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VTuberをやっている妹のパソコンを勝手に使ったら、配信モードになっていて、視聴者からオルタ化と言われ、私もVTuberデビュー!?  作者: 赤城ハル
第1章

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第3話 赤羽メメ【宮下佳奈】

「みんなー、ごめんねー。色々あって遅れちゃった」


 私、宮下佳奈は両手を合わせ、スクリーンに向けて謝罪をする。するとスクリーン内のアバター、赤羽メメも私の動きを真似て両手で謝罪ポーズをする。


『本人キタコレ!』

『いいよー』

『これだから5期生は』

『代打のお姉さんも面白かったよー』


 否定的なコメントもあるが、なんとか炎上は回避できて私は胸を撫で下ろした。


 しかし、コメントを見る限り本当に姉が私の代わりに赤羽メメをやっていたのか。


「それじゃあ、ここからは私がスーパーハリオをプレイするよー」


 私はコントローラーを持ち、ゲームを再開する。


  ◯


 そして無事配信終了後、


「終わった?」


 姉がドアを少し開いて、頭と左肩を出して部屋の中を伺う。


「終わったよ。あのね……」

「良かった! 実はレポート作成したいからパソコン貸して欲しいんだよ」


 と私の言葉を遮り、姉が部屋の中へとずかずか入ってくる。


 レポート? そういえば、そんなこと言っていたな。


「いいけどさ。勝手にパソコン使わないでよ」

「こめんね。でも、あんたいなかったから」


 姉は早くどけと言わんばかりに椅子から私を立たせようとする。


「しかも勝手になりすまして!」


 私は立ち上がりつつ、抗議する。


「なりすましてはないよ。ちゃんと姉だって伝えたし」


 姉が代わって椅子に座る。


「じゃあ、すぐに切るとか、なんでそういうことできないの?」

「待機状態になってたから切っていいのか迷ったし」


 そうだ。待機状態にして出て行ったのは私だ。

 だから私にも非はある。


「でも、席から離れるとか。それなのにゲーム実況しちゃって」

「私も離れようとはしたよ。でも、スパチャが入ってさ。ここで離れたら申し訳ないし」

「そんなことで……」

「そんなことって。1万だよ」


 姉は人差し指を立てる。


「1万って言っ……ええ!? 1万? 嘘? 見間違いでしょ?」


 驚きと同時に私はスパチャお礼タイムをすることを忘れていたことに気づいた。


「本当だって。1万貰ってさ。さすがそれはまずいなって思ったのよ」


 確かにそれだと席を離れるのは失礼だ。

 金だけ取って無視したVTuberということで炎上してしまう。

 姉のやったことはファインプレーということだろう。


「だからって……」

「そういえば、あんた美容院早くない? てか、美容院ではないよね?」


 姉は私の髪を見て言う。


「人が多かったからやめたの」

「ふうん」


  ◯


 リビングで状況を整理していた時、マネージャー福原さんから連絡がきた。


(うわぁー。もう、きたかー)


 マネージャーは担当VTuberの配信には全て目を通している。

 だから最初から見ていたなら遅刻のことも知っているだろう。そして事故で姉がやっていたことも。


 このチャンネルは私のではなく、事務所のもの。少しでも不人気VTuberの宣伝用として設けられたものである。


 そして配信時間も誰がその時間を担当するのかも前もって決められている。それゆえ、遅刻したとなれば大問題だ。ましてや所属していない人が代わりに配信を行ったとなればなおのこと……。


「も、もしもし」


 私はおそるおそる通話に出る。


『もしもし。配信お疲れ様です』


 キリッとした声音が返ってきた。


「はい。お疲れ様です」

『遅刻した理由は?』


 いきなり本題だ。


「ええと、この前に話した元声優の根津剣郎との話し合いが長引いて遅れ……ました」


 元声優の根津剣郎は今は暴露系配信者として活動していた。それで今回、声優業界の闇バイトのあることないことを配信しようとしていた。それを止めるために今日、話し合いがあったのだ。


『今日でしたね』

「……はい。それが……なかなかケリがつかなくて」

『無理でしたか?』

「はい」

『……』


 福原さんが大きく溜め息を吐いたのが通話越しに伝わる。


『では、あとは私の方で。それで今回の話し合いは録音していますか?』

「はい。それはもうバッチリです。言われた通り、録音しました。向こうもこっちが高校生とあって油断したんでしょうね」

『あなたはそういう知恵がある人とは思われていなかったからでしょうね。では、すぐに録音データを送って下さい』


 ……なんか軽くディスられてない?


「それで今日の配信なんですが……どうでしたか?」

『問題ありです』

「うっ!」

『しかし、今回はお姉さんのおかげでなんとか……ギリアウトですね』

「ギリアウトでしたか。……アウト? セーフでなく? え? アウト? 流れ的にはセーフなのでは?」

『いえ、ギリアウトです。他の人に務めさせるのはもっての他です。そのアバターはあなたのために書き下ろされた専用アバターです。それを他の人に扱わせるなんてもってのほかです』

「……はい、すみません」

『まあ、今回は事故であること。そして同接が良かったので、そう大事にはならないとはおもいますが』

「そうなのですか?」


 同接とは同時接続数のこと。生配信時にどれくらいの人がリアルタイムで視聴したかを数字化したもの。

 私はチャンネル登録者数がなんとか10万を超えたけど、同接数はかなり低い。


 でもそれは仕方のないこと。だって今の世の中はリアタイではなく、好きな時間に見ることを良しとしている。テレビ離れもそこにある。だから同接よりも登録者数や累計のPVを気にしているのが私達だ。


 ……言い訳ではないよ。


『あくまで私の見解です。この後、こちらの方でも話し合いがあります』

「すみません」

『さっきも言ったように同接が思いのほか良かったので問題にはならないかもしれせんから』

「同接ってそんなに良かったのですか?」

『はい。スタート時1381人。普通はそこから下がっていくのですが今回は逆に最大8081人です』

「……は?」


 はっ……8081!? 6倍!? ええ!?


『事故で注目されたんでしょうね。視聴者がそれをSNSに投稿したことにより、さらに来訪者が集まり、一時期はSNSのトレンドにも微かに入りました』

「……あ、赤羽メメが? え、まじで?」

『はい』

「……」


 言葉が出なかった。だって同接1万超えたらすごいと言われるんだよ。届かなかったとはいえ8000。今までの最高記録でもある。さらにSNSのトレンドにも。


『私はこれから上の方に呼ばれているので、今回の件については後ほど』

「どうなるんでしょうか?」

『わかりません。私でもこんなことは初めてですので。ただ、そんなに重い事態にはならないかと思います。では、上との話が終われば後ほど連絡致します』

「はい」


 そして通話は終わった。


 大丈夫なのか?

 正直、私は有象無象いる三流……いやギリ二流VTuberだ。しかも声優落ちの。

 事務所からしたら、いつ切っても痛くはない人材。


「大丈夫かな? 登録者減ってないといいな」


 私はパソコンを立ち上げ、VTuber用のマイルームでチャンネル登録者数を確認する。


 …………ん? ええ!?


「さ、33万人!? ええ!? 嘘!?」


 この前やっと10万人を超えて喜んでいたのに。この短時間で3倍以上に。


 私はこのことをスマホのSNSで呟こうとしたら、SNSでもファン、そして同期のみならず先輩後輩VTuberからのお祝いメッセージが大量にきていた。


「これが波というやつなの?」

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