第90話 グラフリ4日目『オルタ、家を買う』
「さて皆、今日は一昨日のイベントで麻薬王を救出したことにより、麻薬密売イベントが発生致します」
グラフリ4日目のミーティングでメテオが今日の予定を告げる。
ギャングチームの拠点である豪邸に集まったギャングメンバー達は予定を聞いて返事をする。
「このイベントは文字通り、麻薬の売買ですが、麻薬の密輸なども含まれているイベントです。もちろん、麻薬の密売なんて警察が黙っていないので妨害が発生します。そこで重要なのが車です」
「車?」
「そうだよ。オルタ」
「銃じゃないの? 戦うために」
「いいや、違うよ。麻薬の密売はこっそりと売り、警察が近付いたら速攻で逃げる。これが大事よ」
「そうなんだ」
「そこで今回は皆に車を買ってもらい、それ出来る限り改造してもらおうと思う」
「買うの?」
「昨日のギャング抗争で勝ったから、お金もたくさんあるでしょ?」
そういえば今日のログイン時に昨日のイベント成功報酬としてお金がたんまり入っていた。
「これからカタログを渡すから好きなのを買ってね。もし好みの車がなかったら、盗んで手に入れてね」
プレゼント欄に新車カタログが入る。
「そして車を買ったら改造だよ」
「改造?」
「ゆるる達が経営する修理屋に持っていくと改造してくれるよ。スピード、耐久、加速性能とか。他にもカラーチェンジとかあるから試してごらん」
◯
ミーティング後、私はリビングでソファに座り、新車カタログを読んでいた。
アバターが雑誌を開くのではなく、画面いっぱいに車種紹介のページが表示される。
「う〜ん」
私は車に対しての知識がないため、人気の車種とかそういうのはさっぱり。
「オルタ、どうしたの?」
悩んでいるとミカエルが声をかけてきた。
「えっと、私、車とかよく分からなくて、どの車がいいのかなって」
「なるほどね」
「小回りが効くし、安いから軽車がいいのかな?」
街中でのパトカーとのカーチェイスなら小回りが効く方が得策かと考えた。
「ダメダメ。軽車は遅いから。それに小さいイコール小回りとか安直だから」
「なら、このワゴン車とか? 人がいっぱい乗れそう」
「昨日の成果で1人1台は買えるんだから、人を乗せることを想定してはダメ。重要なのはパトカーから逃げ切れることよ」
「うーん? なら、どれが?」
「基本4WD。それと基礎ステータスが高いのを選ぶといいわ」
「基礎ステータス?」
「車の説明欄にスピード、硬度、加速力、耐久、機敏性、ダートが書いているでしょ?」
「ああ! あります!」
カタログから車の詳細を見ると性能が記載されていた。
ただ性能は数字ではなく、アルファベットで記載されている。
「ランクSが最高でそこからABC順」
「なるほど……硬度と耐久はどう違うんですか?」
「硬度は文字通り硬さ。RPGでいうところの防御力。耐久は車がどれだけダメージを受けても走行可能なのかということ。これはHPね」
「どっちがあるといいんですか?」
「ん〜、両方かな」
それなら硬度と耐久は同じくらいにしておこうかな。
「逃げを優先するならスピード。パトカーを引きつけるなら硬度と耐久。街の中で暴れ回るなら機敏性かな」
「それならスピード優先ですかね」
ポリスと戦うのは苦手だし、私は逃げタイプだな。
「修理屋で改造があるのを忘れてはダメよ」
「つまり全体的に高水準の車ができると?」
「できるよ。ただし、お金もかかるし、改造用アイテムも必要だから」
「改造用アイテム?」
「カジノや競艇、その他ミニゲームの商品で手に入るよ。ま、今日は車を買って修理屋でちょっと改造するくらいでいいんじゃない」
◯
ミカエルとの会話後、私はスピードの高い、赤の4WD車を購入した。
ステータスはスピードB、硬度D、加速力C、耐久D、機敏性D、ダートE。
購入すると『たいせつなもの』に赤の車が入っていた。
私は外に出て、車道に購入した赤の車を呼び出した。
少し試運転をしてみて、それから車を改造するため修理屋へ向かった。
「うわっ、人多い」
修理屋には車を購入したギャングのメンバーが大勢いた。
「オルタも改造にゃ?」
6期生の三太夫パコがやってきて、私に問う。
「うん。そうなんだけど……盛況ね」
「そうにゃ。大勢がきて大変だにゃ」
「それだと私の番まで時間がかかる?」
「それは大丈夫。順番とか関係ないから。申し込んでお金を払えばいいだけ。はい、申し込み用紙」
プレゼントボックスから申し込み用紙を選択。
「記入したら、車はこちらで預からせてもらうにゃ。で、改造終了時間になったら、『たいせつなもの』に送るから」
「そうなんだ」
取りに来る必要がないのは便利だ。
「ちなみにお金だけの改造だと30分程度だよ」
「短っ! 2時間はかかると思ってた」
取りに来る云々ではなく、待っていたらいいだけなのか。だからギャングの皆がたむろっているのか。
「それじゃあね」
私は申し込み用紙に自身の名前と車のナンバー、どこを改造する性能を選択。
「高いな」
できるだけ全てのステータスをランクC以上にしたかったが、お金が足りなかった。
ここはスピードをAに、硬度と耐久をCに上げよう。それとダートも低いからDに上げよう。
そして最後に申請を選択。
すると車が消えて、代わりに改造終了時間のタイムカウントが左上に表示された。
パコが言っていたように30分だった。
その間、私はリリィ達が経営するハンバーガー店で時間を費やすことにした。
修理屋の近くにハンバーガー店があり、中に入るとNPCが接客していた。
「あれれ? リリィ達、いないのかな?」
私はスマホでゲーム内SNS『ささやき』を起動。『ささやき』ではトリックスター達がゲーム内の活動を不定期的に投稿している。
特にハンバーガー店を経営しているリリィ達は宣伝のためかよく投稿している。
ただし、そのほとんどが「◯◯なう」という内容。なうとはnowのことで、一昔に流行った投稿。普段であるならどうでもいい投稿なのだが、今は居場所を知るために必要な情報だった。
『爆速のスポーツカーが欲しいなう』
『タクシー欲しいなう』
リリィとアメージャが車が欲しい旨の内容を投稿していた。
「そういえば、今回のイベントに2人も参加するんだっけ。しかし、タクシーとは」
「どうしたの?」
「あっ、サラサ。いや、それがさ、リリィ達が車を探しているらしいんだけど、アメージャがタクシーを探しているんだよ」
「おー! ガチじゃん」
「ガチ? ん? タクシーだよ?」
タクシーって、客を乗せる車。
安全運転がモットーのはず。
「オルタ、知らないの? ゲーム内だと一部のタクシーはめちゃくちょ違法改造されているんだよ」
「改造?」
「そう。ターボエンジンとかジェット機能搭載だよ」
「すごい」
「しかもまだこれで改良の余地ありだからね」




