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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第三章 出会い篇 (一年生前期)

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15.呪文と魔法

~~中央学園新聞~~

《特報! 喋る精霊、あらわる!》


 我らが中央魔法学園に喋るモモンガ、精霊リリスが現れたことが判明した。

 新聞部の調べによると、精霊の契約者は新入生1-Aのカナリエ・イナカモント男爵令嬢。彼女はトアール伯国の……


《学園長の髪型の謎に迫る!》


 ……


《運勢》

 火 恐れずに挑戦を

 水 地道に頑張ろう

 土 努力が報われないことも

 風 風邪に注意!


~~~~~~~~~~



「うわ~~、掲示板に人がいっぱい集まってる!」

「なにかあったモモ?」


 それは朝、寮から教室に向かう途中の出来事だった。


 早朝、散歩のときには何も貼ってなかったのに、いったい何だろう?


 キャナリーが近寄ろうとしたとき、横から声がかかった。


 この声はアーシュラだ。その横にはショミンダもいる。


「おはよう! 新聞にキャナリーの事が書かれているぞ」

「え? 新聞って?」


「新聞部の壁新聞です。あそこに貼られていますよ」


 どうやらあの人だかりは、その壁新聞が目当てのものらしい。人が多すぎて、背が低いキャナリーがいくら近づいても、その眼に入るのは人々の背中と頭だけだ。


「う~ん、見えないよぅ」


 ぴょんぴょん何度も跳びまわって、ようやくキャナリーとリリスのことが書かれていることがわかった。


「わーい、しんぶんに載ったモモ!」

「あっ、リリス! し~! し~っ!」


 キャナリーは喜んではしゃぐリリスを止めようとしたが、どうやらそれは少し遅かった。


 こちらを振り向く集団、その目線はキャナリーの肩の上に集まっている。


「しゃべった! こいつがそうじゃないか?」

「精霊よ、可愛いわねえ」

「連れて帰っちゃいたい……いや、やらないってば!」


「に、逃げよう、リリス!」

「危ないモモ! 急ぐモモ!」


 目立つのも困るが、騒ぎになるのはもっと困る。キャナリーとリリスは一目散にその場から逃げだした。



「すっかり有名人だな」

「もう、ぷんすかだよ!」


 間違いなくジャネのしわざだ。


「リリスがいるんですから、新聞なんて無くったって有名になっていましたよ?」

「むう~」


 でも言われてみたらそうかも知れない。



「みんな、おはよう! 今日もよろしく!」

「……おはよう~」


 教室に入るとき、アーシュラは初日とまったく変わらず、元気に大きな声であいさつだ。キャナリーは少し控えめ。


「二人とも、折れませんねえ」


 そのまま席につくと、昨日の授業で立ち去った三人の顔が見えた。


「おはよ~。あの三人、夕方にはもうすっかり反省してて、ごめんなさいして戻ってきたみたいよ」

「あ、ジャネ!」


 キャナリーは壁新聞の文句をつけようと思ったけど、三人の話で先手を取られ、なんとなくうやむやにされてしまった。



 しばらく雑談していると、本鈴の鐘がなり、エライ先生が教室に入ってきた。


 相変わらず真っ黒な髪に真っ白な髭だ。手には何かの紙束を持っている。


「今日の授業は、呪文の練習じゃ。まずはこの魔法陣を一枚づつとって、後ろに回しなさい」


 キャナリーも一枚手に取った。丸や三角、星型などの絵が組み合わさった、複雑な図形が描かれたその紙は、少し茶色がかっている。


 そっと嗅いでみると、かすかに羊の匂いが残っている。


「この魔法陣を手に持って、例えば、メメメ……、メラ~♪」


 エライ先生の魔法陣がピカ~~ッ!と明るく光った。


「……と、このように、光るというわけじゃな。火でも水でも、何の魔法でも良いぞ。水だと、そう、ザザザ……、ザバザバ~♫」


 今度は先ほどよりもピカピカと明るく、さらにかなり長い間光っている。


「魔法を光に変えてくれる魔法陣になっておる。あまり強い魔法を使うと焼け焦げてしまうがの」


 教室の中で魔法を使ったりすると、火事になったり、水浸しになってしまったり、大変なことになってしまう。それを防ぐのがこの魔法陣というわけだ。


「裏には、火、水、土、風の呪文が書いてある。自分の属性に合わせて呪文を唱え、魔法陣を光らせてみよ。それが今日の課題じゃ」



 教室に「うお~っ!」と歓声が上がった。みんな、早く魔法を覚えて見たかったのだ。


 ある男子が真っ先に大きな声で呪文を唱えだす。


「火の呪文! メメメメ……メメメ~♪」

「これ、『火の呪文』のところは読まずともよい。その次の行からじゃ」

「……はい」


 赤くなっている男子にくすくす笑い声がする。


 いや、そんなことをしている場合じゃない。みんなすぐに我に返って、呪文の練習を始めた。



「よし、私も! えっと、風の呪文は……っと」


 キャナリーは魔法陣の紙を裏返すと、一番下に書かれている呪文を詠んでみることにした。


「ひゅ~ひゅ~ひゅ~……これ、むずかしい~~~!」


 何だか発音が難しいし、こうして文字になって並んでいる所を見ると、風の呪文だけ他のものよりもかなり長い。



 横に座っているアーシュラも、かなり苦戦しているようだ。


「めメ~メメめ~メ。メメメめ~……思ったより難しいな」


 彼女は音痴だった。


「リズムがよくないのう。呪文はリズムと音程が大事じゃぞ。だがそれ以上に、何としても魔法が使いたい、その思いが何より重要じゃ」


「そうか、わかった! リズムと心、心技体! ここは剣の素振りの要領だ。メン!メン!メン!」


 そして脳筋だった。



 ショミンダはかなり(さま)になっているけれど、なかなか光らない様子。


「ザザザザザザザザ、ざぶ~ん!」

「おしいのう、最後は、ザバ~♪じゃな」


(う~ん、自分だけの呪文を作るのは、簡単じゃなさそうですね……。)


 何だか変なことを考えてそうだけど、今はそっとしておこう。


 その向こうでは、ジャネも「めめめめめ~♪」と羊のように頑張っている。



「ひゅひゅひゆひゅひゆふふ、ふ~♪、う~ん、やっぱり駄目だ~」


 見ているばかりでは、いつまでたっても上手くならない。キャナリーもそれはわかっているけれど、どうしても他の人が気になってしまう。


「誰か、他にも風の呪文の人はいないかな?」


 そういえば、昨日の対決の時、殿下は魔法を使おうとしていた。ということは、殿下は魔法が使えるんじゃないか?


 ちらっと殿下の方に顔を向けると、いつものようにしっかりと背筋を伸ばして、もくもくと呪文を練習する殿下の姿が目に入った。


「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……ふう、息が続かん」


 全くわき目も降らず、一人で黙々、ドドドと何度も唱え続けている。


 紙に書いてある呪文と比べて、何だか長すぎる気がした。



 その時、キャナリーの視界の端っこで、何かがキラリッと光った。慌ててそっちに目を向けると、そこにはトルネディアーネア嬢、つまりドリルヘアーな信号機さんの姿。


「メメメメメメメメメメ、メラ~♪」


 ピカッ!


「うむ。その調子じゃ!」


「さすがトルネさま!」

「素晴らしいトルネさま!」

「みんなの憧れトルネさま!」



 さらに見回すと、信号機さんの他にも、たまに光ったり、光らなかったりする人が出てきている。


「なかなか良いのう。その意気じゃ」


 エライ先生の褒める声も増えてきた。


 これは非常にまずい。キャナリーは光らないどころか、まだ呪文がまともに読めていないのだ。


「ファ~、ヒ~ヒ~フ~……う~ん、なんか違うぅ~」


「おしいのう、精霊で魔力は強化されておるんじゃが、呪文がまだまだじゃのう」


 気が付くと、エライ先生が目の前に立っている。


「あの……、どうしても呪文が難しくて……」

「風は自由気ままじゃから、呪文で固定されるのを嫌がるんじゃよ。それを飛び越えていくしかないのう」


 ただ発音が難しいだけじゃなかったのか。


 どちらにしても、風の呪文を頑張って練習するしかない。



 よし、気合だ。なんだか鼻がムズムズするけど、ここは気合だ。


「がんばって~モモ!」

「うん、頑張るよ!」


 リリスの応援を受けて、もう一度、呪文に挑戦する。


「ひゅ、ふわ、ふわ……」

「ふわ? なんじゃ?」


「フ、フ、フワックションッ!」


 極大くしゃみで、手に持ってたはずの魔法陣が宙に舞った。


 突然の風に、エライ先生は咄嗟に髪を押さえる。


「これ、使えるわ」その仕草を見て、口角をあげるジャネ。


「また風が……魔法か!」

「オリジナルの呪文……?」


 アーシュラもショミンダも違う、これは大きいだけで、ただのくしゃみだ。



 びっくりするほど大きなくしゃみで空に飛んだ魔法陣。


 その場では誰も、学園長さえも気づかなかったけれど、それは一瞬だけ、そっと確かに()()()()()


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