第74話 グラフリ講習③
銀行強盗の実習のあと、私達は住宅街に来ている。
「次は車の窃盗の実習です」
「最初にやりましたよね?」
車道に入って、対向車の車に銃を突きつけて、車を盗む。役職関係なく全プレイヤーが身につける基本スキル。
「オルタさんがおっしゃっているのは強盗の方です。今回は窃盗です」
どう違うんだろうか?
窃盗だから人が乗っていない車を盗むんだろうか?
「こちらを見てください」
スタッフが操作するキャラが一軒家の車に近づく。
「この車に乗れますか?」
「いえ、鍵がかかっているから無理ですね」
私は車を開けようとするも鍵がかかっているため盗めない。窓を割って中に入っても鍵がないから運転もできないだろう。
「そうです。これだと鍵がかかっているため、盗むことはできません。そこで使うのがアイテムのキー・ブースターです」
「キー・ブースター」
アイテム欄を見るとキー・ブースターというものがある。
画面から使うを選択すると、アンテナの付いた黒い箱が現れた。
「これはリレーアタックをするための機械です」
「リレーアタック? なんですかそれ?」
スタッフはキー・ブースターを使用すると13桁の番号の一覧が表示される。
「ではまず1番上の数字を使いましょう」
スタッフは1番上の13桁の番号を選択して増幅ボタンを押す。
すると電子音が鳴った。
「おっ! 1発目でいけましたね。さ、家主が現れる前に乗りますよ」
スタッフが運転席に乗り、私は助手席に乗る。
そしてスタッフは車を発進させる。
「どういうことですか?」
「車の鍵というものは、実は微弱な電波を発しているんです。それをキー・ブースターが読み取って、その電波を増幅させて狙いの車のロックを解除するんです。これがリレーアタックというスキンです。ちなみにこれは現実にも使われる窃盗技術です」
「先程のたくさんの番号がありましたが」
キー・ブースターにはいくつもの13桁の番号があった。
「それは他の車のキー番号ですね」
なるほど住宅街だから他の家からのキー情報が入ったということか。
「で、今はどちらに向かっているんですか?」
スタッフは車を発進させた後、近くで停車することなく、走り続けている。
「ジャンク屋です」
「売るんですか?」
「はい。新品車の場合はナンバープレートやキーを交換されて売られ、それ以外はパーツ別けされて売られます」
そしてジャンク屋に着いて、スタッフは店員に車を売った。
新品のため、かなりの値がついた。
「この窃盗はいつでもできるわけではないのです」
「どうしてです。キー・ブースターがあればいつでも可能なのでは?」
「いいえ。このキー・ブースターは使用期間が決められているのです」
「イベントですか?」
「はい。車の窃盗イベントがあります。その日のみキー・ブースターが配布されます」
◯
「では、車の販売店に向かいます」
「どうしてです?」
「もちろん、盗むためです」
そしてたくさんの新車が並ぶ、販売店に私達は向かった。
「さっきと同じキー・ブースターを使うんですか?」
「ええ。でも、一つ問題があります」
「なんですか?」
「販売店もリレーアタックのことはご存知です。そのためアルミ箱に鍵を入れて電波が漏れないようにしてます」
「それだと盗めないのでは?」
「普通なら」
スタッフは販売店近くで交通量の調査をしているNPCに近づく。
現金を払うとデータを貰った。
「そのデータって、もしや?」
「はい。キー番号です。彼らはここで交通量の調査をしているフリをしながら、微弱な電波盗み取っているのです」
「でも、さっきアルミの箱に鍵を入れているって……」
「しかし、ずっとアルミ箱入れているわけではありません。例えば試乗の際に鍵はアルミ箱から出ます」
「なるほど」
「このNPCはギャング側がネットを使って、募集した者です」
「ネット犯罪」
「あとでネット犯罪の方法についてご説明します」
どんどん悪い知識が身につきそうなんだが。このゲーム、本当に犯罪の啓発とかになるの?
「もうそろそろ夜になりますので、店員がいなくなるまで待ちましょう」
現在は夕方の18時。
グラフリ内では15分で1時間進む。あと少しで夜となる。
「ここまで何か聞きたいことはありますか?」
「えっ!? んー、そうですねー」
ここまでで気になることかー。
「うーん。車の窃盗の時、持ち主が現れて、殺しても問題はないのですか?」
「ありません。ただ、指名手配されます」
「指名手配?」
確か顔写真と懸賞金がかけられたやつだっけ。海賊が出てくる漫画とかでよく見るやつ。懸賞金が高ければ高いほど極悪人だっけ。
「コンビニ強盗や銀行強盗をすると徐々に懸賞金が上がってきて、ミリオンで指名手配されます」
「ミリオンということは100万ドル?」
日本円にして……今は円安で160円くらいだから……1億6000万円か。
「100万ドル未満なら懸賞金があっても指名手配はされません」
「あくまで100万ドルから狙われるということですね」
「はい。指名手配されるとポリスやトリックスターに狙われます。懸賞の額は自分のプロフィール欄で確認できますので、常に注意をしておいてください」
「常にですか? 100万ドルなんて相当な額ですよね。強盗や窃盗でたくさんお金を手入れても100万ドルなんてそうそういきますか?」
「1万ドルを犯罪で手に入れたら、懸賞金も1万ドルに上がるわけではありません」
「そうなんですか? それはどうしてですか?」
「悪得防止のためです」
「悪徳商法の悪徳ですか?」
「いえ、悪が得をするという意味の悪得です」
「それでその悪得防止のためと仰りましたが、どのような意味なんですか?」
「ギャング100万ドル稼いで、懸賞金が同額で発生したら、どちらが得をしますか? ちなみにギャングが捕まっても、ギャング自身が懸賞金を払うわけではありませんし、お金が没収されることありません。保釈金は発生しますけどね」
捕まえたら多額の懸賞金が得られるのがポリスとトリックスター。捕まるけどお金は没収されないギャング。
やはり捕まえるだけでお金が得られるから──。
「ポリスとトリックスターですか?」
「いいえ。ギャングです」
「どうしてです? 捕まるというリスクはギャングにありますよね?」
「はい。けれど捕まらなければ問題はありませんし、捕まったところでお金は没収されません。ポリスとトリックスターはどちらかが先に捕まえねばとという状態になります」
つまりポリスとトリックスターは捕まえない限り、お金が入らないということか。ギャングは犯罪を行うだけでお金が着実に手に入る。
「例えるなら、ギャングAが100万ドル手に入れたため指名手配されます。それをポリスAが捕まえて懸賞金がポリスAに。その後、ギャングAがまた100万ドル手に入れて指名手配。次はトリックスターが捕まえて懸賞金がトリックスターに。こうなるとギャングAは犯罪で手に入れた200万ドル、ポリスAとトリックスターAはそれぞれ100万ドルの懸賞金」
「なるほど犯罪している方が得をすると」
「ですので、懸賞金として跳ね上がる金額はギャングが犯罪で稼いだ金額より高いのです」
「どれくらい違うのですか?」
「窃盗や強盗系なら2倍。殺人は1万ドル」
「殺人でも……100人殺したら簡単に指名手配されちゃいますね」
「話していたらもう深夜ですね」
ゲーム内時刻は深夜1時だった。話していたらもうこんな時間。
「では、盗みにいきましょう」
私達は販売店に侵入して、車を物色する。




