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第5話 VTuber課、そして契約

 私は目の前の高いビルを見上げて言葉を漏らす。


 ペイベックス。


 ミュージックサービスをメインとした会社で若者なら知らぬ人はいないだろうという超一流企業。メインのミュージックサービス以外にも俳優、タレント、お笑い、声優、VTuberなどの幅広いジャンルの人材を輩出している。


 歴史は70年代に創設され、その頃はアイドル業をメインに動いていて、当時は二流クラスだった。しかし、90年代からテクノポップグループやアーティストで爆発的にヒットを連発し、一流企業に登りつめた。その後も多くの一流アーティストを輩出し、今の日本音楽界を席巻している。


 そんな会社に佳奈がVTuber課に専属契約しているとなると姉として鼻が高い。


「ほら行くよ」

「あ、うん、待って」


 自動ドアをくぐる佳奈の背を追って、私もビルの中へ足を進める。


 そして受付で佳奈が、


「VTuber課の宮下佳奈です。隣は私の姉の千鶴です。VTuber課の福原岬さんをお願いします」

「少々お待ちを…………6階の第3会議室へどうぞ」


 私と佳奈はエレベーターで6階へと向かった。


「緊張してる?」


 エレベーターの中で妹に聞かれる。


「なんで?」

「いつもと……様子がさ」

「アハハ、それは色んなアーティストがここにいるのかなと思うとドキドキしちゃってさ」

「所属はしてるけど、用がない限り普段は会社にいないよ」

「え? 会えないの? 東野カナとか山崎AYUとか」

「そうそう会えないわよ。まったくミーハーなんだから」


 そして6階に着き、私達は廊下を歩いて第3会議室を探す。


「どこだろう第3会議室って?」


 私は歩きながら目に付いたドアのルームプレートを見つつ、妹に聞く。


「あっ、第2を見つけた。もっと奥じゃない?」


 しかし、奥には強面な警備員が壁を背に立っていた。


「ないね?」

「待って! 一応、ドアがあるから部屋があるんじゃない。最悪聞けばいいし」


 佳奈は私の背を押す。

 最悪聞けばいいって、それ私が聞くの?

 警備員もこちらに気付き、鋭い眼光を向ける。

 声をかけられるかというところで第3会議室のルームプレートを見つけた。


「あ、あった」


 私と佳奈はドア近くの警備員に軽く一礼して、ドアをノックする。


「どうぞー」と返答を受けて、私達はドアを開け、部屋へと入る。


 中には20代半ばくらいの長い黒髪を引っ詰め、黒のスーツを着た女性がいた。いわゆるキャリアウーマン風の女性。


 それとカジュアルな服装の20代後半くらいの男性がテーブルを挟んでキャリアウーマンの前に座っている。不機嫌なのか私達に対して嫌悪の視線を向けてくる。


「あ!」


 佳奈が男を見て声を上げる。


「え? 何?」


 私の後ろに佳奈がいたので、その声量で私は驚く。


「根津剣郎!」

「誰? 知り合い?」

「え、ええと」

美矢下唯みやしたゆいさんとお姉さんはこちらへ」


 キャリアウーマンの女性は手を動かして、私と佳奈を席に座るよう促す。


 美矢下唯とは佳奈の声優時の芸名である。

 でも、今はVTuberなのにどうしてその芸名を?


「では根津剣郎さん、今後当社の声優に対して誹謗中傷しないことをここでお約束ください」

「はあ? なんでだよ?」


 よく分からないけど声優に関することだろう。そしてそれは妹も関わってる?


「でしたら先程お聞かせしたこの音源の証拠を元に法的措置を取らせてもらいます」

「ずっこいぞ! おめー、あん時のかよ。違法だぞ!」


 男が啖呵を切った。


「お前ら絶対許さねーからな! とことんやってやろうじゃねえか」


 佳奈はびくつき、膝の上で拳を強く握る。


 バン!


 大きな音が鳴り響いた。

 それは女性が机を叩いた音だった。


「ああん? やんのかこの野郎!」


 理知的な女性がすごいほど顔を歪ませてブチ切れた。


「シガーカッターでジョニーをちょん切るぞ。ああん! もしくはタマをラジオペンチで潰されたくなかったから、こっちの言うこと聞けや! ゴルアァ!」

「……」


 あまりの迫力に先程啖呵を切った男は竦み、言葉を詰まらす。怒られてない私もビビってしまう。


「ええか? やんねんやったら、こっちもとことんやるからな? 分かってんな? あん?」


 どこぞレディース総長になってますよ。まじ怖い。


「わ、分かった」


 すっかりビビった男はぽつりと言葉を吐いた。


「聞こえねーんだよ!」

「分かった! 分かったから! もう流さねえから。ネタにしねえから」


 どこか懇願気味で男が言う。


 それを聞いて女性は元のキャリアウーマンに戻る。何この切り替えの早さ。


「では書類にサインを」


 しかも声音が優しくなってる。

 男は書類に急いでサインして、キャリアウーマンに渡す。


「これでいいんだろ? これで?」

「では、おかえりください」


 書類を受け取り、キャリアウーマンはにっこりと笑みを男に向ける。


 男は逃げるように部屋を後にする。


 ドアが閉じて、


「すみません。お待たせして」


 キャリアウーマンがこちらに向いて謝罪する。


「私はVTuber課5期生のマネージャーをさせていただいております福原岬と申します」


 そう言って福原さんは名刺を私に差し向ける。


「どうも。姉の宮下千鶴です」

「い、今のは?」

「迷惑配信者ですよ。当社の声優に対して突撃取材したり、あらぬことを吹聴する死んで当然なゴミくそ野郎です」


 すごい言われよう。


「は、はあ」

「美矢下唯さんにも迷惑をかけていましたので注意をさせていただきました」


 そして佳奈に「もう大丈夫ですよ」と優しく声をかける。


「本当に大丈夫なんですか? 今の会話が録音されていたら……」


 確かに。あれはもう脅迫だ。裁判になったら不利になるだろう。


「廊下に警備員がいましたでしょ? 根津さんには荷物検査とボディチェックを受けてもらいました。それとこの部屋には外と通信ができないよう妨害電波が発せられています。こっちは録音させてもらいましたけど」

「そうですか。よかったです」


 佳奈はほっと一息つく。


「というかなんで言わなかったのよ。そんな大事なこと」


 私は佳奈に問い詰める。


「……」


 佳奈は何も答えず、そっぽを向いてバツが悪そうに唇を尖らす。


「まあまあ、ご家族に相談しにくかったのでしょう。で、先日の事故についてですが……」


(ついに!)


 私は緊張で唾を飲んだ。


「上層部と話し合った結果……」


 神よ! 私はテーブルの下で両手を握り祈る。


「事故でしたが好評のため条件付きで不問に致します」


 不問。それは嬉しい。けど──。


「条件付き……ですか?」

「はい。その条件というのはお姉さんにVtuberとして活動してもらいたいということです」

「え? いやいや、無理ですよ! 絶対無理! てか、なんでVTuberに?」


 私は手を振って、否定する。


「まあまあ、落ち着いてください。本格的にVTuberとしてやってもらうわけではありません」

「というと?」

「赤羽メメのもう一つの側面──つまり、オルタとして活動してもらいたいと思っております」

「オルタ?」

「はい」


 そういえば初めての時もコメントでオルタって言われてたけど。


「オルタって、なんですか?」

「オルタナティブ。もしくはオルターネイティブとも」


 いや、ちゃんとした英語で言われても分かんないよ。


「ええと……どういう意味で?」

「もう一つの側面という意味です。つまり赤羽メメのもう一つの顔ということです」

「……はあ?」

「お姉さんには時々オルタとして赤羽メメを手伝ってもらいたいわけです」

「あっ、つまり、ちょっとだけってことですよね」

「ええ。本当にちょっとだけですよ」

「ちなみに断ることは?」

「断った場合は赤羽メメさんが契約違反として解約及び違約金を請求させてもらいます」

「ええ!?」

「遅刻及び他の人にアバターを貸すことは御法度です。もし何の処罰もなければ他のVTuberも真似をする可能性もあるわけですので」


 つまり他のVTuberが真似しないためきつくお灸を据えるということか。


「私、大学での……生活が……ありまして」

「VTuberの中にも大学生はいますよ。それに時々出演するものですので、そう肩を張る必要はありませんよ」

「で、でも……」

「お姉ちゃん、私も手伝うから」


 いやいやいや、何よ手伝うって、これって()()()()()()()()()んでしょ!


「ゲームするだけっていう簡単な仕事だよ」


 VTuberのあんたがそれを言う?


「ええと、一旦話を持ち帰ってもよろしいですか?」

「ええ。構いません……と言いたいところですが、早めに対応をしないといけないのです」


 福原さんが困った顔をする。


「え? さっき不問とおっしゃったのでは?」


 勿論それは条件付きの不問。条件を飲むか飲まないかの間は何もないはず。


「対応とはそういう意味ではありません」


 福原さんがこちらの意図を汲んで答える。


「というと?」

「お姉さんは赤羽メメの登録者数をご存知ですか?」

「いえ」

「あの件の前までは10万と少し。それがあの件の後から33万を超えたのです」

「それは良かったということですよね?」


 減ったなら問題だが、増えたなら良かったということだ。


「なぜ増えたかお分かりですか?」

「え? ええと私がやらかした件が意外と評判良かったから?」

「はい。だからこそ登録者数が増えたのです」


 なら何が問題なのか?


「もしこれからオルタが登場しなければどうなります?」

「え、それは…………あっ!」

「そうです。登録者はあなたがいて増えたのです。そのあなたが今後出なければ勿論登録者は減ります。そうなればどうなるかはお分かりですよね」


 オルタがいないなら登録は消す。つまり、このままでは減るということだろう。


「……登録者が減ったVTuberは……クビにですか?」

「残念ながら」


 ちらりと妹を伺うと悲しそうに俯いていた。姉としては妹を助けてあげたい。それに私がやらかしたことでもある。


「強要はしません。お姉さんは大学生で本業は学業です。それを無理に仕事を押し付けることは致しません。ですが、もしお時間がありましたら、VTuberのお手伝いをお願いできませんでしょうか?」

「…………」

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― 新着の感想 ―
これ脅迫じゃんw
2回録音のことを心配する件がありますが必要なののでしょうか?
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