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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第四章 旋風篇 (一年生前期)

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18.コード(地域間友好会議):誕生

 中央魔法学園内での、学園生同士の対立。


 それは別に今はじまったものではない。たしかに年々、激しさを増しているように感じるけれど、昔からあったのは間違いない。


 ただ、今年はいつもとは少しだけ状況が違っていた。


「殿下、そういうわけじゃから、頼みますぞ」

「良かろう。その話、引き受けざるを得ないな」


 そう、対立の現場近くに王族、それも王子がいたのだ。



 出身地の問題か、爵位や財力の問題か、特に新入生たちの間で発生しつつあった対立の問題。


 その片鱗を感じ取った学園長はじめ教師陣は、学園生の間の融和を図る必要性を認めた。そして手始めに一年A組B組代表による地域連絡会を作り、その運営を第三王子に担ってもらうことが決定したのだ。


 そうして設立されたのが、


 地方間友好会議、略称「CORDE(コード)


 その名前には、一人一人の力を()り合わせて一本の太い紐に、そんな協調の意味も込められていた。



 コードの設立と趣旨、およびそのメンバーが学園の掲示板に大きく貼りだされる。


 初期メンバーは東西南北それぞれの地域から、A組女子一名、B組男子一名。それに議長として王子殿下、オブザーバーとして新聞部一名の、合計十名であった。



東 トルネディアーネア・ド・リドリール・マーリマクルウ侯爵令嬢

  ナガレル・ド・サラサラン子爵令息


南 アーシュラ・スフォルツァーテ男爵令嬢

  ウミーユ・イソー子爵令息


西 キャナリー・イナカモント男爵令嬢

  ホルホル・コーザン男爵令息


北 ショミンダ・サーモンネ男爵令嬢

  デブリス・デブラン伯爵令息


議長 第三王子殿下

広報 ジャネ・カラワバン(新聞部)



 ~~~~~



「みんな、仲良くしないとダメだよね!」

「その通りモモ!」


「ああ、ケンカはよくないぞ!」

「対立だなんてまったく、困った話ですよね」


 突然のように設立されたコード、その初めての会議に呼び出されたキャナリーたち三人。


 自分たちがその原因だなんて、まったく想像すらしていなかった。



「こんにちは~」

「みんな、よろしく頼む!」


 会議に指定された部屋に入ってみると、机が十台、円を描くように並べられていて、席は半分ほど埋まっていた、


 机にはそれぞれ名札が置かれていて、誰がどこに座るのか、あらかじめ決められている。どうやら出身地の東西南北に合わせるように、できるだけ男女が交互に並ぶようになっているようだ。


 北と東の間には議長の第三王子がもうすでに座っており、その反対側、南と西の間には広報、そのジャネもすでに席についている。


「よっこいしょ! よろしくね、ジャネ」

「ええ、キャナリー、こちらこそ。まあ私は広報係だから、見学みたいなものなんだけどね」


 逆隣の男子生徒とも軽く挨拶を交わす。彼は同じ山でもキャナリーとは違い、鉄や宝石を掘りだす鉱山の村出身だそうだ。


 席はどんどん埋まっていき、近い席の相手とのあいさつも進んで行くが、殿下の両脇だけがいつまでも埋まらない。


 最初は「わざわざ空けてあるのかも」と思ったけれど、どうやらそうじゃない。東と北の代表がそれぞれ一人、遅れているらしかった。



 そうしていると、部屋の扉が開いた。


「おお、遅くなって申し訳ないですぞ! 私めが、デブリス・デブラン。北の港町を治める伯爵家の子息ですぞ! お見知りおきくだされ!」


 入ってきたのは、金キラキンに光る、一人の男子生徒だった。


「うわぁ~、まぶし~い!」

「キラキラだモモ!」


 おそらく金糸をたっぷり縫い込んだのだろう、金ピカに光り輝くローブ。


 その体はかなりのぽっちゃり系で、金の玉の上に頭がのっかっているようなイメージだ。


 その頭はまるでカボチャのよう。髪の毛はカボチャのヘタのように頭頂部のあたりでまとまっている。


「私めの席は……、おお、これは素晴らしい、殿下の隣ですな! まことに大変な名誉ですぞ! 逆側の隣は……、なんと、サーモンネ男爵のご令嬢ではございませんか! いつぞやは大変素晴らしい取引ができたと、私めの父、伯爵も喜んでおりましたぞ! これからもよしなに、とお伝えくだされ!」


 眩しいだけでなく、どうやら騒がしい人物のようだ。


「これはなんたること、気づきませなんだ、スフォルツァーテ男爵家のご令嬢がいらっしゃったとは。このデブリス、一生の不覚ですぞ! 確か以前の園遊会……」


「デブリス、あいさつは後にして、先に席につけ」


 いつまでも続きそうなあいさつに、殿下が割り込んだ。


「おお、これは殿下、デブリス・デブランともあろうものが、とんだ失態。申し訳ございませんですぞ! 百どころか千の言葉で詫びても、取り返すことはできませんぞ!」

「……いいから座れ」



 デブリスがやっと席につき、部屋は少し静かになった。


 かと思ったら、また部屋の扉が開き、入ってきたのは女生徒が一人。いやその後に三人の女生徒が続いている。


 先頭にいるのは、トルネディアーネア・ド・リドリール・マーリマクルウ侯爵令嬢。


 輝く金髪の二重螺旋・超ドリル、鮮やかな縦三色(トリコロール)のローブ、まさにお嬢さまの中のお嬢さま。


「あら、これは、みなさま。お揃いのようですね」


「さすがトルネさま!」

「素晴らしいトルネさま!」

「みんなの憧れトルネさま!」


 金髪超ドリルで縦三色(トリコロール)のお嬢さまは、そのまま三人の取り巻きを引き連れて、王子殿下の左となりの席に座る。


 もちろん彼女が座るのは、取り巻きたちが彼女の椅子を引いてからだ。


「これだけ男性がいらっしゃるのに、誰も淑女の椅子を引かないとは……なんとも寂しいことでございます」

「あら、いいのよ、サスガンヌ。淑女がそんなことを口に出すものではないわ」


 三人はトルネディアーネアの後ろに立ったまま、「お嬢さま素敵!」の三拍子を続けている。


 下手にそちらに視線を向けると、後ろで応援している三人の、赤、黄、青のローブ姿が、トルネディアーネアの縦三色(トリコロール)ローブと交じり合って、何か特別な魔法が働いているような、そんな幻覚さえ感じさせる。



 しかしそれは殿下には通用しなかった。すぐ真横から見ているのだから当然だ。


「そこの三人は呼ばれておらん。席をはずせ」

「あら、殿下。そちらにも、呼ばれていない方がいらっしゃるのではなくて?」


「ふへ?」


 トルネディアーネアの視線の先にいたのはキャナリー。いやその肩の上の精霊リリスだ。


 まずは軽くジャブ。


 トルネディアーネアも、この三人の同席が許されるなどとは思っていない。


 無理やり向こうの肩を持たせることで、心の中でバランスを取るために、自然と少しこちらの肩を持ってしまう、そんな雰囲気を作る一手だ。



「いや、たしかキャナリーはメンバー表に載っていたぞ?」


 アーシュラの何も考えていない一言が、彼女の軽いジャブを粉砕した。


 いや見間違いだったかも、もう一度掲示板に確認に行くべき、などなど、彼らの会話はどこまでも迷路を暴走して、壁を突っ切っていく。


 まさかここまで話が通じないとは……。


(これは確かに、あの三人では荷が重いですわね……)


 トルネディアーネアは軽く微笑むと、あっさりと応援団三人に退出をうながす。


 これでやっと会議が始められると、王子殿下はほっと溜息をもらした。



(注: 会議の席順と発言者記号は以下の通り。


 議長 殿下: 第三王子


 東→麦トル: 東(穀倉地帯)代表、トルネディアーネア

 東→川  : 東(河川)代表、(ナガレル)

 南↓山アー: 南(山岳)代表、アーシュラ

 南↓港  : 南(港湾)代表、(ウミーユ)


 広報 ジャ: 新聞部、ジャネ


 西←山キャ: 西(山岳)代表、キャナリー

 西←鉱  : 西(鉱山)代表、(ホルホル)

 北↑漁ショ: 北(漁業)代表、ショミンダ

 北↑港デブ: 北(港湾)代表、デブリス



議長 殿下:「それでは第一回コード会議を始める。まずは北からだ。北↑漁ショミンダ、議題を出せ」

北↑漁ショ:「そうですね……、ではお魚。王都だと、お魚がおいしくないですよね」

西←山キャ:「そうだね! お魚は取ってすぐ食べないと!」

南↓山アー:「その通り!」


東→川  :「それには俺も同意せざるを得ないな」

南↓港  :「干物にしないと売れなくて困るけどね」

西←鉱  :「腹いっぱいになるなら、何でもよくないか?」

南↓山アー:「その通り!」


東→麦トル:「みなさん、一体何の話をされていますの? この会議の意味を本当にお分かりですの?」


西←山キャ:「……えっと、私、小さい頃はお魚をかごで(すく)ってました」

東→川  :「それは俺もよくやったなあ」

南↓港  :「俺もやったな、懐かしい」


北↑漁ショ:「私はもっぱら釣りでしたね」

南↓山アー:「石をガチンって当てて、浮いてきたのを取っていたぞ!」

北↑港デブ:「あ、アーシュラ嬢、それは下手すると犯罪ですぞ!」


西←鉱  :「鉱山から出た水で、魚が腹を上にしてプカプカするから、それを……」

東→麦トル:「だから何の話を……」


東→川  :「西なら良いか。南↓山、うちの上流でやるのは、やめてよね?」

南↓山アー:「大丈夫じゃないか? 大量の雪解け水で流れるから」

東→麦トル:「……だから何の……もういいですわ……」


 コードの第一回会議は、こうしてとりあえず無事に終わった。



「このままにはしておけませんわ」


 楽しそうに去っていくキャナリーたち、それを眼で追うトルネディアーネア。


 その瞳には、新たな戦いの相手とその決意がはっきりと映っていた。


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