第105話 グラフリ6日目『犯罪祭り』
ボートレースの件はなんとか、私がペイントを施した白いボートのおかげでなんとか私がきちんと仕事をしていると信じてもらえた。
その後はあちこちでスプレーアートでエリア9000番台を汚くして、時にはゴミ箱を倒してゴミを散乱させた。
それから21時になり、メテオからグループ通信があり、ギャング全員に、
『皆が頑張ってくれたおかげで市民不満値が基準値を大幅に超えました。今から22時30分までNPCを使って犯罪を行ってもらうよ』
犯罪。大勢のNPCを使ってのフラッシュロブとトクリュウだっけ。
『やり方はスマホの犯罪アプリにあるから。それと担当エリアとかはないから、各々好きな場所で、好きなように犯罪をしてね』
メテオが明るく物騒なこと言った。
『23時に市長暗殺イベントだから、30分前の22時30分にギャング拠点に集合だよ』
そう言って、通話は切れた。
これから約1時間半で街のあちこちで犯罪を発生か。
スマホの犯罪アプリからフラッシュロブとトクリュウのやり方についてまず私は学んだ。
フラッシュロブとトクリュウもSNSで募集して、集まったら襲撃を指示するというシンプルなもの。
ただ、指示を出す場合は指示者も現場に向かわないといけない。
「普通はないよね。指示者が現場に行くなんて」
指示者も参加するのでなく、あくまで見守るだけ。
まるで放火犯が現場で野次馬に混じって見にくるのと同じだ。
「まあ、いいや。ゲームなんだし。深く考えないようにしよう」
まず私は犯罪アプリでコンビニを登録して、それからSNSでフラッシュロブのメンバーを募集する。
すると電子音がピコピコと何度もうるさく鳴る。
「おっ! もうこんなに集まった」
募集して数秒で20人中13人。
「さすが市民不満値が高いだけある」
けれど、そこからなかなか人数が上がらない。
18人。残り2人。
募集人数に届かなくなった場合はSNSを使い、コメントで煽る。
『おいおい、日和ってる奴いねぇよな?』
有名暴走族マンガから名ゼリフ拝借。
煽りってよく分からないけど、こんな感じなのかな?
「あっ!?」
1人増えた。
「19人。よし。あと1人だ。ええと、あとはどんな煽りがいいんだろう?」
そもそも煽って、犯罪に参加する人が増えるのだろうか。これもゲーム仕様?
『一狩り行こうぜ!』
……駄目だ。反応なし。
『このままチー牛やギーク、ネズミ人間のままでいいのか? 男なら漢気を見せてみろ!』
アメリカで話題のギークは特定分野以外興味がない人。まあ、オタクという意味らしい。
ネズミ人間は中国で増えている他人に消極的で家に引きこもる人という意味らしい。
しかし、それでも増えなかった。
「あと1人なのに!。ええい! こうなったら!」
私は次々と暴言を吐き散らして煽る。
すると運営からメッセージが届いた。
「何?」
『あまり蔑称は使わないで下さい』
「怒られちゃった。こういうのはダメなのか?」
煽りとは相手を馬鹿にしたり、邪魔をしたりして、怒らせること。もしくは相手の自尊心を突っついて、挑発させること。
難しいな。ここは一旦、煽り以外で犯罪を誘発してみるか。
「……ならば」
私は犯罪をのSNSにコメントを投稿。
『皆でムカつくコンビニの店長に仕返しだ!』
(……いやいやいや)
投稿して、すぐにおかしいなと感じる。
コンビニ店長って誰よ。知らない。
馬鹿な投稿をしてしまった。
けれど──。
ピコン!
電子音が鳴った。
「よしっ!」
人数が20人達成!
私は現場となるコンビニに向かう。
場所はポイント3002。
コンビニで車を降り、スマホの犯罪アプリを開くと【犯罪実行】のコマンドが選択可能となっていた。
私は【犯罪実行】を選択してフラッシュロブを決行。
「これで……いいはず……なんだけど。ここで待っていればいいの……あっ!?」
自転車に乗ったNPCの子供がわんさかと群がってきた。
そして全員が集まるとフラッシュロブによるコンビニ強盗が始まった。
「わー、すごいなー」
子供がお菓子やジュースをいっぱい抱えて、コンビニから出てくる。
自転車のカゴに盗んだ品を入れて、子供達は自転車を漕いで去って行く。
しばらくしてパトカーがやってきて、まだ居残ってた子は急いで自転車を漕ぐ。
パトカーから出てきたのはペーメンではなくNPCのポリスだった。
そのNPCのポリスは警棒を振り上げながら、逃げて行く少年を追いかける。
「さて、次にいこうか」
私は犯罪アプリを起動して、トクリュウのメンバーを募集。
ターゲットは豪邸。
募集したら、すぐに人数は集まり終了。
「早い! コンビニとは違って、金持ちの家だからか? 現金だね」
私はターゲットの豪邸へと向かう。そしてコンビニの時と同じように【犯罪実行】を選択。
そしてワゴン車が2台やってきた。ドアが開き、目出し帽とL字バール、金属バットを持った男達が計7人が出てきた。
「わー、まじ犯罪だ」
先程の子供達とは違い、今回は大人で全員目出し帽に武器持ち。見た目だけで犯罪度が跳ね上がったみたいだ。
彼らは豪邸の門衛を攻撃して敷地の中に入っていく。
「そういえば、この豪邸どっかで見たことあるような?」
◯
「なかなか……終わらないね」
かれこれ5分くらい経ってる。
豪邸だから価値ある物を選んでるとか?
それとも金庫に苦戦。
早くしないと警察が来ちゃうよ。
すると発砲音が鳴り響いた。
「銃? あいつらそんなの持ってたっけ?」
ピコン!
スマホから電子音が鳴る。
「何? ん? 失敗!?」
なんと犯罪失敗という通知が届いたのだ。
「どういうこと? 彼らは?」
ちょっと外から敷地の中を確認すると黒スーツの男達が目出し帽を被ったトクリュウグループ達の死体を運んでいた。
「ああ! 思い出した。ここはヤクザの豪邸だった」
前に車を盗もうとここでドンパチしたっけ。
私は犯罪アプリで次のトクリュウメンバーを募る。
ターゲットとなる家はそこそこ裕福な家を選んだ。
ネットでメンバーが集まるとターゲットの家に移動。そして犯罪アプリで【犯罪実行】を選択。
トクリュウメンバー達がワゴン車でやってきてトクリュウを実行。私は外で見守る。
「犯罪者って、みんな目出し帽を被るよね」
数分後、今回は成功したらしく、彼らは金目のものを持って家から出てきた。すぐにワゴン車に乗り込み、去って行く。
「何もしてないとはいえ、罪悪感半端ないわー。……本当だよ」
グラフリはコメントが見れないようになっている。けれど今、リスナー達はこんなことを言っているのかなと想像して私は弁明する。
「さてさて、次はスーパーかな」
◯
スーパーでのフラッシュロブの時だ。
パトカーが2台やって来て、スーパーの前で止まる。そして4名のポリスが降りてきた。
そのポリスがNPCではなく、ペーメン達だった。
「この数だぞ。どうやって対応するんだろ?」
30名の子供達だ。
たった4名でどう対応するのか。
手錠は足りるのか?
ポリスのペーメン達は拳銃をスーパーに向ける。
「ん?」
そしてポリス達は発砲した。
「ええっ!?」
スーパーから英語だけど子供達の悲鳴が聞こえる。
「まじ?」
慌てて、中から子供達が出てきて逃げようとするが、その子供達もポリス達は発砲して殺していく。
そしてフラッシュロブの子供達全員が死んだのか。周囲は静かになった。
「……正義の警察官が何をやっているんだ」
ペーメン達はパトカーに乗り、この場を去る。
私はこの出来事をメテオに連絡する。
『全然捕まえられないし、捕まえても市民不満値はあがったままだからね。ポリスも普通に捕まえるのも面倒だから殺してるのよ。 そっちの方が楽だし。ストレス発散にもなるからね』
「でも、ポリスがそんなことやっていいの?」
『ここはゲームだからね』
メテオが笑いながら答える。
「そ、そうなんだ」
『オルタだって、麻薬運搬の時、改造タクシーで暴れ回ったじゃん』
「それは……私がギャングだからで」
ギャングだからこそ私は暴れ回った。そういう役だから。
でも、ポリスは正義だ。そのポリスが集団強盗とはいえ、子供達に向けて発砲とはひどくないだろうか。
『深くは考えないで。とりあえず、バンバン犯罪を行ってね』
「はい」
◯
その後、何回かトクリュウやフラッシュロブを行っていくと、犯罪アプリから【テイクオーバー】犯行可能と通知がきた。
「テイクオーバー?」
知らない単語のためヘルプで確認した。
どうやらテイクオーバーとはトクリュウとフラッシュロブを足したようなものだった。
20名以上でジュエリーショップやブランド店、貴金属店などを日中堂々と目出し帽を被った男達が集団で強盗する犯罪行為。
複数台の車でやってきて、ものの数分という脅威の犯行スピードでアメリカで話題の犯罪。
「へえ。それならちょっとやってみようか」
私は犯罪アプリのSNSで人数を募集。
すぐに人数は集まり、私はジュエリーショップに向かう。
そして犯罪アプリを起動して【犯罪実行】を開始。
多数の車がやってきて、目出し帽の男達がわんさか車から降りてきて、まっすぐジュエリーショップに駆ける。
扉を開けるのではなく、ツルハシでガラス扉を破壊して侵入。ガラスケースを壊して、中の指輪やネックレスなどを奪い取っていく。
「すげーな」
彼らはいっさいの躊躇なく犯行を行なっていく。
盗るのが当たり前みたいに。
そして彼らは2、3分で犯行を終えて、車に戻り、去って行く。
彼らが去ってからパトカーが一台がやってきた。
中から出てきたのはクエスとみぃこだった。
「もう終わってるし!」
「はやっ!」
「こちらクエス、みぃかと共にジュエリーショップ店に到着したものの、すでに終わってました。店内はぐちゃぐちゃです」
『……ジュエリーショップか。中はぐちゃぐちゃで貴金属狙いということはフラッシュロブではなく、これはテイクオーバーだね。2人は巡回しつつ、強盗があったらすぐに駆けつけて』
通話の相手はみはり先輩のようだ。
「了解」
通話を切ったクエスはパトカーに乗る前に私に近づいてきた。
「もしかしてオルタ?」
「違うでしょ」
私が返事をする前にみぃこがそう言って、パトカーに乗った。
そっか。頭上のネームを消しているし、髪型と服装も変えているから分からないんだ。
そういえば詩子も疑問で話しかけてきた。
無反応だったらバレないかな。
私はNPCのフリをして歩き始める。
「あれ? オルタじゃない?」
クエスが追いかけてきた。
「NPCだよ。早く乗ってー」
「ちょっと待って。おりゃ!」
クエスが私を殴った。
「Fuck」
NPCは言語が英語なので私もNPCのフリとして英語を使う。
「本当にNPC? えい!」
「Ouch」
「NPCか」
「サノバビー」
「ん?」
やべ。カタカナ英語だったか?
とりあえず、ゆっくりと歩いて、この場を去る。
「おーい、クエス、行くよー」
「……あ、うん」
後ろ髪を引っ張れつつもクエスはパトカーに乗る。
そしてパトカーが見えなくなってから私は安堵の息を吐く。
「ふう。危なかった」




