第86話 グラフリ3日目『カジノ』
ブラックジャックは2〜10はそのままで、エースが1か11、ジャック、クイーン、キングは10として扱い、数字の合計が相手のディーラーより、21に近ければ勝ちと教わっていたのだが──。
「あれ? なんで負けたの? ディーラーも21だから? でも、それってドローじゃないの?」
4と7とキングで21。
ディーラーはエースとクイーンで21。
同数だった場合はドローだったはず。
「なんで負けになるの?」
「どうしたのオルタ?」
振り向くと赤いエプロンを着用した白髪の店員がいた。
頭上のネームにリリィと表示されている。
「あっ、リリィ。実はね──」
私は先程のブラックジャックの負けについて話した。
「それは相手がナチュラルブラックジャックだからだよ」
「ナチュラル? 何それ?」
「2枚でブラックジャックの場合はナチュラルブラックジャックと言って、3枚以上のブラックジャックより強い手なの。だからオルタが3枚でブラックジャックだったとしてもナチュラルブラックジャックを出したディーラーの勝ちなんだよ」
「ほー。そうなんだ」
「オルタはギャンブル初心者?」
「そうですよ。ブラックジャックもこのゲームで覚えました」
ブラックジャックという名前は知ってたけど、やったことはこれまでの人生で一度もなかった。
リリィさんは私の左隣に座る。
「私はこのゲームではないけど、他のゲームでブラックジャック知ったなー。ポーカーは前から知っていたんだけどね」
「ポーカー?」
「あれ? それも知らない? ワンペアとかフルハウスとかロイヤルストレートフラッシュとか」
フルハウス……満員の家?
ロイヤルストレートフラッシュ……ミルクティーなら知ってるんだけど……違うよね。
「んー、ないですねー」
「まじかー。なら、この後でポーカーやろ。向こうのテーブルでやってるよ」
「いいですね。でも、お仕事は?」
リリィはトリックスター役でアメージャと共にハンバーガー店を経営しているはず。
「今日の分のバーガー作り終えたからね。店番を交替制にして、今はアメージャに任せているよ」
リアルならバーガーは出来立てを提供するのだが、ゲーム内では出来立てとかそういうのは関係ない。
作ればあとは売るだけ。
「ハンバーガー店は面白いですか?」
カードが2枚か配られる。
3と7。
そしてリリィにもカードが配られる。
「そうだねー。基本接客……プレイヤーと喋ったりするのがメインだから面白いね」
リアルだとありえないことだな。
私はヒットを選択してもう1枚カードを貰う。
リリィはスタンドした。
スタンドはカードはもういらないという意味。
私にだけカードが1枚配られる。
ハートのK。
合計で20。
私はスタンドした。
そして私、リリィ、ディーラーのカードが捲られる。
リリィはダイヤのJとクローバーのQで20。
そしてディーラーはスペードのAとハートのJでナチュラルブラックジャック。
「連続!」
「あっちゃあ、負けたー」
私達はチップを奪われた。
「ハンバーガー店って、作るのはバーガーだけなんですか?」
私はテーブルにチップを置く。
「バーガー以外にもアップルパイやフィッシュアンドポテトも作るよ。それと新作もね」
なぜか新作の時だけ怪しい感じで言う。
「新作? どんなのです?」
カードが2枚配られる。
双方、クローバーで数字は4と9。
「新作が出来たらスマホに通知するから、その時は来てよ」
「……分かりました。楽しみに待ってます」
「ん? 今、悩んだ?」
「違います。カードが微妙だったもので」
私は慌てて否定して、ヒットを選択。
リリィもヒットして、私とリリィにカードが2枚配られる。
ハートの8。
「うぉっ!」
バーストした。
バーストは合計が22以上を指す。この場合は無条件で負けである。
最初は21に近いから勝ちだと勘違いしていた。
まさか合計値が21を超えてはいけないとは。
「これはバーストかな? さて、私は……ああっ!」
リリィも私と同じように落ち込んだ声を出す。
カードがオープンされる。
私とリリィもバースト。ディーラーだけがまたナチュラルブラックジャック。
「また!? 3連続だよ!」
「これはやってるねー。イカサマしてるわー」
◯
ブラックジャックの後、私はリリィに誘われてポーカーで遊んだ。
役も少ないので、すんなりと理解できた。
けれど、運が悪いのかほとんどがワンペアばかり。
「リリィ、強すぎる」
「いやいや、オルタが分かりやす過ぎるんだよ」
このゲームは相手に自分がどんな役を持っているか、悟られないようにするのが大事。逆に相手がどのような役を持っているかと考えるのも大事。
けれど相手の顔が見えない以上、反応が分かり辛い。
「顔を出してないのに?」
「声で分かるよ」
「むう!」
その後も何回もやったがなかなか勝てずにいた。
「オルタはギャング役を楽しめている?」
ふとそんなことを聞かれた。
「えっ? はい。楽しめてますよ」
クソッ、ワンペアか。
ペア以外は捨てて、3枚貰う。
「まあ、FPSは苦手ですけどね」
「ん? TPSでしょ?」
「次のイベントがFPSなんですよ」
「ああ! VRの!」
新たにカードが3枚配られて、その結果、スリーカードになった。
「そうなんですよ。画面が視界と同じで難しいんですよね。物も大きいし。TPSの場合は俯瞰みたいな感じ、前方の奥まで見える感じですからね」
TPSは自身のアバターが見え、斜め上からの俯瞰で見るため、アバター前に障害物があってもその後ろが見える。もちろん完全見えるわけではなく死角は存在するが、FPSだと障害物があればその後ろは絶対に見えない。さらに大きさも違う。TPSは自身も含めて見えるため、全体的に映るもの全部が小さい。対してFPSは自分目線のため、画面に映るもの全部が大きい。
例えばTPSなら味方が隣にいるとその全身が余裕で映るが、FPSなら顔が画面全体に映る。
「FPSはTPSに慣れてると難しいよね」
1枚もチェンジしなかったリリィが勝負に出た。
「いいんですか?」
「まあ、大丈夫でしょ」
そして私達のカードがオープンされる。
私、2のスリカード。
リリィ、8とJのフルハウス。
「マジかー」
またしても負けた。
今回は運が悪かった。
だって、リリィは1枚もチェンジしていないのだ。それは初手でフルハウスが出来ていたということ。
「でも、FPSは慣れといたほうがいいかもね」
「どうしてです?」
「FPS系の人気ゲームって多いからさ」
「どんなのがあるんですか?」
と、そこでスマホの電子音が鳴る。
それは私のではない。
「ごめん。アメージャからメッセージだ。『時間だよ』だって。交替の時間か。もっと遊びたかったけど残念」
「また遊ぼうね」
「そうだね。まだ3日目だもんね」
「あと5日もありますからね。長いコラボですね」
「そうだねー。ゆっくり楽しもう」
そう言って、リリィはポーカーテーブルから去って行った。
残された私はポーカーを止めて、スロット台へと移動した。




