第23話 雉も鳴かずば撃たれまい
鈴音さんと別れた後、コテージに戻ると佳奈達が帰っていた。
「お姉ちゃん、どこかに行ってたの?」
「うん。ちょっと散歩」
「もしかして自主練とか?」
「違うよ。散歩。で、途中で鈴音さんと会って会話をしていたのよ」
私はキッチンに向かい、麦茶のボトルを取り出す。そしてコップに麦茶を注ぐ。
「鈴音さんに?」
「そういうこと。で、そっちはダンスレッスンはどうしたの?」
「今日のレッスンは終わったよ」
コップに口をつけつつ、スマホで時間を確かめると16時43分だった。
いつの間にか夕方になっていたようだ。
(もうそんな時間か)
夏は陽の時間が長いから、夕方になっていたとは気付かなかった。
「夜は配信するからね」
「そういえばそんな話をしてたよね。で、何をするの?」
私はリビングに向かい、佳奈の隣に座る。
「ゾンビゲームの実況だよ。『デイ・アフター・パンデミック』というゾンビを倒すサバイバルゲームだよ」
「夏だからホラーじゃないの?」
まあゾンビも一応ホラージャンルかな?
「心霊系のホラーゲームは明日」
「そっちもやるんだ」
「千鶴はホラー系は苦手?」
葵さんが私に尋ねる。
「いえ、別に」
「あー、そうなんだ」
なぜか葵さんは残念そうな声を出す。
「夜闇先輩とホラー系やってたもんね。『アンブレラ』だっけ?」
「はい。でもホラー系は得意というわけではありませんけど。それにまだ一人で実況はしたことありませんし」
「いやいや、得意じゃなくても出来るだけすごいよ」
海さんが褒めるように言う。
「はあ」
「葵なんて怖がりだからホラー系は全然駄目なのよ」
「そうなんですか?」
それは意外だった。葵さんはクール系だから平気そうに見えた。
「超うるさいから大変よ。耳栓必要ね」
「そこまで叫ばない。それにパソコンは3台あるから二人一組でしょ」
「でも、ここは配信用に防音室になっていないから声には注意しないと」
「そうだよ。千鶴の言う通りだ。葵、静かにしないとご近所迷惑になるぞ」
とハルコさんが葵さんに注意する。
「ここはコテージよ。周りのコテージとも離れているし、多少騒いでも問題ないわよ」
「でも、静かにしなよ」
「そういえば福原さんは?」
ここに福原さんだけがいないことに私は気づいた。
もしかして買い出しに行っちゃった?
お昼、ごちそうになったから、私は買い出しを手伝おうと思っていたのだ。
「福原さんなら上だよ……っと噂をしたら戻ってきた」
階段を下りる音、そしてドアが開き、福原さんがリビングに入ってきた。
「なんです? 皆さん?」
視線が自分に集まっていて、福原さんが驚きつつ聞く。
「いえ、福原さんが2階で何してたのかなって」
私が代表して答える。
「ああ。それは葵さん用の防音室を設備していたんですよ」
「防音室を?」
「はい。公衆電話ボックス2つ分くらいの広さですけど」
「え? 私一人、そこで?」
葵さんが自身を指差して聞く。
「狭いですからね」
「いやいや、無理無理。一人は嫌よ」
「でも公衆電話ボックス2つ分ですからね」
「あー、それは厳しいね」
とハルコさんが頷く。
「ハルコは無理でも他は詰めればいけるでしょ?」
「おい、どういう意味だ」
「皆はどう思う?」
葵さんはそれを無視して周りに問う。
「夏だし、暑いし、蒸れるし、絶対うるさいしー」
海さんが両手の平を上に向けて言う。
「クーラー点けたら良いだけでしょ?」
「ボックスは閉めきるんでしょ?」
「完全密閉ではないでしょ? そんなんだったら酸欠で死ぬわ」
「まあまあ、ここはクジで決めましょう」
リーダーの照さんが提案する。
「仕方ないかー」
と海さんは言い、溜め息を吐く。
◯
そして阿弥陀クジが行われ、葵さんのパートナーは照さんと決まった。
「えー、私! やだー! 誰か替わってよ」




