第92話 グラフリ4日目『ミーティング』
「はい、皆さん、そろそろ今日のイベントが始まります」
今日のイベントは麻薬運搬と売買。
それは今日のミーティングでも言っていた。
『おおー!』
「……」
「皆、車を買ったよね?」
麻薬運搬には車が必要。そのためミーティング時に車の購入と改造するように言われていた。
『買ったよー』
「……」
「改造した?」
『したー!』
「……」
「あれー? オルタ、どうしたの?」
「あのー、すみません。車……事故でやっちゃいました」
申し訳なく私は答えた。
「なんだと!?」、「なぜ事故る!?」、「どうすんだよー!?」、「マジ卍!?」
メンバー達から叱責を受ける。
「うぅ、すみません」
「話は聞いている。カーチェイスで谷に突き落とされたらしいな。だが、今日のイベントは足が必要って言ったろ? どうすんだ?」
「イベント開始までには車を手に入れます」
「間に合わせろよ」
メテオが低い声で注意する。これはだいぶ怒ってるのかな?
「はい」
「それじゃあ、イベントの内容に具体的に話すよ。まず運搬作業について。これは文字通り大量の麻薬を運ぶというイベント。まず私とサラサに麻薬王から連絡がくるの。私達もくしは手が空いている者に運搬仕事をしてもらうから」
ということは運搬には車が絶対に必要ということ。
「次に売買。これは麻薬を売りつける仕事。マップに赤い点があったら、そこに行って麻薬を手に入れること。麻薬を手に入れるとマップに次の売買地点と購入者が現れるから」
「はい、質問」
「何、ミカエル」
「それって、運搬で手に入れた麻薬を直接売り捌くってこと?」
「ううん。それは違う。運搬と売買は別もの。売買はポイントで手に入れた麻薬をブローカーや店に売ること。ただし、その運搬後に連続して麻薬を捌くイベントが発生する可能性もあるからね」
「やはり、その運搬が先にイベント発生でごさるか?」
「どっちが先とかはない。イベント中は両方がほぼ同時に発生。それに一回だけでなく、イベント期間内は運搬と売買が何度に発生すると思って。運搬から連続で売買はあくまで可能性。稀にあることだから」
「了解」
「売り捌く麻薬は何ですか?」
ヤクモが麻薬の種類を尋ねる。
「ええとね……マリファナ、コカイン、エトミデート、フェンタニル、マジックマッシュルーム、MDMAだそうよ」
と薬名を言われても私には違いが分からない。
「ヤクモ、違いが分かるの?」
と、私は聞いた。
「マリファナは大麻で、それ以外は麻薬」
「大麻と麻薬は違うの?」
「大麻とは大麻草を乾燥させたもので、麻薬は成分を抽出したものなの」
「マリファナは聞いたことあるわ」
ミカエルが口を挟む。
「どうして危ない物を根絶させないのかしら? 不思議よね」
「それは合法としている国があるからですよ。カナダではマリファナは合法ですし、オーストラリアでは覚醒剤はダメと言いつつも、公共トイレにパケとポンプを捨てる専用ゴミ箱がありますしね。あと、麻薬は医療分野で鎮痛剤として使われていますから」
「さすが薬モ先生ね。麻薬には詳しい」
「えっ!? あっ!? 違います。一般常識です」
空気を察してヤクモが弁明する。
いやいや、一般常識かそれ?
「こっちには薬モ先生がいるから、勝ったも同然よ」
「サラサ先輩、やめてください」
「そうそうそれと今回のイベントはトリックスター全員が関わってるから」
メテオが仲間について説明する。
「ギャング&トリックスターVSポリスってことだから」
「それってポリスは不利じゃない?」
トリックスターから数人の参加ならいざしらず、今回は全員参加。それだと人数は圧倒的にこっちの方が多い。
「向こうにはNPCの市警がついているし。武装もガチガチだから」
「武装も……ってことは、ポリスと戦闘になるということ?」
ネネカがメテオを質問する。
「そう。逃げるだけでなく、時には戦闘よ」
「勝てるかしら?」
麻薬王救出イベント時の武器があるが、あの時はこちらは麻薬王を救出こそ成功させたが殺られた。
「というか、強盗をしなければ警察だって襲ってこないのでは?」
「今は特別警戒中だから、何もしてなくても襲ってくるよ」
「ギャングというだけで襲ってくるわけね」
「でも大丈夫。車も買ったし、改造もした」
(うっ! それ言われると痛いな!)
「ちなみに負けるとどうなるの?」
「1000万ドルの罰金!」
『高っ!』
皆が一斉に声を出して驚いた。
1000万ドルなんて日本円にして約16億円。今まで保釈金とはケタが違う。
「それだけ報酬がでかいってこと」
「1000万ドル所持してなくて捕まったらどうなるわけ?」
「借金ね」
「それは……いやね」
借金状態になると無一文扱いでカジノやボートレースでは遊べず、返済のために強盗を続けないといけない。さらに時間によって徐々に利息で借金が増えていく。
「質問」
私は手を挙げた。
「何?」
「イベント途中で手に入れたお金は使えるんですか?」
「イベントで手に入れたお金は使えない。使えるのはイベント後。ただ、警察に捕まった際の罰金としては使えるから」
「そうですか」
残念だ。お金を手に入れたらすぐ車を修理しようとふんでたのに。
「さあ! この街、ペイシルベニアを薬漬けにするわよ!」
『おー!』
◯
私は車を調達しようとマイにエリア7000番台へと車で送り届けてもらった。
「ありがとう」
「頑張って良い車を見つけなよ」
「うん」
マイが去った後、私は通りを走る車を物色する。
速い車というとスポーツカー。
ここエリア7000番台は富裕層がいるエリアである。
ここでならきっと目当てのスポーツカーも見つかるはず──。
「…………スポーツカーがこない」
待てども通りにスポーツカーが現れない。
ゲーム内は夕方。そろそろ夜になろうとしている時刻。
焦りからか、私はアバターを走りまわらせてスポーツカーを探す。
「どこだー!」
そこで着信音が鳴った。
ゲーム内のスマホを画面に表示する。
着信相手はメテオだった。
「もしもし」
私はおそるおそる通話に出た。
『あ、オルタ? どう? 車はゲットできた?』
「それがスポーツカーが現れなくて……」
『あー……それならもう普通の車でいいよ。足があればどんな車でも良いよ』
「すみません。ちなみにイベントは始まりましたか?」
『うん。始まった。1回目の運搬は成功。オルタは売買イベントを手伝って。足があれば大丈夫だから』
「了解です」
私は通話を切って、スポーツカーを諦めて、一般乗用車を狙う。
「車、どこだ!」
私はアバターを走らせて車を探す。
と、そこで画面が暗くなった。
もう夜の時間か? 空を見上げると空は赤かった。
まだ夕方のようだ。
暗くなったのはビルの影が私を覆ったからのようだ。
「ここ……5000番台じゃん」
いつのまにかエリア7000番台から5000番台へと走って移動してしまっていた。
「まあ、いいや」
エリア5000番台は高層ビルが建ち並ぶオフィス街。
そのオフィス街にタクシーを発見した。
メテオは車であればなんでも良いと言っていた。
(それならタクシーでもいっか)
私はタクシーの前に立ち、拳銃を突きつける。運転手が現れ、鍵が差し出される。
鍵を受け取って、運転手を遠ざける。
毎回思うんだが、いちいち鍵を受け取る必要あるのか?
どうせ運転するんだし、鍵をそのままにして、立ち去って欲しいな。
私はタクシーに乗り、鍵を差して、アクセルペダルを踏んだ。
「あれ? このタクシー……」
ターボとかスパイク、ガトリング、普通のタクシーにはないものが備わっている。
これって、アメージャが探している改造タクシー?
ここにきて当たりを引いた?




