マジックドレインな世界
マジックドレインという言葉を御存じだろうか?RPG愛好者であれば耳にする、相手の魔力を吸収する魔術や技術、性質のことである。
この作品の舞台となる世界には、読者諸君らの世界と異なり、魔力というものが存在する。ただ、人間全員が有しているわけではなく、その上で有していたとしても大した量は持っていない。持っていない人間は、読者諸君らとなんら変わりがない。しかし、有している者がいることや魔力が存在すること、これがこの世界の歪みをもたらしている。
魔力を介した現象には大きく3つある。定義上、呪い、怪異、神威と分けている。これらは人間の有しているわずかな魔力を奪い、それら自体の存在を維持、また存在として進化することに利用している。3つに分けているが大した差はない。それぞれの影響の範囲が異なるだけである。個人に向けたものか、集団に対してものか、世界単位のものか、の差があるくらいである。それよりも問題なのは、この世界の魔力は人間の精神と紐づけされており、魔力が奪われると同時に精神にも、喪失感などの負の影響が与えられる。魔力を多く持つ者が、多くの魔力を奪われると、精神へ壊滅的なダメージが及ぶ。中には廃人になることもあれば、正気を辛うじて保てたとしても何かに依存したり、安心感を得るための代償行為に至ることもある。
悪魔という存在を例に挙げよう。絵画などに巣食う彼らは、持ち主の魔力を奪い存在しつづける。その際に正気をも奪うため、持ち主は気持ちの悪い不気味な絵にも関わらず魅了される。悪魔は魔力を得たことで存在力を増し、呪いの絵の悪魔から、悪魔という物理的干渉が可能な怪異へと進化し得る。屋敷に訪れる人間が帰ってこないだとか怪しげな宗教だとか言われはじめるフェーズである。悪魔教団の立ち上げまで至り、信仰としての力を獲得出来るようになれば、神威を持つ邪神になる。以上が悪魔の出世コースである。
ここでネックになるのが、魔力を有していない人間は、魔力を介した現象に抵抗が出来ないが、精神的にはほとんど影響を受けないことにある。元々持っていないものを奪われても気づけないのである。
先程の悪魔の例に乗っかるなら、「何この絵。買わないよ?あ、イルカの絵もいらないからね」とか「宗教?あ、そういうの間に合ってます。後、テレビも置いてません」「君はその神様を信じてるんだー。僕?僕は無宗教かなー」という感じになる。典型的な日本人のようだ、読者諸君は思われるでしょう。これは読者諸君らが文化レベルで魔力への関与を減らし、世代を追うことに魔力を減らしながら定向進化してきた民族だからなのである。先人の努力の賜物なのだ。
しかし、人間が対策進化してきたのと同様に、いかに魔力を奪うかを、呪い、怪異、神威側も行ってきた。20歳までに忘れないといけない条件での人間の生命と魔力を奪う呪いの鏡や、ビデオレターにしてダビングしないと解除できないと嘯き拡散させる呪い、インターネット上に潜む魔導書pdfなど、マジックドレインに余念がない。しかし、一方で昔ながらの方法で存在し続ける呪い、怪異、神威もあり、依然ソレらは強力であった(以降はそれら魔力を奪う存在をマジックドレインと呼称することにする)。――人間側も特殊案件対策課などの名称で警察や自衛隊が動けるようになってはいるものの、いたちごっこになっており、対策が追い付いてない。公けになっていないだけで犠牲者は多く存在しているのだ。
さて、我らが主人公であるフランチャンシュタイン博士は、人間としては魔力を多く持つ者であった。そのため、マジックドレイン側に狙われ、魔力を奪われた際に精神的にもダメージを受けた。そのため狂った。ようやく精神の回復をみせ、社会を再度歩み始めているが、依然狂っている。気をつけねばならない。
彼女は実は、先の大戦の前より生を受けたが、戦争により姉以外の家族を亡くしている。姉妹2人で生きてきた。その際、彼女の姉とともに怪異に巻き込まれた。彼女が今日を生きているのは、全てその怪異への復讐に他ならない。戦後の闇市の更に闇の深いところで出会った怪しげな屋台の店主。飢えに喘いでいた自身と姉を騙し、おぞましい物を食べさせてくれた者。――確かに美味であった。空腹であったことも手伝い、正常に判断できなかった。これが何の肉なのか、これが何なのかをキチンと聞けば良かったのだ。「天麩羅だよ、元気が出るよ」と言われ素直に信じたのが間違えだったのだ。封というおばけの天麩羅だったなど誰が予想が出来ようか。「さつま揚げだよ。この味を忘れず長く生きて、私に恩を返しておくれ」と言われ、感謝したのが過ちだったのだ。おかげで八尾比丘尼の二の舞を踏むはめとなった。
「この怨み、晴らさでおくべきか」と藤子不二雄Aの漫画のようなオーラを出しながら、フランチャンシュタイン博士は生きてきた。その結果、この閑散とした田舎の集落は目をつけられ、酷い目にあうのであった。