第101話 グラフリ5日目『ボウリング大会』
深夜1時になり、カジノのホールにリリィとアメージャが壇上に現れる。
「それでは本日、最後のイベント、ボウリング大会を始めまーす」
「わーい」
「まずは出場選手の決めさせていただきたいと思いまーす」
リリィとアメージャの後ろに巨大スクリーンが天井から降りてくる。
「2人1組。A組からL組の合計12組の枠があります。地下格闘技大会で出番がなかった人が選ばれやすくなってるよ」
「優先ではなくて?」
「あくまで確率が高くなっただけ。それではアメージャ、スタートボタンを押して」
「あいよー」
A組の2つ枠にペーメン達の名前が走る。
「もう一度ボタンを押すとストップするよ」
「ストップ」
アメージャがボタンを押すと2つの枠にうたたね詩子と完熟サラサの名前が止まる。
「A組はうたたね詩子と完熟サラサ! さて、どんどん決めていくよ! アメージャ、ボタンを押していって」
「おー!」
アメージャが次々とボタンを押していき、出場選手が決まっていく。
「I組は姫川ミウと赤羽メメ・オルタ!」
(あらら、選出されたよ)
その後、次々と選手が決まり、全12組が選ばれた。
「では皆、ボウリング会場の2階へと移動してくれー」
私達は2階へとエレベーターを使って移動する。
2階はボウリング場で、リリィ達は当然のように言っていたが、やはりカジノ会場にボウリング場があるのは違和感があった。
「ねえ、オルタはボウリング得意?」
相方のミウに問われた。
「やったことないです」
「ええっ!? ボウリングしたことないの?」
「いやいや、そうではなくて、ゲームのボウリングは初めてです」
「あー、そういうことね」
「ミウは経験ありで」
「やったことあるよ。Weeでもボウリングゲームやったことあるよ」
「……Wee。もしかしてリモコンコントローラー?」
「うん。リモコンコントローラーだよ」
「今回はリモコンコントローラーではないの……では?」
「…………あっ!? そうかも!?」
リリィ達はリモコンコントローラーを持参するようにとは告げていない。
「でも、大丈夫だよ。ボウリングなんて真ん中でまっすぐ投げればストライクになるようになってるから」
「そうですか?」
プロは少し真ん中から外れて、玉の軌道を曲げているような?
「皆、集まったかな?」
リリィがペーメン達に問う。
「選手はレーン側にきてね。観客は観客席で見ててね」
私達選手はレーン近くまで集まる。
「後ろも見えるように座ってね」
言われて私達は体育座りする。
「みはり先輩、メテオ、トビ、お前達ヤンキー座りですよー。体育座りしなさい」
アメージャから注意を受けて、みはり先輩達は体育座りで床に座りに直す。
「まずはボウリングの遊び方について説明するよ。まずはボウリングの玉を持ち、それけらレーンの前に立ち、構えて……投げる」
「リリィ、それ簡単すぎじゃない?」
「フッフ、アメージャ、甘くみては困るよ。まず試してみようか」
「ええと、玉を持って、レーンの前に立つんだろ」
アメージャが緑色の玉を持って、レーンの前に立ち構える。
すると──。
「動く! へ? 勝手に左右に動くんだけど」
「ここで投げたいという時に投げてね」
「なるほど、そういう仕組みね。より上手く真ん中で投げられるかということだね」
アメージャは真ん中を狙いすまして──投げる。
「ああ!? おかしいだろ!? なんで投げる時も動くんだよ!?」
投げる前に後ろへと腕を引く。そして前へと腕を振って、玉を転がす。
その動作中にもアバターは左右に動くのだ。
「タイミングを合わせないとダメだよー」
「ええっ!? つまりこの動作も含めて、考えて投げないといけないのかよー!?」
「そうだよ。選手の皆も気をつけてねー」
「むっず!」
アメージャの言う通り、投げる時も動くのでかなり難しい。
だけど投げている時に左右はスライドする画はシュールだ。
「次は7回以降に発生する妨害について説明するよ」
「普通のボウリングじゃねえのかよ?」
「それだとつまんないじゃん。だから妨害も足したんだよ」
「普通でいいよ。これだけで大変なのに」
「妨害は目隠し、妨害板、穴、釘ピンの4つがあるよ。これら4つの妨害は7回以降点差が30以上あると、負けている方から各々1回だけ選択で妨害が出来るんだよ」
「負けている方?」
「そうだよ。双方あると特に意味がなくなるでしょ?」
つまり負けている方への救済処置ということか。
「妨害板と穴、目隠しは分かるけど、釘ピンって何?」
「お祭りの屋台で射的があるでしょ。あれで高い賞品は板と賞品が釘や接着剤で固定されているでしょ? 今回のボウリングでは床板とピンが釘で固定されてるんだ。それを1つ、相手のピンの中から選べるんだよ」
「屋台情報でびっくりだよ。本当なの?」
「Maybe」
「まさか都市伝説の類か?」
◯
私達I組は5番のレーンでJ組と対戦。相手はミカエル・さち美ペア。
トーナメント制ではないため、2人に勝っても次の勝負もなく、この戦いで得た点数で順位が決まる。
「それじゃあ、始めようか! まずは私だね」
ミウがボウリングの玉を投げる。
ゴロゴロ……カシャーン。
「くわっ! ズレた!」
玉は端の方を転がり、2本しかピンは倒れなかった。
「ドンマイです」
「うん。次こそストライクだ!」
「スペアですよ」
ミウはボウリングの玉を持ち、レーン前で構える。
「今度こそ……ここだ! とぉりゃあ!」
レーン真ん中にアバターがくるようにボウリングの玉が投げられる。
「いけー!」
転がったボウリングの玉は真ん中を直進してピンを弾いていく。
「ストライクにはならなかったけど6本倒したよ!」
「だからスペアですって。まあ、合計8本ですか。ガーターでない分、良しとしましょう」
「厳しい。鬼教官だ」
「ええっ!? そんなことありませんよ」
「はい、そこの2人、次に投げるのでどいてね」
と、ミカエルが注意する。
「ごめーん、どうぞー」
私達がどいて、ミカエルがボウリングの玉を投げる。
「とりゃあ!」
ピンは8本倒れた。
「よし!」
「やばいよ、オルタ!」
「大丈夫です。スペアは難しいはずです」
けれど、ミカエルはスペアを決めた。
「これは大変だ! オルタ! お願い!」
「分かりました。任せてください」
私はタイミングを合わせて、ボウリングの玉を投げる。
「よし! 真ん中!」
だが、ストライクにはならず左右にピンが2本残った。
「これは次が難しいな」
左右のどちらかを狙うしかない。
「なんとかストライクだよ」
「無理ですよ。これは難しい。というかスペアね」
そして2投目。
「とりゃあ!」
右2本を倒して終了。
ミウと同じく8本で終わった。
「ドンマイ! 次、頑張ろう!」
その後、相手ペアチームはさち美が投げ、結果は7本。
「次は任せて!」
と、ミウが意気込むが、結果は6本。
その後でミカエルがストライクを出した。
「点差が広がるー! オルタ、妨害はいつからだっけ?」
「7回です」
「それまでなんとか30点差をキープしつつ食らいつかなきゃあ!」
「追い抜くという選択肢はないんですか?」
◯
そして7回裏。点差は45点差で私達が負けている。
「よし! ここから妨害だ!」
「何を選びます?」
1回につき1つ妨害が選べる。
「ここはシンプルに妨害版だ!」
レーン中央に板が1つ立つ。
「これは板の左右横を狙わないとダメだね」
ミカエルがレーンを見て言う。
「さあ、やれるものならやってみやがれです!」
ミウが偉そうに宣言する。
「やってやらぁ!」
ミカエルがボウリングの玉を投げた。
ガンッ!
残念ながら板に当たり、玉は弾かれてガーターに。
「くっ!」
「イェーイ!」
2投目が投げられた。
ボウリングの玉は板の横を通り抜け、ピンを2本倒した。
「うっし!」
「大丈夫! 2本!」
8回。私が投げる番になり、ボウリングの玉を投げる。
結果は9本。
「あとちょっと! すみません。スペアにならなくて」
「ドンマイ! それより妨害チャンスだよ」
「そうですね。妨害しないと」
残り3つの妨害から私は目隠しを選んだ。
「消えた!」
「さち美、どういうこと?」
ミカエルが聞く。
「ええと、私のアバターが消えました」
「エラー?」
「いえ、たぶんこれが目隠しだと思います。画面真っ暗にすると問題が発生するかもしれないのでアバターが見えなくなるという設定かと」
「なるほどね」
「そちらから私は見えますか?」
「見える見える。なら、私の合図だそうか? お願いします」
「連携なんてずるーい」
ミウが文句を言う。
「ペアだから連携してもおかしくないから!」
(まあ、確かにそうだね)
そしてミカエルが合図を出して、さち美がボウリングの玉を投げる。
やはり微妙なズレがあるため、端が多く、倒したピンの数は4本だった。
「よし! 徐々に点差は縮まってるよ!」
「はい。いけるかもしれませんね」
◯
「9回。とうとう最後か」
「まだですよ。野球じゃないんだから。一応、ミウはこれで最後だけど」
「そっかそっか。10回で終わりだね。それで私が投げる番はこれで最後。よーし、投げるぞ!」
ミウがボウリングの玉を投げる。
だいぶ慣れてきたのか真ん中でボウリングの玉を投げれるようになった。
「惜しい! 9本!」
「あと1本ですね」
ただ、右奥1番端のピン。
「いくぜぇ!」
ミウが意気込んでボウリングの玉を投げる。
「しゃあぁぁぁ!」
なんとピンを倒してスペア。
「ストラーーーイク」
だからスペアだって。
まあ、本人が喜んでいるから野暮なことは言わないでおこう。
「さあ、妨害の時間だ!」
ミウは妨害として穴を選んだ。
レーン中央に穴が出来る。
「さあ、やってみるがいい!」
ミウが悪役っぽく笑う。
◯
10回。最終回。
「オルタ、頑張れ!」
「やってやります!」
ミウがスペアを取ったんだ。ここは私も頑張って点を稼がないと。
私はボウリングの玉を投げる。
「惜しい!」
1本残った。
2回目で1本を倒してスペア。
「いいよ! 次は妨害だよ」
「最後は3回目があるんだよ」
「あっ!? そうだ!」
最後の投球が始まる。
私はボウリングの玉を投げ──。
ガシャシャン!
ピンが弾け──。
「7本か……」
「いいよ! 抜いたよ!」
「あとは妨害ですね」
「……ねえ、なんかズルくない?」
ラストボウラーのさち美が文句を言う。
「なんで? 面白いじゃん」
「こっちは妨害でイライラなんですけど」
「妨害を乗り越えてこそゲーマーだよ」
「勝手なこと言わないでよ!」
「まあまあ、最後頑張ってね」
私は敵であるさち美を労う。
さて、最後の妨害は釘ピンか。
確か好きなピンを固定出来るんだっけ。
シンプルに真ん中かな?
「決めました。どうぞ」
「それじゃあ、投げるか……ん? 待って? これって、釘ピンのせいでスペアかストライクは発生しないんじゃないの?」
「そうですね」
「それって、3回目はないってことだよね?」
「ですね」
「オルタ、可愛く言ってんじゃないよ!」
「頑張ってくーださい」
「フ◯ック!」
◯
「やったーーー!」
「やりましたね」
私とミウは嬉しさで、アバターを動かしハグをした。
「クソッ!」、「倒せないピンなんてずるい!」
ミカエルとさち美が愚痴る。
「まあ、これが勝負の世界なんで」
ミウが偉そうなことを言う。
「おーまーえーなー!」
「まあまあ、そうカリカリしないでください。大事なのは自分達の点数が全体で何位かということですよ」
ボウリング大会はトーナメントではなく点数で全体の順位が決まる。
私達に負けたため1位ではないだろうが、それでも順位は近いかもしれない。
「結果発表を待ちましょう」
まだ対戦中の組も大勢いて、結果発表まで時間がある。
「それまで……感想戦する?」
ミウが提案してきたのだが、
「いや」、「けっこう」
ミカエルとさち美は却下。
「それ囲碁とか将棋で試合後にするやつですよね?」
どれが悪手だったのか、こうすれば良かったのではとか、そういうことをするのが感想戦だ。
「それ。やった方が面白くない?」
「ボウリングで、どうやって感想戦なんてするんですか?」
「対戦」
「ダメですよ。プレイ中に結果発表が始まるかもしれませんでしょ?」
「まあ、そうだね。残念だけど諦めよう」
◯
全試合が終わった後、しばらくの休憩時間を挟んで、結果発表となった。
場所は1階のホール。
「はい、皆さん、お疲れ様です。それでボウリング大会の結果発表をさせていただきます」
「わー。どの組が1位になったの?」
「それでは第1位は……」
ここでドラムロールが鳴り、
「C組の明日空ルナと天狗丸セレンチーム。点数は161点」
「意外なペアが!」、「まじか」、「161点か。高いなー」
「そして第2位は……」
またドラムロールが鳴り、
「K組の鍵穴カフスと山吹色モモネチーム。点数は154点」
その後、次々とリリィの口から順位が発表され、
「第5位はI組の姫川ミウと赤羽メメ・オルタチーム。点数は101点」
「やったよ! オルタ、5位だ!」
「微妙な順位ですね。まあ、私達ではこのくらいでしょうね」
◯
「これにてグラフリ5日目のイベントは終了となります。今日1日は地下格闘技やボウリング場はご利用可能なので、やってみたい、もう一度やりたいという方はぜひとも楽しんでください」
ボウリング大会終了後、リリィが本日の締めの挨拶を行う。
「それでは皆さん、カジノイベントお疲れ様でした」
『お疲れ様でーす』
こうして解散となり、各々は自由行動を始める。
「オルタはこの後、どうするの?」
姫川ミウが尋ねてきた。
「私はこれからボートレース場に行きます。今日はG1レースの日なんです」
「ボートレース場? 私も一緒に行っていい?」
「いいですよ」
「私もいいかしら?」
ミカエルが話に入ってきた。
「オッケーですよ」




