第60話 ハリオカートドリームツアー
WGEは声優やVTuberのライブ、ゲーム大会、各メーカーの新作ゲームの体験コーナーがあり、今は映像でハリカーの新作紹介がなされている。
VTuberのライブでは、色々な箱からVTuberが代表で2、3名ほど出演していて、ペイベックスからはEN勢のローズ・アントワーズとヴェラ・ガトリングスが出場していた。
そして今、私が見ているイベント映像では新型据え置きハードスロッチ2と同時発売のハリオカートドリームツアーが紹介されていた。
ハリオカートドリームツアーでのスロッチ版との違いは使用キャラ、アイテム、最大対戦プレイヤー数の増加。そしてなにより大きな変化はツアーシステムと呼ばれるものだ。
今まではカップを選んでコースを走るか、自由選択でコースを選ぶかの2つだったが、今回は各フィールド内から選ばれたコースを走り、最終フィールドを目指すというツアーシステムが導入された。
アイスフィールドなら路面がアイス上のコースが選ばれる。
ファイアフィールドならマグマや火の海がコース外にあるコースを。
キャピタルフィールドなら都市部を走るコースが。
ランダムに選ばれたフィールドを走り、ゴールしたら次の指定されたフィールドまで移動で制限時間が設けられている。
つまりゴールしたらそれで終わりではなく、次のフィールドまでの移動も戦いとなっている。
そして最終フィールドのコースが終わると各フィールド内のコースで得た成績ポイントで順位が決まる。
『要は初めのフィールドで1位を取っても、制限時間内に次のフィールドに辿り着けないと失格になるんですね』
若い女性イベントMCがハリオカートドリームツアー開発責任者に確認する。
『はい。移動もまた勝負の場でもあり、移動中にもアイテムボックスがあり、ギミック起動のスイッチもあるのです』
ハリカー開発責任者は50代の日本人男性のため、字幕なしで内容が頭に入る。
現地では開発責任者の言葉を通訳者が英語に訳している。
『ギミックのスイッチとは?』
『文字通り、ギミックが起動することです。移動中のコース内にあるスイッチを起動させることでギミックが発動し、近道や妨害が発生するのです。これを巧みに利用することによって状況を一気に有利にさせることが出来ます』
ステージのスクリーンにギミックが発動して、抜け道やジャンプ台が生まれ、プレイヤーが近道をしている映像が流れる。
そして別のプレイヤーには土石流や電流などの妨害ギミックが発動して、プレイヤーをクラッシュさせている。
『あのー。それだと先頭を走っているプレイヤーだけが有利になりませんか?』
『いえ。このギミックのスイッチは後続だけが押せるようになっています』
『なるほどギミックで先頭組を妨害しつつ、自分達は近道ですか』
映像にコース内にあるギミックの丸型スイッチボタンが映し出される。先頭組の時はプレイヤーが踏んでも何も起こらないが、後続組が近づくとスイッチが膨らみ、プレイヤーが踏むと凹んでギミックが発動した。
『さらに移動中にも順位があり、ポイントこそ付きませんが、移動時の順位がレース開始の並びとなっています』
『これは発売が楽しみですね』
『スロッチ2と同時発売となっております。パッケージ版とダウンロード版の2つありますのでお好みの方をお選びください』
映像にソフトのロゴと発売日が表示される。
観客が拍手喝采で新作ソフトの紹介は終わった。
(ふぅ。この後か)
しかし、開発責任者はハケずにステージ立ったままだ。
(ん? まだ新作の発表があるの?)
『では、これよりハリカー・エキシビションマッチを開始したいと思います』
MCの発言に観客は雄叫びを上げる。
『実は皆さん、今回のハリカー・エキシビションマッチの舞台は──』
ここでMCが言葉を止め、開発責任者と息を合わす。
『『ハリオカートドリームツアー』』
2人が声を揃えて発表すると観客は驚きと雄叫びの両方を発する。
「え、ええ?」
私は遠く離れた日本でWGEのイベント映像を見て驚いた。
(ハリオカートドリームツアーということはスロッチ2なの?)
私はテーブル上の据え置きハードを見る。
そこにはスロッチ2と記載されていた。
スロッチとスロッチ2は形や色が似ているため、私はずっとスロッチが配置されていると誤認していた。
「スロッチ2だったの?」
忍び笑いが聞こえたので、声の方を見ると深山さんが口に手を当てて笑っていた。
「……知ってたんですか?」
「すまないね。平等にしないといけないからね」
「平等?」
イベントではハリカー・エキシビションマッチに参加する選手が集められ、全員がハリオカートドリームツアーを使用することに驚きを隠せていなかった。
(だから平等か)
私だけ事前に知らされていたら、不公平である。もちろん、知っているからといって何か対策が立てられるわけではないが、それでも同じタイミングで知らされなければいけなかったのだろう。
『それでは参加選手をご紹介させていただきます』
MCが左端から選手を紹介していく。
計12名。
そしてステージ上の選手をMCが紹介し終えると、
『では、最後に特別ゲストを紹介します。どうぞ!』
するとステージスクリーンに赤羽メメ・オルタが映った。
「ど、どうもー。赤羽メメ・オルタでーす」
マイクに顔を近づけて、ぎこちなく私は挨拶した。
会場からは拍手と小さくブーイングのような音も聞こえる。
『急な参加となりましたが、今のお気持ちはどうでしょうか?』
日本語の字幕が出ているのだけど、わざわざ通訳が日本語に通訳してくれた。断るのも億劫なので私は通訳後に、
「えー、急に参加が決まった時は驚きました。二週間くらい前でしたからね。それとその後のニンジャコースも発表されてびっくりです」
『ニンジャコースは問題のあったコースですからね。オルタさんはニンジャコースは得意ですか?』
「実は私、WeeV版のハリカーをやったことないためニンジャコースはこの前まで未体験だったんです。それで今回、ニンジャコースが選ばれて練習しました」
『おー! それは楽しみですね。そういえばオルタさんはボルケーノも得意らしいですね』
「……まあ、はい」
『イニシャルカーブですか? 楽しみにしてます』
「はい。頑張ります」
『以上オルタさんでした。ありがとうございまーす』
そして私の紹介は終わり、
『では、皆さん、準備を始めてください』
MCが選手達に指定された席に座るよう促す。




