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プロローグ、あるいは因習村のエピローグ


フランチャンシュタイン博士の見た目は小学生である。良くても中学生くらいだろう。制服を着れば、近所の女学生と間違えられることも仕方がない程である。そんな彼女は、特異な体質のため数年前から見た目が変わっていない。――いや、少しだけお洒落を気にするようになった。服装に気をつかうようになり、2日に1回はお風呂に入るようになった。人間の社会でもう一度生きるため、最低限の清潔感というものを身に着けた。

そんなお洒落なフランチャンシュタイン博士には、3つの武器がある。

1つはその特異的な肉体である。ある事件をきっかけに一切加齢することがなくなったその容姿は、初見の人間の心の隙間に入り込むことが出来る。賢い子どもにしか見えないため、他者に警戒心を抱かせないのだ。子どもに警戒心を抱かなくてはいけないような社会は、少年サンデーの長期連載推理漫画の中くらいのものだ。

1つは彼女の頭脳である。何とかと天才は紙一重というが、彼女はギリギリ天才側であった。本当にギリギリ。あと少しでもズレていれば何とか側だった、それくらいギリギリ天才であった。「わたくしは偉大な発明をいたしましたわ!わたくしは!正義を発明いたしましたのよ!」などとほざいているが、ギリギリ天才である。実際、彼女はとんでもないものを発明してしまった。

1つは狂気。自身から時の流れを奪った存在に対しての、尋常ならざる怒りが彼女から恐怖心を奪った。そのことで彼女の心は逆に凪、冷静に俯瞰し、淡々と対処が出来るようになった。他人から見れば、恐れ戦くところで動揺せず、むせび泣くべきところで顔色を変えないそれは狂気としか言いようがなかった。所謂「SAN値が0だから正気度チェック要らないね」状態である。彼女は狂っていた。


さて、そんな彼女は、現在とある地方の集落に来ていた。観光案内誌をみても何も情報を得られないようなマイナーな集落。市町村の観光課が一切焦点を当てないため、存在すら希薄化しているような地域。

座席を精一杯前に動かし、何とか運転してきた愛車のミラジーノの窓を開け、外を眺めていた。集落を一望できる高台に位置する神社の駐車場で、ダイドーブレンドMコーヒーをすすり一息ついていた。長時間の運転で酷使した脳と肉体に糖を補っていた。助手席にはやたら書き込まれ、付箋が貼られまくっているレポート用紙が数十枚散らばっている。座席の下にも数枚落ちているようだ。「おっとっと。いけませんわ、わたくしとしたことが」と呟くと、レポートを拾い集めクリアファイルにしまいこんだ。

充分に脳に補糖をした彼女は、車から降り、背伸びをしていた。するとふいに背後から声をかけられる。「あんらぁ、可愛い子やねぇ」と神社の境内を掃き掃除をしていた老婆から話かけられた。

「その言葉は人間の女性に言われ慣れておりますわ」と返す彼女の顔には社会的微笑が刻まれている。――女性の笑顔、更に言えば純粋無垢であるはずの子どもの笑顔は社会的には強い武器のはずなのだが、如何せん素行の悪さがにじみ出ている。この穢れのようなオーラは彼女と付き合いが長い人間のみが感じ取れるものであり、哀れな老婆は気づき得なかった。

「親御さんはどうしたんねぇ?子ども一人置いて行ったら、危なかろうにぃ。ねぇ?」と返してくれる老婆。ふふっと笑うだけで彼女は返答をしない。どうせ、車を運転して自分一人で来たことを告げても信じてはくれず、免許証を見せて驚かれるまでがセットなのだ。

「調べものをしておりまして。今日明日とこの村で過ごすつもりなのですの。お祭りがあるということでしたので」と老婆に告げると、老婆の顔も博士と同様に貼り付けたような笑顔になった。「そうかい、そうかい。ゆっくりしていくんだねぇ」と返し、箒を持って集落の方へと歩いていく老婆。彼女は一等邪悪な微笑を浮かべ、老婆の背中を見送った。



――この後、この集落に暴力の嵐が吹き荒れる。


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