第1話 夏
「ぐうぬわぁぁぁーーー!」
今年もハズしてまった!
「ちきしょーーー! なんでだよ!」
床に座ってた私はベッドに顔を埋め、スマホを持った手でベッドをバンバンと叩く。
「どうしたのお姉ちゃん!」
妹の佳奈が何事かと勢いよくドアを開けて部屋を伺う。
「ハズしたーーー!」
「え!? 何!?」
「夏フェスだよー」
私は悲痛な声を出して、スマホの画面を妹に向ける。
「えー、なになに、ペイベックス諏訪音楽フェス抽選結果……落選」
「そうよ。今年も落選したの」
「仕方ないよ。人気のやつだし。倍率も厳しいよ」
「それでも10年だよ! 10年連続で落選だよ! おかしくない? ありえないよ」
「……私に言われても」
いかにも『しょうもな』みないな態度をとり佳奈は部屋を出ようとする。その背に私は、
「ねえ? 佳奈のコネパワーでなんとかならない?」
とダメ元で聞いてみた。
佳奈は息を吐き、
「出来るわけな……」
なせか佳奈はそこで言葉を止めた。
「どうしたの?」
え? まさか出来ちゃう?
けれど佳奈はどこかほくそ笑むような表情をして、
「もしお姉ちゃんがアイドルデビューしたら、出演出来るんじゃない?」
「私がアイドルデビュー? 何言ってるの?」
「忘れたの? 私達はVTuberよ」
「だから何よ」
VTuberとアイドル。なんの繋がりがあると?
「……え? 本当にわかってない?」
佳奈がきょとんとする。
どういうこと? ゲーム実況すれば夏フェスに参加出来る? いや、出来ないよね? 歌関係ないし。
「あのね。私達はVTuber。ア・イ・ド・ルVTuber」
「へ?」
アイドル? アイドルって言った? え?
「あー、これはマジなやつか」
佳奈は額に手を当て、困り顔。
「ちょっと佳奈どういうことよ」
「そのままの意味よ。私達はゲーム実況だけでなく、歌を出したりしているのよ」
「それくらいは知ってるわよ。人気が出たらグッズとかCDとか出るんでしょ。でもアイドルって何?」
それは初耳だ。
「もともとはゲーム実況のVTuberではなく、私達はアイドルとしてのVTuberなの」
「……アイドルって。どうやってアイドル活動するのよ」
「歌枠とか収録とか」
「歌枠?」
「え? それも知らないの?」
「知らない」
だって私はついこの間までVTuberの配信すら見たことのない一般人だったんだもん。
「すごく分かり易く説明するとカラオケよ。それを配信するの。それが歌枠」
「へえー」
配信でカラオケ……ああ、そういえば芸人とかが歌ってみたとかやってた。
あんなやつかな?
「それで収録はペイベックスのスタジオで歌ったり、全身モデルを使ったダンスの収録」
「……え!? ダンス!? マジで!?」
「そうよ」
「あれ? でもそれって佳奈である必要ある。中が分からないなら別の人でも良くない? もしくは後でパソコンでアバターを踊らせるとか」
「まあ普通に考えたらね。でも、収録は歌だけでなく、他のVTuberと会話とかもするし、他のコラボ企画とかにも連動しているの」
「ん?」
「ほら、昔の歌番組でアイドルやアーティストに歌の前で雑談したり、クイズやったり、体当たりゲームとかしてたでしょ? あんなの」
「雑談ね。でも、なんで? 歌だけでよくない?」
お喋りする必要ある? てか、それも声だけあてがえば問題なくない?
「フェスやライブだって、ずっと歌じゃないでしょ。MCとかあるじゃん」
「はいはい。あるね」
「それと一緒。VTuberの雑談したり、体を張ったゲームをする。だから他の誰かでは駄目なの。分かった?」
「分かった」
「……言っとくけど、お姉ちゃんもだからね」
佳奈は私を指さして言う。
「え?」
「お姉ちゃんもそろそろ歌とかダンスをしないとね」
なぜか佳奈は面白そうにニヤリと笑う。
「無理無理無理無理」
私は両手を振って拒否する。
「歌もダンスも下手っぴなのよ」
ダンスに至っては学校の授業レベル。
「頑張ればいつか夏フェス出れるかもね」
「嫌よ。てか、VTuberがどうやって夏フェスに出るのさ」
中を見せることができないのどうやってライブをするのか?
「パネルというか……スクリーン出演かな? 別のとこで歌って会場のスクリーンで流すみたいな?」
「それ出演なの? てか私は出演じゃなくて観客として夏フェスに行きたいの!」




