第83話 グラフリ2日目『麻薬王救出作戦』
麻薬王の護送ルートはすでに把握済み。
メテオはポイント5117前の車道で仕掛けるつもりである。
作戦内容はこうだ。
『まずマイとカフスが護送車前後をロケランでぶっ放す。その後すぐに攻撃役が煙幕を周囲に張り、護送車周囲のパトカーを攻撃。護送車にも何人かポリスが乗り込んでいると思うから注意するように』
私達攻撃役は5117前の道路にある街路樹や高層ビルの企業名が記載されているタワーサインの陰に隠れている。
5000番台のエリアは高層ビルが建ち並ぶオフィス街。
歩くNPCは高いスーツを着た者や、キャリーウーマン然とした凛々しい人が多く、車も役員を乗せた黒塗りの車も見受けられた。
まさに経済を象徴するかのような街だ。
その街で今からドンパチが行われようとしているのだから驚きだ。
『きたよ! 前後にパトカーそれぞれ1台。準備はいい? それとだけど、たぶん護送車の中に警察がいるよ』
メテオが無線機でギャングメンバー全員に伝える。
そして目視でパトカーと護送車が確認できるくらい近づいてきた。
『マイ、カフス、撃て!』
その言葉のすぐ後で大きな爆発音があった。
パトカーが炎上し、後ろの護送車は止まった。
『攻撃役煙幕! そして護送車のタイヤを狙って!』
私達はメテオの命令通りに煙幕を張って、護送車のタイヤをライフル弾で狙う。
護送車が動けなくなったところでミカエルとヤクモが侵入。
少ししてヤクモが金髪の無精髭の連れ出した。ミカエルはライフルを発砲してゆっくりと後退。
「サラサとヤクモは麻薬王をメテオのもとに」
「ラジャー」
サラサとヤクモは麻薬王を連れて、この場を離れようとする。
「これって成功ですか?」
私はミカエルに聞いた。
なんか意外と呆気ない気がする。
「うーん? それにしては──」
そこで発砲音、そして悲鳴が聞こえた。
「この声はヤクモ!?」
「どうしたの?」
ミカエルはヤクモの方に向かう。
私達も向かおうとしたところで、別の方角から発砲された。
私達は急いで護送車を背に隠れる。
そしてゆっくりとヤクモの方へと向かう。ヤクモはそれほど移動していなく、護送車の後方にいた。
どうやら煙幕の向こうから発砲を受けて、今は身を隠しているようだ。
「先行したサラサがやられた」
煙幕の向こうにポリスがいる。
前と後ろ。
もしかしてこれ挟まれてない?
「でも、パトカーは2台ともロケランで潰したはずですよね?」
「もしかしたら乗っていなかったのかも」
「ミカエル、どういうこと?」
「護送車もみはり達がいると踏んでいたんだけど、NPCだけだった」
『聞こえる。こちらメテオ、罠だった。麻薬王は?』
「こちらヤクモ、麻薬王を連れ出したけど敵の攻撃を受けている」
『なんとか振り切って、ポイント5121に連れて来れる?』
「やるだけやってみます」
『私もそちらに向かうから』
そして無線機の通信は切れた。
「と、いうことだから皆、一気に突入するから」
ヤクモが皆に告げる。
「分かったわ。なら、殿は任せて」
と、ミカエルが言う。
「皆はヤクモと一緒に向かって」
「いいの?」
私はミカエルに問う。
1人で対応は難しい気がする。
「大丈夫。それに1番大事なのは麻薬王だから」
「マイ、カフス、聞こえる? さっきと同じようにロケラン撃って!」
『ごめん、今は無理! 敵に狙われてる』
『こちらカフス、敵に襲撃受けててロケラン使えない』
通話の向こうから銃撃音が聞こえた。
「これは無理そうね。私達だけでやらないと。さ、ヤクモ、早く行って!」
「分かった」
私達はミカエルを残してポイント5121に向かう。ここからそう遠くもないし、メテオも向かっていると言う。なら、早く出会える可能性も高いはず。
護送車から離れた時、護送車が爆発した。
「ミカエル!」
「オルタ、ダメだよ」
乱菊が私を止める。
「……そうだね」
ここで止まってはいけない。
前に進まないと。
それが今、私達に出来ること。
私達は手榴弾を煙幕に向けて投げる。
そして走りながらライフルで前方を乱射。
煙幕の向こうからも銃弾や手榴弾による攻撃を受ける。
「麻薬王を囲んで! 私達が盾になるでこざるよ!」
卍が指示を出して、私達は麻薬王を囲みつつ煙幕の中に進む。
煙で視界が遮られて、いっさい何も見えない。
分かるのは銃声のみ。
私達はプロテクターを着用しているけど、絶対ではない。銃弾を受けるとダメージは少しだが発生はするし、プロテクターが壊れると生身だ。
煙幕を越えるとパトカーを盾にライフルで発砲するポリス達が見えた。
みはり、詩子、さち美の3人。
「いた! あそこに3人! 皆、発砲でござるよ! ヤクモは先に行って!」
私達は盾になりつつ、ライフルでポリス達を攻撃する。
だが、さらに前方向からポリスのユーリとヒスイが駆けつけてきて、私達は攻撃を受ける。
敵の攻撃を察して、乱菊が自分の身を盾にして麻薬王を守る。
その結果、乱菊は蜂の巣になり、プロテクターは全て砕けて落ち、絶命。
「乱菊!」
今度は私が麻薬王の盾になろうとポリス達の前に立ち塞がるが、そこで車が2台突っ込んできた。
「ぎゃあぁ!」、「ちょっと!」
車に跳ねられたユーリとヒスイが悲鳴を上げる。
「麻薬王を車に乗せて!」
メテオがヤクモに命じる。
ヤクモは麻薬王を乗せると車は一度バックしてからUターンしてこの場を離れる。
「させないよ!」
みはり達がメテオの車に向けて発砲。
けれど、それをネネカが乗る車がみはり達に体当たりして邪魔をする。
「やらせないよ!」
だが、みはり達は回避して、ネネカの車に向けて発砲するが特殊コーティングされた車はそんなことではビクともしない。
ネネカはみはり達を車は轢き殺そうと暴れ回る。
「どうした? 逃げてばっかなの? つまらないわよ!」
ネネカが煽りながら車を暴れさせる。
「それならこれでも食らいなさい!」
みはりが白い箱を投げ捨てる。
「爆弾如きで──」
ドッカーーーン!
ネネカの言葉は大きな爆発音で掻き消された。
「ぎゃあぁぁぁ!」
ネネカの車は上から殴られたかのように曲がり、爆炎が車を包む。
そして爆風が周囲を吹き飛ばす。
爆炎が煙を伴って天へと昇る。
車はカラカラ、パラパラ鳴りながら、炎に包まれつつ、外装をなくして真っ黒になる。
みはりが投げたのは手榴弾ではないだろう。手榴弾は爆風によって、外装の突起が高速で飛び散って相手にダメージを与えるもの。
今の正真正銘の爆弾。
「まさかC4?」
「ヤクモ、知ってるの?」
「プラスチック爆弾のこと。まさかそんなものまで用意してるなんて」
「どうする?」
今、生き残っているのは私とヤクモ、卍の3人のみ。
麻薬王はメテオが連れて行った。
ここはもう潔く降参するべきかな?
『諦めるのは早いよ。こんな時のために私達が残っているんだからー』
「その声はリリィ」
ブーンという音と共にリリィの声が聞こえた。
音は上空から。
顔を振り上げると、そこには──虫? いや、大きい、カラスでもない、あれはドローンだ!?
大量ドローンがこちらに向かってくる。
正確にはポリス達に──。
「まだいるの!?」
みはり達はドローンを打ち落としていく。
1つがユーリに当たると爆発した。
「特攻かよ! 皆、撃ち漏らしてはいけないよ!」
みはり達は撃ち漏らさないようにドローンを落としていく。
『今のうちに逃げるよ』
「え? 倒さないの?」
『ここでみはりを倒しても増援がこっちに向かってる』
「分かった。皆、逃げよう」
◯
みはり達ポリスチームの作戦はこうだった。
私達ギャングが麻薬王を助けに来ることは分かっていたから、あえて護送車前後のパトカーにはNPCのみで、こちらがロケランでパトカーを攻撃したら、ロケラン部隊を特定して、まずは無力化に。その後で、護送車を挟むようにしてライフルで乱射。
みはり達にとって麻薬王の命はどうでもよかったのだ。もちろん、麻薬王を生きたまま護送に成功すると報償が得られるが、それよりも麻薬王ともども私達を殲滅することに力を入れたのだ。
それにまんまとハマった私達は一気に窮地に追いやられてしまったのだ。
ロケラン担当のマイ、カフスは殺られ、私達護送車突撃担当はミカエル、サラサ、乱菊を失い、救出後のメテオの盾としてのネネカが犠牲となった。
私達3名はポイント5202のビルに避難し、リリィと合流。
「なぜもっと早くに助けてに来なかったのでごさるか?」
「おいおい、こっちだって大変だったんだぞ。ミカエルがいた方角から追跡がなかったのはなぜか分かる? 私とアメージャが敵を撹乱してたからなんだよ」
そういえばミカエルが殺られたあと、その方角からは誰も来なかった。
「アメージャもそれで犠牲になったんだよ」
「そうでござったか。それはすまぬ」
「はい。ここで辛気臭いのはなしにして、こらからどうするか考えましょう」
ヤクモが2人の間に割って入る。
「そうだね。どうしようか? メテオが麻薬王を車に乗せて走って行ったから終わりだね」
「ポリスが追跡している可能性はないでごさるか?」
「ドローンでパトカーも潰したから無いと思うけど」
私達は逃げるのでいっぱいいっぱいだったのでポリス側の行動を知らない。
「私達の方に来るって可能性は?」
私はその可能性について尋ねてみた。
「ないでしょうね。メリットありませんし」
と、ヤクモが答える。
「いやいや、ここは逆恨みしてやって来るかもしれないでごさるよ」
「逆恨み? あるかなー?」
たぶんないんじゃないかなというふうな声を出すリリィ。
私もさすがに逆恨みはないだろうと考えていたら、爆発音が聞こえた。
(誰かがドアを爆発でこじ開けた?)
皆が緊張し、ライフルを構えてドアに銃口を向ける。
そして──。
「おらー! 積年の恨みじゃあ!」
みはり達ポリスが襲撃してきた。
まさか本当にやって来るとは!
「だから積年の恨みって何ー?」
私達はライフルのトリガーを引く。
◯
みはり達ポリスは絶命した仲間を蘇生させ、武器を整えて私達を襲撃した。
対してこちらは4名。プロテクターはほぼ破損でないに等しい。武器はライフルと手榴弾。
勝てるわけなく、私達は全員捕まった。
「試合に負けたが、勝負には勝った」
牢屋にぶち込まれた私達を見て、みはりはほくそ笑む。
ここにはメテオを除くギャングメンバー全員とトリックスターのリリィ、アメージャしかいない。
つまりメテオが麻薬王を連れて逃げ切ったということ。
「ドローって言いたいわけ?」
ミカエルが尋ねる。
「ま、そういうことね」
私達からするとメテオが麻薬王を連れて逃げ切れさえすれば、あとはどうでもよいのだが、まあ、ここは黙っておこう。
「それでこれからどうなるんですか?」
私は聞いた。
「もちろん、あんた達は大罪人よ。ここにいる全員刑務所行き。臭い飯でも食べておきなさい」
(臭い飯って何?)
「ま、もうイベントは終わりだし、あとはのんびりだからね」
別に刑務所にぶち込まれても痛いくはない風にユーリは答える。
「そうでござるな」
「あ、でも私はちょっと困るかも」
「オルタは何か予定があったでごさるか?」
「深夜2時にボートレース場でG1があるのよ」
「こんなのときでも賭け事の心配?」
ネネカが呆れたように言う。
「違います。私は夢を追いかけているんです」
「……それギャンブル中毒者のいいわけよ」




