14.続・最初の授業
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三人があやまりながら第三運動場に入ると、クラスのみんなはすでに全員が揃って、エライ先生を取り囲むように座っていた。
「うむ、全員揃ったか。それでは始めるとするかのう」
エライ先生がニコニコしながら授業の開始を告げる。
「あの、先生……、遅刻した者に罰則などはないのですか?」
クラスメイトの誰かが、まるで抗議をするような口調で質問する。
「ふむ……、今回は特に無しじゃが、どうかしたかの?」
「ちゃんと時間通りに来てるのに、遅刻した人と同じ扱いなんて、納得いきません!」
遅刻したキャナリーたち三人は、ちょっとドキドキしながら、どうなる事かと見守っている。
「ふむ。わしは生徒の自立心に任せるタイプじゃしな。頑張れば頑張っただけ、サボればサボっただけ、自分に返って来る。言ってみればそれが褒美であり、罰じゃな」
それまでニコニコしていたエライ先生の瞳が、突然すっと細められた。
「自らの手で道を切り開く、そういう者に育って欲しいと思うておるが、はてさて、どうなることかのう……」
気が付くと、先ほどの表情は見間違いだったかと思うくらい、すでにエライ先生はニコニコ顔に戻っている。
「ほへぇ……?」
なんだか難しすぎて、キャナリーにはよく理解できない。
アーシュラはもっともらしく頷いているけれど、おそらく理解していない。
ショミンダは「これは厄介そうなジジイですね……」などとつぶやいている。
まだ抗議を続ける生徒に、先生は優しくニコニコしながら語った。
「う~む、困ったのう……。どうしても気に入らんというのなら、出ていっても構わんよ? 学園には他にも立派な先生がおるし、心配は無用じゃよ」
「わかりました。それでは失礼しますっ!」
すっくと立ち上がり、背を向けて立ち去る生徒。それに二人ほどが追いかけるようについていく。
これはどうするべきなのか、みんなが顔を見合わせていると、一人の生徒がおそるおそる手を上げた。
「あの……先生……あの三人はどうなるんですか?」
「言うた通りじゃな。別の先生にみてもらう。他にもクラスは三つもあるし、ここ以外にも学園はあるからの?」
その言葉に生徒たちが一斉にざわつく。
「え……? それ、まさかクラス落ち……?」
「自分でA組から出ていったってこと?」
「俺、中央A組になって、家族が泣いて喜んでくれたのに……」
そういえば、アーネ姫も泣いて喜んでくれていたこと、誇りだと言ってくれたことを、キャナリーは思い出した。
中央魔法学園のA組。
今までふわふわしていて全く実感がなかったけれど、キャナリーにも何となく少しだけ、わかったような気がしてくる。
「他にもおらんか? いつでも立ち去って構わぬが、できれば今のうちが良いぞ?」
さすがにもう、立ち去ろうとする生徒は一人もいなかった。
「よし、それでは授業を始める。まず、魔法とはどのようなものか。それをみんなに見せるとしようかの」
火、水、土、風。四つの魔法すべてを駆使する者。”キャトル”の二つ名を持つ英雄。ルミナールの光、王国の切り札とまで言われた大魔法使いの演武。
キャナリーも含めて、さきほどまで意気消沈してうつむいていた生徒たちは、一斉に顔を上げて目を輝かせる。
魔法だ。魔法なのだ。
キャナリーが憧れた魔法、それをついにここで、目にすることができるのだ。
「魔法は危ないからの、近づいてはならんぞ?」
エライ先生はゆっくりと生徒たちの輪から離れて、ある程度の距離があるところで立ち止まる。
「それじゃ、行くかの。まずは火じゃ。メメメメメメメメ……、メラ~♪」
エライ先生の目の前に、焚火よりも大きな炎が燃え上がった。
おお! 生徒たちから誰ともなく、小さな歓声が上がる。
「慣れてくると、呪文は短縮できる。こうじゃな。メラ~♪」
さっきの長い呪文が嘘だったように、簡単に魔法が発動する。出てきたのはさっきと同じくらいの大きさの炎だ。
おお、すげえ……! 数人の生徒が、さっきよりも大きな声を上げた。もしかすると魔法のことをよく知っている子なのかもしれない。
「威力のある魔法は呪文が違う。こうじゃ。メラメラ~♫」
先ほどよりもはるかに大きな火柱が上がった。
うわぁ~~~っ! 生徒たちからはっきりと大きな歓声が上がった。
あまりの火の大きさに、びっくりして腰を抜かしている生徒までいる。
エライ先生の魔法の演武はさらに続く。
「次は水じゃ。ザバ~♪」
「そして土。ドゴ~♪」
水の魔法では大量の水が降り注ぎ、土では地面が大きくえぐれて大穴が空いたかと思うと、次の魔法でまた元に戻る。
そしてそのたびに生徒たちから大きな歓声。
「最後は風じゃな」
ついに風!
キャナリーは期待で目をきらきらさせながら、エライ先生の動きを見守る。
強く抱きしめられたリリスが「ちょっと痛い、痛いモモ」と文句を言いながらもがいている。
「行くぞい。ヒュ~♪」
先生の呪文に合わせて、さっと軽くつむじ風が吹いた。
あれ? これだけ?
最後の風魔法では、歓声が上がることもなく、きょとんとしたままのキャナリーを残して、エライ先生の演武は終了した。
「まだ時間が余っているようじゃな。最後は代表者に出てきてもらって、軽く手合わせでもしてもらおうかのう?」
エライ先生は特に迷うことなく、すぐに一人目を指名した。
「一人目は、やはり殿下じゃな」
「次は私だ! なんといっても騎士をめざしているからな!」
「代表というのなら、このわたくしを除いて他にはいませんわね」
「さすがトルネさま!」
「素晴らしいトルネさま!」
「みんなの憧れトルネさま!」
もう一人は絶対に自分だと、アーシュラ、そして……信号機さんが立ち上がろうとする。まだ指名されてないのに、すでに応援団がすごい。
「そうじゃな、ちょっと面白い者がおるの。カナリエ・イナカモント。お主にしようか」
え? エライ先生だけじゃなく、みんなもこっちを見てるけど?
「キャナリー、呼ばれているわよ?」
「え? ジャネ、だって?」
「まさか自分の本名、忘れてない?」
そういえば、そうだった!
「はい! キャナリーですっ!」
キャナリーはびっくりするほど大声で返事をして、跳び上がるように立ち上がる。
でも、なんで私? しかも、戦う? え? なんで!
「魔法対戦じゃ。まだまだうまくいかんじゃろうが、今の立ち位置を知るには好都合じゃろうて」
魔法対戦なんて言われても、キャナリーは魔法なんて使ったことは一度もない。
「……リリスぅ」
「大丈夫モモ。一緒に頑張るモモ!」
胸を張るように真っすぐにみんなから離れていく殿下。それにトボトボついていくキャナリー。
「魔法対戦なのに一緒に来てどうする? お前は離れてあちら側だ」
「は、はいぃっ! すみましぇんっ!」
殿下に言われて、キャナリーは小走りで距離を取った。
生徒たちの中から失笑が漏れる。特に信号機さんからの視線が痛い。
魔法なんて使えないのに、どうしてこんなことに……。
「ううう、どうしよう……」
「大丈夫、落ち着くモモ」
「お互い、準備はできたようじゃな。それでは、はじめ!」
キャナリーは正直、まだ心の準備もなにもでいていない。でももう、やるしかない。
「リリス、行くよ!」
「任せてモモ!」
ちょっと無理がありすぎるけど、こうなった以上、開き直ってやってみるしかない。
キャナリーが駆けだすと同時に、殿下の魔法の詠唱が始まった。
「ドドドドドド……」
これは、土の魔法だ。
それに対してキャナリーは、ふわっと風のように駆ける。
いつも森を走り回る時のように、まるで風になったかのように。
「えええ? 風? 魔法?」
「でも呪文は?」
「まさか……無詠唱?」
クラスメイト達のそんな言葉もまったくキャナリーの耳には入っていない。
ずって~んっ!
耳に入る前に転んだ。そして地面に顔からダイブ……。
静まり返るクラスメイトたち。
「え? 勝っちゃった?」
「ぼろ負けモモ!」
「キャナリー、一緒に騎士を目指して鍛え直そう!」
「もう好きにしてください……」
アーシュラやショミンダも、喜んでくれている……のか、どうなのか。
「ま、ま、真面目にやれ~~~~っ!」
広い第三運動場に、殿下の叫び声が響き渡る。
「ふ~む、これでは評価はまだ無理じゃな」
王子殿下に必死に謝りながら、あたふたしているキャナリーの姿に、どこか優しげな眼を向けながら、エライ先生がボソッとつぶやいた。




