第114話 グラフリ7日目『ラスボス』
待っていても暇なため、誰かメテオ達の救援に向かうべきかと話し始めた時、メテオ達AからCのグループがやってきた。
「あれ? 待たせた?」
「大丈夫だよ。私達も数分前に着いたばかりだから」
サラサが何事でもないように嘯く。
「で、この向こうにラスボス?」
メテオが観音開きのドアを指す。
「そう。ギャングチーム全員が集まらないと開かないようなの」
「もしかして……向こうもフロアボスのクリーチャーが勢揃いとか?」
「それ私達もさっきその話をしてたの」
サラサが笑いながら言う。
「でも、さすがにそれはないと思うから安心して」
「どうして? みはりならやりそうだけど」
「そうなったらこっちに勝ち目は絶対ないじゃん。人数はこっちが多いけどさ、一体のクリーチャーに対してこっちは倒すために数名をあてがわないといけないじゃん」
だいたいクリーチャー一体にこちらは最低でも3名は必要だろう。
そしてもしギミックがあるならもっと数が必要となるはず。
「そうね」
「よーし! それじゃあ、進んでみようか」
◯
観音扉を押し開けると真っ白な空間が広がっていた。ギャングとトリックスターの混合メンバーが20名が入室してもあまりある広さだった。
「広いね。それになんだろうこれ?」
リリィは真っ白い空間全体に浮かぶ黒の小さいボックスを伺う。
「なんだろうね? 爆弾かな?」
「それだとここにあるのが全部爆発したら私達死んじゃうね」
その黒いボックスはエリア内に必ず視界内に入るくらいたくさん浮かんでいる。
「何かギミックかな?」
「お? 向こうに何かあるぞ」
黒いボックスの向こうにピンク色の何かが見え隠れしている。
近づいてみるとそれは巨大な脳だった。
「あれが……ボス?」
メテオが疑問の声を上げる。
「そうだよー」
脳から星空みはりの声が。
「ラスボスが脳とはね」
メテオがライフルを構える。それにギャングとトリックスターのメンバー達もライフルの銃口をピンクの脳へと向ける。
「私もびっくりだよ」
「みはり一人だけ? こっちは全員集合だからそっちも全員集合だと思ったけど」
「残念だけど無理だったね。全員だとサーバーのキャパオーバーなんだって」
もし人型だったら肩を落としたアクションをしていただろう。
「楽にしてあげるわ」
「あっ! やってみなー!」
トリガーが引かれて、ギャングとトリックスターメンバーによる銃弾の雨が星空みはりことピンクの脳へと降り注ぐ。
「あれ? すり抜けてない?」
すぐにアメージャが異変に気づいて叫んだ。
「気づいたかー。でも残念だけど理由は教えないよー」
「まあ、なんとなく分かるよ。本体はエリア内の黒いボックスのどれかなんでしょ?」
メテオが推測を述べる。
「…………」
「図星かよ」
「それは……どうかな? さて、こっちもただではいかないからね」
「どうするって?」
「もちろん戦うのさー」
脳の下部からミミズのような無数の触手がわしゃわしゃと現れた。
「キモい」
「ルナ、シンプルにキモいはやめて。傷つくから。私だって、好きでこんな姿をしてるわけではないからね」
「ごめんごめん」
みはり先輩に近くにいるペーメン達はライフルによる銃撃で触手を弾いていく。
「これは当たるのか。まあ、こっちに攻撃するのだから当然か。みはりの対応は私とミカエル、ルナ、サラサ、乱菊がやるから。他は黒いボックスを破壊」
メテオが作戦を話し、指示を出す。
各々は指示通りに動き始める。
私もライフルのトリガー引いて、黒いボックスを壊し始める。
「そうは問屋が卸さないよ」
みはり先輩はクリーチャーを3体召喚した。
その召喚された3体の内1体は私達Dグループが撃破した詩子だった。
「あれ? えっ? ここは?」、「やだ! 何!?」、「うおっ! びっくりした!」
召喚された3体のクリーチャーは驚きの声を出していた。
どうやら本人達の意志とは関係なく、強制召喚されたのだろう。
「全員は召喚できないけど、3体までは召喚可能なんだよ」
「みはり先輩、これどういう状況?」
クリーチャー化した詩子が問う。
「最終決戦だよ。さ、手伝って」
「リリィ、アメージャ、ゆるる、カフス、マイ、アキミ、モモネ、みぃこ、ネネカ、パコはクリーチャーの対応。あとは黒いボックスを」
ということは残りは私とソレイユ、ヤクモ、卍、フジの5名か。
私達は戦闘から離れて、エリア内の黒いボックス撃破を再開する。
「見事にFPS苦手だけが残されたわね」
フジがメンツを見て言う。
「違うでござるよ。卍はただホラゲが苦手なだけでござる」
「私も敵がクリーチャーではないなら、FPSはそこそこです」
「右に同じく」
ヤクモとソレイユも弁解する。
「私は……苦手かな」
FPSのみならずゲーム全般がまだ不得手。ハリカーもまだゲーム酔いが克服出来ていないし。
「オルタは正直だねー」
「フジ、拙者も正直でごさるよ!」
「とりあえず黒いボックスを破壊していきましょうか」
「そうだね」
私達はライフルの引き金を引いて発砲。
一つ一つ狙いを定めて破壊していくのだが──。
「しんどい。多すぎじゃない?」
フジが根を上げるのも仕方ないこと。エリアのあちこちに黒いボックスが配置され、その数は数百はある。
5名でその中から当たりを目指して破壊していくのは大変である。
「私、思うんだけど……」
「どうしたのソレイユ? 何か分かったの?」
私は続きを促す。
「みはりが私達の近くに当たりの黒いボックスを配置するかな?」
「どういうこと?」
「つまり、こちらでなくてみはり達の後ろじゃないかな?」
黒いボックスはエリア内のあちこちにあり、それはみはり達クリーチャー側の後ろにも勿論ある。
「確かに一理あるかも」
「なら行ってみるでござる?」
「私とソレイユだけ行こう。絶対に向こう側というわけでもないし」
「そうでござるね。裏の裏をかいているかもしれないよね」
「だから卍達はここの残りをお願い」
「了解」
◯
「オルタ、このままだと巻き込まれそうなんだけど」
「うん。隙間ないね」
少し離れたところから私達は戦場を伺っていた。
向こう側に行くには戦場を通らなくてはいけないのだが、それだと戦闘に巻き込まれてしまう。
「もうそろそろするとクリーチャーのユーリがやられそうだから、その時にダッシュしよう」
「それだとメテオ達にも手伝ってもらって──」
「いや、それはダメだよ。みはり先輩は3体まで召喚可能って言ってたから、ユーリがやられたら他のポリス・クリーチャーを召喚すると思う」
「そっか。なら、ユーリがやられたらダッシュだね」
そしてユーリがやられて消滅。その隙に私とソレイユは戦場を駆けてクリーチャー側を越える。
「あれ? オルタとソレイユ?」、「何やってるの?」、「どこ行く?」
味方やクリーチャー達の疑問を背に受けて私達は駆けて行く。
クリーチャー側は全く手付かずのため、黒いボックスがたくさんあった。
「よし。壊して行こう!」
私達はライフルのトリガー引いて、黒いボックスを狙い撃つ。
みはり先輩も私達に気づいたようで、慌てたように近づき、触手による攻撃を仕掛けてくる。
「この慌てようは当たりかも」
しかし、メテオ達がみはりの触手攻撃をライフルで阻害しても、いくつかは私達のもとに届く。
「オルタ、早くやっちゃいな!」
メテオがみはり先輩を足止めしつつ命じる。
けど、早くしろと言われても私はFPSが苦手なため当てるのが大変。
連発だと外しやすいし。
もっと広範囲系の武器があれば……。
(ん!? 広範囲系!?)
確か──。
「ソレイユ、火炎放射器! それでなんとかならない?」
「やってみる!」
ソレイユは火炎放射器を装備して、放射口から炎を吐き散らす。
「どんどんやっちゃえ!」
もとからボックスは黒いため、きちんと焼き焦げているのか分かりにくい。
それでもきちんと燃えているようで黒いボックスはボロボロと崩れていく。
「させるかー!」
みはり先輩が触手をムチのように振るう。
それを私も含めた味方達はライフルの銃弾で弾いていく。
「ソレイユはこっちには気にせずにどんどん燃やして!」
「オッケー! 燃やすぞー!」
ソレイユは火炎放射器を振り回して、周囲の黒いボックスを燃やし続ける。
スタイルは放水する消防士みたいだが、やってることはその逆の放火である。
アラビア風占い師が放火。
少しシュールにも見える。
ソレイユが放つ炎の渦からランプ精が出てきてもおかしくないかも。
そんなことを私はふと思い描いた。
ピコーン。
軽快な電子音がエリアに鳴り響く。
とうとう当たりを引いたようだ。
当たりの黒いボックスを粉々に崩すと、
「ああ! もう! 火炎放射器なんてずるい!」
巨大脳みそクリーチャーのみはり先輩が悔しそうな声を出して、消えていく。
それと同時に他の召喚されたポリス・クリーチャー達も消えていく。
「やっと終わった」、「お疲れー」、「これで安心して人に戻れる」




