第62話 ボルケーノコース
ボルケーノコースは12位からのスタートとなり、私は焦る気持ちを抑えつつレースに臨んだ。
『このボルケーノコースは新たなギミックとして炎のモンスターや地割れでコースが細くなるというものがあります』
日本人のソフト開発者が説明をする。
確かに火山口の付近で炎のモンスターがコース内を跳ねている。
炎のモンスターはゆっくりと一定の規則を持って跳ねているので、私はタイミングよく避けたり、飛び跳ねている間に下を潜ったりして避ける。
他のプレイヤーも熟練者のため多少の妨害でも今までの経験を駆使して、難なく回避している。
その後も私は大きなミスをせず、的確にカーブを曲がり、そしてきちんとアイテムを取る。
あとは他プレイヤーの妨害やコース内のギミックに気をつけて、アイテムを上手く駆使しつつ走る──が、このエキシビジョンマッチに参加するプレイヤーは全員熟練者。
なかなか順位を上げることが出来ないでいる。
さらに他のプレイヤーも私を警戒してか、ブロックやアイテムでの妨害が多いのも順位を上げれない要因でもある。
そういう時にアメリカ人の女性MCが何か喋っている。今の私を実況しているのだろうか。ただ、今の私にはそれを見る余裕すらないので画面の日本語訳に目を通すことは出来ない。
それだけ真剣に臨まないと順位を下げてしまう。
やはりここはループ橋でイニシャルカーブで抜かないと駄目なのかもしれない。
現在10位。
ボルケーノコースも終盤。
ループ橋に近づいた。
ここでもまたアメリカ人MCが声を上げる。
オルタという単語が聞こえたので、私のことを何か言ってるのだろう。
チート疑惑が流れているため、あまりやりたくはないのだけど、そんなことは言ってられない。いや、わざわざ量子通信実用研究所まで来たんだからやらないと。イニシャルカーブをやって、私がチートなしの実力でやってることを証明してもらわないと。
私はタイミングを計って、左前輪をループ橋の内側にある側溝に引っ掛けて、イニシャルカーブを始める。
アメリカ人女性MCがイニシャルカーブと発したのを聞いた。そして会場でのどよめきも聞こえた。
このまま一気に──と考えていたら、カーブ内側に1人のプレイヤーのカートが!
ループ橋の内側走行は基本遠心力で無理である。そのため内側にいるということはスピードを殺して走っているのだろう。徐行運転以下のスピードのはず。
ならば、その行為はどうみても私への妨害と見ていいだろう。
イニシャルカーブをさせないために。
私はイニシャルカーブを辞めて、外側へとまわる。
するとプレイヤーは追尾ロケットで私を狙ってきた。
「そんなので私は止められない!」
私は内側へとカートを向け、そして虫の音が聞こえた時──。
「ここだ!」
私はドリフトのミニターボを解放して追尾ロケットを回避。
目標を失った追尾ロケットは外側のガードレールにぶつかって爆破。
『Amazing!』
MCが驚く。
「だが、これで終わりじゃないよ」
内側へとミニターボで前進した私は再度左前輪を側溝へと引っ掛けて、イニシャルカーブを始める。
『Oh! Fantastic!』
そして一気にごぼう抜きで順位は1位に。
『No.1? Oh wow! Son of a bitch! What an amazing driving technic! No one can stop ALT!』
MCは興奮したように捲し立てる。
さらに遠く離れたイベント会場からの拍手や口笛が聞こえてきた。どうやら会場も興奮に沸いているらしい。
ループ橋の後はストレートのみで、このまま突っ切るだけ。後続からのアイテム攻撃はなく、私は1位でゴールした。
「やったー! 1位だ! しゃあぁぁぁ!」
◯
ボルケーノコースを1位でゴールした後、カートはオート運転になり、移動ルートのスタート地点へと向かっていく。
次はアイスキャンディーコースのあるフィールド。
そのため移動ルートは氷の世界。
先の火山ルートは妨害ギミックだけを注意すれば良かったが、今回は路面が氷のため滑りやすく、操作や判断ミスが命取りになる。
「初見だとアイスフィールドは難しいんだよね」
経験済みならギミックやカーブに対応できるが、初見だとその場その場で対応しないといけない。
しかも正しいと思っていたら対応が間違っているということもある。
「そこにそれはズルい」
邪魔なペンギンを避けて、カーブを曲がったら氷塊があった。ぶつかってしまい凍ってしまった。
『おっと! ここで後続グループによりギミックスイッチが押された!』
アメリカ人の女性MCが告げる。
「嘘! まだ押してなかったの? これからさらに増えるってこと?」
そしてギミックが増えてしまった。
ペンギンだけでなくアザラシもコース上に現れ邪魔をする。さらに暴風や地割れが発生し、コースの一部が陥没。トンネルではちょっとした振動で氷柱が落ちてくる。
「も〜、無理ぃ〜」
もはや順位を気にする暇もなし。時間内に第3コースに間に合うことだけを気にしないといけない。




