探偵団一行。
階段を一段降りるごとに、空気がどんよりと湿っていくのが肌に感じられる。この先は今までの世界とはまるで違う。黄泉の世界にでも繋がっているというのか。
「なんというか、怪しさ満点だな!」
「待って、静かに! 何だか音がしない?」
みんなが口を閉ざし、耳を澄ませる。
ぽとん……、ぽとん……
「……水がしたたる音?」
「ま、まさか!」
慌てるようにして魔法ランプで照らした廊下には、ところどころ赤黒く変色した跡が映し出される。
「……濡れてるよ!」
「血の……跡……?」
キャナソン博士だけでなく、他のみんなも屈みこんで確認するが、ほんのりと湿っていることがわかるだけで、それ以上のことは何もわからない。
その時、廊下の先ではっきりと何かが動いた。ネズミのような小さな生き物ではない。それは真っ白で、まるで、まるで……
「ゆ、幽霊~~~ぃっ!」
「大丈夫、任せろ!」
泣き叫び、そして走り出しそうになるトルネとその仲間たちを、アーシュラは力強い言葉で押さえると、帽子を飛ばして勢いよく前に出た。
腰の剣をさらりと抜き、しっかりと上段に構える。
「アーシュラ・スフォルツァーテ推参! この家名に懸けて、絶対に魔物を後ろには通さんっ!」
本気も本気、命を懸けるかのような超気合に、彼女の赤い髪が燃えあがるように逆立つ。
まるで本当に燃えているかのような、目に見えるほどの気合の炎だ!
スフォルツァート男爵家、それは伝説の剛爵。
はるか遠い昔、激しい戦の中、国王が敵に囲まれ討たれそうになった時、たった一人で国王を背に守り、敵を一歩たりとも通さずに守り続けた男がいた。
味方が遅れて駆けつけた時、最後まで国王を守り続けたその男は、剣を構えて倒れることなく、そのまま旅立っていたという。
国王はこの男を、国一番の剛の者、剛爵と呼び、その勇を称え続けた。
その剛爵の末裔が今、目の前で燃えていた。
……いや、違うっ!
本当に燃えてるっ! 燃えてるってば!
「熱っ! 熱っ!」
「早く消さないと! 誰か水! 水を!」
「はい、トルネさま! ザザザ……、ザバ~♪」
ばしゃっ!
なぜか頭から水をかぶって、びしょ濡れになるトルネ。
「か、乾かさないと! 火?」「いや土?風?」
「わたくしはいいから、早く火を消しなさ~~いっ!」
魔法の火はそれからすぐに消し止められ、アーシュラの髪がちょっとチリチリになった他は、トルネが濡れねずみになっただけで幸いにして大した被害はなかった。
「ふぅ~、なんとかなって良かったよ」
「そう言えば、あの白い幽霊は?」
その白い幽霊、あれだけの騒ぎだったというのに先ほどまでと何も変わらず、廊下の先でフラフラと揺れている。
「なんだか……酔っ払っていらっしゃる?」
トルネが濡れた髪を布でぬぐいながらつぶやいた。
黄金の超二重ドリルは、水に濡れてもまったく型崩れせず、それどころかツヤツヤと健康的になり、ひと巻きほど余計に増えている。
それをぬぐうと、伸ばされた髪がそのたびにビヨ~ンッと元気よく元通りに跳ね上がり、周囲に水しぶきを飛ばす。ランプの灯りまでが丸い虹になって、そのドリルを称えるように照らしていた。
もちろんとんがり帽子の方はそうはいかない。濡れた先っぽがへにょりと萎れたままだ。
「いったいなにごとじゃ、この騒ぎは!」
「え? エライ先生? なんでこんなところに!」
突然の学園長兼クラス担任のエライ先生の登場に、びっくり仰天だ。
「さては、わしの秘蔵のワインを飲みおったな」
エライ先生は白い影の方にかけよると、フラフラしているその人影を抱き上げる。
「こんなに水浸しにしおって。いたずらもほどほどにするようにの」
「は~い、ごめんなさい~」
目配せする先生についていくと、先生はある扉の前で立ち止まり、蝶番のあたりに手を当てて押し上げるようにしながら、ギギギギ~という音を立てる扉を器用に開けた。
「みんな、入ると良い」
お酒の匂いがプンプン漂う部屋の中には、大きな古い樽がいくつも並んでいる。古すぎて傷んでいるのか、中の液体がポタポタとこぼれているものもある。
「この部屋のことは、みんなに内緒じゃぞ?」
子供にはこっちじゃ、そう言ってコップに注いでくれたのは、何だか赤い液体……甘くておいしいぶどうジュースだ!
「開かない扉に、滴る赤い液体……まさか学園長が犯人だったとは」
「さすが名探偵、これで謎は全部解決ですね!」
「待て、あの古時計は? 誰がどうやってネジを巻いていたんだ?」
「あの階段のところの柱時計かの? わしが時折ネジを巻いておるんじゃが、すぐに時間が狂ってしまってのう」
「えええ? じゃあ、ホコリはなんで……」
「えへへへ~! 探偵っぽく言ってみただけ!」
「……キャナソン博士ぇ~」
「そんなことだと思ったわ。何だか引っかかっていたのよ。空気が澄んでいてホコリっぽい匂いがしないのに、そんなにホコリが溜まってるはずがないって」
「あとは、その白い人が残っていますわ」
「たしかに。なんで旧校舎なんかにいたんだ?」
目を覚ました白い影、白いローブを着たその人の話を聞いてみる。
「私はカイヌシーヌ、学園の三年生です。飼っていた子犬のノーラがこの辺りで逃げ出して、それでずっと探していたの」
「つまり……、探偵団の次の仕事は犬探しね!」
「みんなで頑張ろ~!」
「おお~っ!」
「えええ~、わたくしもですの~~~っ?!」
名探偵トルネキュール・ホームソーの髪が、勢いよくポヨヨンと跳ね上がった。
この時、彼らはまだ知らない。その迷子の犬に隠された、とんでもない秘密を……。
謎が謎を呼ぶ! 真実にたどり着くことはできるのか?!
学園探偵団を応援して下さるみなさん、是非とも評価をお願いします!




