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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第四章 旋風篇 (一年生前期)

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21.学園の怪談

 友人三人がいじめられた問題、トルネディアーネア嬢はもちろんそのことを忘れてはいなかった。


 コード会議に期待したが、あの内容を見ればとても頼れるようなものではない。ここは自分たちから、キャナリーたちに突撃して直談判するべきだと、三人の姿を探していたのだ。


 ところがこの三人、何を考えているのかどうやら学園内をうろうろしているらしく、まったく見つからない。あちこち探し回り、走り回って、今ここでようやく捕まえたのである。



「ああ、ちょうどいいところに!」

「何がちょうどいいですか! わたくしは怒っているのよ?」


「えっと、ト、トレトレトレー?さん……」

「なんだ、ショミソン博士。そのカニ料理みたいな名前は」

「アシュソン博士こそ、なんでそこでカニ! 普通は魚屋とかでしょ!」

「ええ? ジャネ、おさかな売ってるお店なんてあるの?」


「……なんなんですの? 貴女たちは……。言い分は聞いてあげます。お話しなさい」


「あの、えっと、とれ、とる……、信号機さん!」

「シンゴ……? な、なんですの、それは」


「ごめんなさい~、名前が長すぎてすぐに出てこなくて……」

「わかりましたわ、仕方ありません。トルネとお呼びなさい」


 トルネディアーネア嬢は、よほど親しい人にしか愛称呼びは許していない。しかしこの広い王国、出身地方によっては長い名前は発音しにくいことがあることは知っている。


 そしていくら揉め事になっている相手でも、それを許すくらいには彼女は充分寛大であったのだ。


「歓迎するわ、トルソン博士」

「いえ、名探偵トルネキュール・ホームソーじゃない? 三色だし」

「二人目の名探偵ですね!」


「なんなんですのよ……」


 しかし、そんな冷静な判断が彼らに通用するわけがない。どうやら一瞬にして勢いに飲みこまれてしまったようだ。



 トルネは初手の失敗に少し後悔したが、そこはさすがに上級貴族のお嬢さま。立ち直りは非常に早かった。


 戦いを有利にすすめるには、敵をよく知る必要がある。相手の長所や短所を知るには、懐に潜り込むのも良い一手だ。そう自分に強く言い聞かせる。


「それで、この騒ぎは一体何ですの?」

「我ら学園探偵団は、謎の白い影の正体を暴くため、今夜旧校舎を潜入調査する。名探偵トルネキュール・ホームソー、君にもぜひ参加してもらいたい」


「何故わたくしがそんなことを……」

「真実を暴くのは正義の行いだぞ」

「まさか夜の校舎が怖いんですか~?」


「だ、だ、だ、だれが怖いですって! し、真実など、このわたくしが叩きつぶしてさしあげますわ! おほほほほっ!」


「さすがトルネさま!」

「素晴らしいトルネさま!」

「みんなの憧れトルネさま!」


 トルネは勢いよく笑い飛ばしてみたものの、その足はガクガク震えている。しかしそれは縦三色(トリコロール)ローブに隠れて、応援団にすら気づかれなかった。



 名探偵トルネキュール・ホームソーと三人の応援団を加えた学園探偵団は、完全に日が落ちた旧校舎の前に集合していた。


 先ほどまで夜を明るく照らしていた月も今では半分以上が雲に隠れ、いつも人々を優しく見守ってくれている赤と青の双子星も全く姿を見せない。


 ぬるぬると這いよる生暖かい風が、ホーホーというフクロウの鳴き声を、どこからともなく運んでくる。


「それじゃあみんな、準備はいい?」

「も、もちろん! このわたくしに死角はなくてよ?」


 高らかに宣言したトルネの装いは、他の探偵たちとは大きく異なっていた。


 縦三色(トリコロール)ローブのせいで違う、そんな程度の話ではない。


 その超二重ドリルの豊かな金髪を包み込む、まさに一流の魔法使いのようなとんがり帽子。それは花模様のふりふりレースで華やかに飾られた極上の一品。


「なんか帽子が探偵っぽくない~!」

「わたくしは超一流の名探偵ですもの。普通の名探偵とは違って当然ではなくて?」


 キャナリーたちの麦わら帽子もぜんぜん違うので、どっちも正解ではない。


「あれ? 虫眼鏡は?」

「ふっ、わたくしにはこれがありますわ!」


 バサァァッ!


 音を立てて大きく広げられたその扇、昼に見せられた物より二倍以上大きく、豪華さもはるかに際立っている。


 他の探偵とは全く違う装いながら、なぜか不思議な説得力がある。


 昼間はキャナリーたちの勢いに負けたトルネだったが、本気になれば勢いだってまったく負けてなかった。



「さあ、そろそろ行くわよ」


 探偵団は旧校舎に向けて進みだす。このあたりは普段の校舎とは違って人通りが少なく、雑草だって伸び放題だ。


 ぴょんっ! バッタか何かがトルネに飛びついた。


「キ、キっ……」


 意地とプライドにかけて、全力で悲鳴を押し殺すトルネ。


「き?」

「き、き……きりぎりす! そう、キリギリスがいますのね」

「これだけ草が生えちゃうと、うっとおしいよね」


 生粋の田舎者であるキャナリーをはじめ、アーシュラも同じような山育ち、ショミンダは海沿いだけれど出身は田舎の漁村、この程度の暗闇など何ともない。


 対するトルネとその仲間たちはというと、トルネだけはなんとか踏ん張っているものの、応援団の三人は応援どころかもう、完全に言葉を失ってただの置物になっていた。



 ぎいいぃぃぃぃっ……


 探偵団は旧校舎の重い扉を開けて中に入っていく。


 魔法ランプの黄色い光が、真っ暗闇の建物の中をほのかに照らす。


「風がまったくないモモ……」


 古い建物には珍しく、すきま風などがまったく吹き込んでこない。おどろおどろしく吹き抜ける風の音がしないので、光だけでなく音までも奪われてしまったかのようだ。


 ドドドドッ!


 目の前を突然、小さな黒い影が横切った。


「わわっ!」

「ネズミだモモ。お友達だけど、呼んだ方がいいモモ?」

「ん~? 今はまだ大丈夫、かな」


 キャナリーには珍しく周りの空気を読んで、リリスの提案を断る。


「これだけ暗いと足元が不安ね」

「転ばないように気を付けないと……きゃっ!」


「どうした、ショミンダ! ……じゃなくて、ショミソン博士!」

「ここ、板が腐って穴が空いているわね」


 ジャネが照らしたところには、ぽっかりと大きな穴が空いていた。さっきのネズミもここから出てきたのかもしれない。



「謎の白い影は上の階に出たみたいだし、まずは階段を上がってみようか」

「了解!」


 一歩のぼるたびに木製の階段はギシギシと(きし)み、板のたわみがそのまま足に伝わってくる。


 それだけ古い建物の割には、古い納屋などにはありがちな、どこかすえたような、澱んだ匂いはしなかった。


「なんか壊れそうだな」

「そうなると大変だから、ゆっくり進みましょう」


 全員が何とか無事に昇り切ったとき、


 ご~~~ん


 すぐ側から大きな音な鐘の音が響いてきた。


「な、な、な、何ですの?」

「柱時計ね。まだ動いてるみたい」


 階段を昇りきった最上階の踊り場に、大きくて古い柱時計が立っていた。その針は一時ちょうどを指している。


 夜中なのは間違いないが、まだそこまでの深夜じゃないはずだ。


「ホコリが積もってるよ?」


 虫眼鏡でそれっぽく確認して報告するキャナソン博士。


「誰も触ってないはずなのに、ずっと動き続ける柱時計……なんだか謎がありそうね」

「幽霊がねじを巻いている、とかでしょうか」

「それはあるかもしれないぞ!」



「ゆ、幽霊なんて、いるはずがありませんわ……よ……ね?」

「幽霊かどうかはわからないけど、さっきから何かが引っかかるのよ」


「何かって、いったい何ですの?」

「それがわからないから、気持ち悪いのよね」


 深夜に徘徊する謎の白い影。


 その正体は本当に幽霊なのか。幽霊が今、この旧校舎に潜んでいるというのだろうか。


 誰もが言葉を発することを忘れ、ただ黙り込んでいる。


 その静けさが、暗闇を支配していく……。


旧校舎……ここには絶対に何かがある!

探偵団は、キャナソン博士はそれを探し当てることができるのか?


学園探偵団を応援して下さる皆さま。是非とも評価をお願いします!

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