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VTuberをやっている妹のパソコンを勝手に使ったら、配信モードになっていて、視聴者からオルタ化と言われ、私もVTuberデビュー!?  作者: 赤城ハル
第4章

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第107話 キャラ

 パソコンの電源を切って、私は腕を挙げて背を伸ばす。そして大きく息を吐いた。


「ふひぃ、疲れたー」


 グラフリも6日目が終了し、残すは2日。


 今日は市長暗殺……というかテロ。

 なら、明日はどんな大きなイベントなのだろう。


 最終日はどでかいイベントのはず。

 市長暗殺よりド派手なイベントというと、警察署と中央銀行襲撃か。

 これまたドンパチがすごそうなイベントになるんだろうな。


 けれど、これを乗り切ったら休みだ。

 交歓祭にWGE、ここ最近は大変だったけど、残すは2日。これが終わった頃には大学も冬季休暇に入る。

 冬季休暇はとことん休むぞ!


「さて、寝るか」


 スマホで時間を確認する。

 今日は早く終わったため、現在の時刻は1時13分。


 ベッドで横になる。

 明かりを消して就寝。


 そろそろ自分の部屋が恋しいな。

 グラフリが終わったら、一度ベッドのシーツを洗わないといけないや。


  ◯


 昨日は早くにグラフリが終わったといえど、深夜1時の就寝は学生に辛い。

 まだ寝たい……でも、それは駄目で。

 あくびを噛み締めて、1階のリビングに向かう。


「おはよう」

「おはよう。顔洗ってきなさい。その間にパン焼いとくから」

「……うん」


 母が洗面所に行けということは、今は誰も使っていないということ。


 私は洗面所で顔を洗い、リビングに戻る。


 母から渡された食パンにイチゴジャムを塗り、咀嚼する。


 佳奈にグラフリの感想や意見でも聞こうかと思ったが、忙しい朝っぱらから聞く必要もないなと私は止めた。


(それに今は頭が回らないし)


 身支度を済ませた佳奈が先に家を出る。それから少し後で私も家を出る。


  ◯


 大学のお昼、食堂で私が欠伸をすると、桜庭、豆田、美菜が順に欠伸をした。

 1人欠伸をしなかった種咲が、


「どうしたの皆? 夜更かし?」

「うん。ちょっとね」


 私は空笑いで答える。

 VTuberをやっていることは秘密。


「私も配信でさ」と、桜庭が答えた。


 それに私は驚き、


「え? 配信? 何かやってるの?」

「違う違う。配信を観てたのよ」

「へえ? どんな配信? 誰の?」


 種咲が興味があるように少し身を乗り出して聞く。


「VTuberよ。ペイベックスのさ。今、大型コラボやっててさ」


 桜庭の答えに私はドキッとした。

 友人に私の配信が観られていたとは。


 いや、まだ私と決まったわけでもない。

 他の誰かかもしれない。それでも大型コラボには私も出演している。


「なーんだ。ペイベックスか」


 種咲が落胆したように答える。


「なによ。面白いんだからね」

「確かグラフリだっけ? 今やってる大型コラボって?」


 桜庭がうんうんと頷いて肯定する。


「そう。はちゃめちゃで面白いのよ」

「そっかぁ? 私、ずっと車で街中まちなかを走ってるってイメージ」

「そんなことないわよ。色々とアウトローな犯罪をやるのよ。それがグラフリよ!」

「犯罪って……銀行強盗して、警察とカーチェイスしてるんでしょ?」

「そうよ」

「ほら。結局走ってばっかじゃん」

「でも今回は全然違うから。色んなイベントがあるんだから」

「例えば?」

「麻薬を運んだりとか」

「車を使うんでしょ?」

「……そうだけど。ほ、他にもあるから。昨日はNPCを使っての犯罪とか、市長暗殺とかあったの。警察の対応がめちゃくちゃで面白かったんだから」

「へー」

「もう! 何よ! 『へー』って」


 と、そこへ──。


「どうしたの? 怒って?」


 瀬戸さんがコーヒーの紙コップを持って現れた。そして美菜の隣に座る。美菜は陽キャの登場に緊張で身を硬くする。


「いや、別に」


 桜庭は苦笑して答えた。


 VTuberのことで熱く語ったのが恥ずかしいのだろう。

 桜庭からしたら瀬戸さんは陽キャだもんね。

 ここは私が援護射撃をしてあげるべきかな。


「ええとね、ペイベックスVTuberの大型コラボのことだよ」

「ちょっと千鶴!」

「瀬戸さんはVTuberとか好きだから昨日の配信も観たんじゃない?」

「えっ!?」


 桜庭が驚いた顔で瀬戸さんを見る。


「うん。人並みにね」


 と、瀬戸さんは答えるが、本当はV豚というのは知っている。特にメメの。


「それじゃあ、昨日のも観たの?」

「観たよ。オルタの枠でね」


 そう言ってから瀬戸さんは私をちらりと見る。


(ん?)


「オルタ、すごかったですよね。直感で市長を殺すんですもん」

「本当よね。トクリュウやフラッシュロブも巧みに使いこなすし、犯罪のエキスパートね」

「ここ最近、ヤバいですよね」


 なんか私の話になってきた。

 どうした? 瀬戸さん?

 私がオルタと知っててどうしてオルタの話題を?


「ボートレースの賭け狂いには本当に驚きね」

「あと、麻薬密売の時も改造タクシーで大暴れ!」

「VRゴーグルを使ったギャンブル抗争も」

「最後のやつですよねー。切り抜きやショートでもありましたね」


 誰かこの2人を止めて。

 豆田は会話に入ろうとしないし、美菜は人見知りが発動して固まってるし、種咲はちょっと興味深そうに話を聞いている。


(誰かー)


「何の話で盛り上がっているの?」


 天野さんが現れて、瀬戸さんの隣に座る。


「VTuberの話でね」

「VTuber?」

「天野は観ない?」

「全然。VTuberの話で盛り上がってたの? 華の大学生なんだからクリスマスとかしなさいよ」

「クリスマスって、まだまだ先じゃん」


 クリスマスは約1ヶ月後の話でまだまだ先。

 けれど陽キャは1ヶ月前から準備をするのかな?


「もうすぐ冬季休暇じゃない。そしたらすぐよ」

「冬季休暇って、まだ2週間先じゃないの」

「あっという間よ。冬季休暇をどう過ごすかをきちんと考えないと。で、そのVTuberって面白いの?」

「ここ最近トレンドも上がってるVでね」

 話がVTuberから冬季休暇へと変わったと思ったのに、元に戻ってしまった。


  ◯


「瀬戸さーん、どうしてあの時、私……オルタの話を?」


 夕方、大学から帰宅した私は瀬戸さんに昼のことを聞いた。


『だって……私がVのこと好きみたいな言い方したし』

「事実じゃん」

『それでも大学内。しかも人が大勢いる食堂では御法度だよ。誰が聞いてるか分かったものでないし』

「そう? 配信なんて今時普通でしょ?」

『半年前まで配信を全く観てない人が言う?』

「うっ!」


 私はVTuberだけでなく、動画やゲームとは無縁だった。それでもそんな私は一般人と思っていた。


『配信でもVTuberはオタク寄りだからね。あまり声高に推しとか視聴しているとか言えないのよ』

「そうだよね。ごめんね」

『もういいよ。実際、オルタはここ最近話題だからね』

「そうなの?」


 話題になっているということは自分の配信が評価されているということ。


『ギャング狂とかサイコパスとかね』

「……それは喜んでいいの?」

 マイナス面しか考えられないのだけど。

『良い方だよ。切り抜きとショートとかも再生数高いし』

「しかし、ギャンブル狂か。私は東野カナのライブ衣装欲しさに頑張ってるだけなんだけど」


 ゲーム内特別衣装で東野カナのライブ衣装がボートレースのポイント景品としてあるのだ。配信を観ている人なら気付いているはずなんだけど。


『VTuberはね、リスナーが求めているキャラがあって、時にはそれに沿わないといけないからね』

「キャラかー」


 それはつまりリスナーは私がギャンブル狂やサイコパスのキャラを求めているということなんだけど……クズキャラじゃないか?


『だからって、意識的にそのキャラを演じる必要はないからね。ボロが出ちゃうから』


 私は役者ではないし、そういった心得があるわけでもないから、下手な演技はダメということだね。


「そういえば基本設定ってあったよね」


 VTuberの名前、身長、体重、趣味。

 妖精や悪魔キャラならファンタジーな設定もあったはず。


『あるある。けど、それは()()としてのね。()にはないから、VTuberをやりつつ、魂のキャラは配信をしつつ作っていかないとね』


 魂。それは中身ということ。

 配信をしつつ、ガワではない己を見せていくということ。


「でも身バレに繋がらない?」

『最悪繋がる。だから魂にも設定を作る人もいる』

「魂にも!?」


 ガワと魂の2つにキャラを作るということ。

 それは大変だ。


『フジだって、魂はそこまでおばさんじゃないのに、おばさんキャラやってるでしょ?』

「う、うん」


 本当に三十路だからおばさんなんだけどとは言えなかった。

 魂の情報は秘匿。瀬戸さんはリスナーだから内部情報は言えない。

 最悪、契約違反で罰せられてしまう。


『だから魂でもキャラを作るからメンタルが大変なのよね』

「リスナーには嘘の自分を見せないといけないもんね」

『そうそう。リスナーの中には嘘と分かってていじってくる奴もいるからね』

「それは大変だね」

『それに比べてオルタは事故から発生したからね。ガワも魂にもキャラ設定がない不思議よね』

「言われてみると。私は何一つキャラがない」

『だからギャンブル狂とサイコパスを求めるのかな?』

「えー、やだー」


 ギャンブル狂とからサイコパスなんてヤバいキャラだよ。そんなの演じたくない。


『だから千鶴さんはそのままでいいんだよ。下手演技とかは必要ない。素のままで配信をしなよ』

「素のままか」

『そう。今まで通りでいいんだよ』

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