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VTuberをやっている妹のパソコンを勝手に使ったら、配信モードになっていて、視聴者からオルタ化と言われ、私もVTuberデビュー!?  作者: 赤城ハル
第4章

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第59話 セッティング

 応接室には茶菓子に弁当、テレビがあり、何か用があった際は室内インターフォンでスタッフを呼ぶようになっていた。


 テレビ番組は面白いものがなく、ぼんやりと見ていたら私はあくびをしてしまった。


「眠いですか? 今日は忙しかったですしね。準備は深夜3時ですからソファで仮眠を取ることにしては?」

「いや、でも、他の方が来たら……」

「その時は私が起こしますよ」


 福原さんはインターフォンで毛布を2枚頼んだ。

 そして毛布が届けられて、私はソファで仮眠を取ることにした。


  ◯


 今日は大変だった。いや、日付は変わってもまだ今日は終わってない。この後、WGEだ。ハリカー・エキシビションに参加しないといけない。


 交歓祭にWGE。

 1年前の私が聞いたら驚くだろう。


 去年の私は平凡な学生だった。

 普通に大学で講義を受けて、休日は家でゴロゴロ。たまに友達と遊び出かける日々。


 それが今はVTuber赤羽メメ・オルタを演じている。


 金髪で可愛いお顔、そして透き通る白肌、服は淡いピンク色のふわふわ系。そのメルヘンチックな赤羽メメを反転させたキャラがオルタ。白髪に褐色の肌。服も黒を基調としたシャープなもの。


 甘い砂糖菓子から遠くなった。

 それでもなぜか人気が出た。


 それから私は配信でゲーム実況をしたり、ライブで歌を歌った。それから色んなVTuberと知り合った。


 リアルでは5期生とは合宿もした。美菜とも友達になった。その美菜も種咲達とも配信関係で仲良くなったらしい。良かった。

 そして私は瀬戸さん達とも知り合い、今日は交歓祭の手伝いもした。


 本当に変わった。

 表立って大きく変わったわけではないけど、裏でVTuberをするだけでこうも変わるのだから驚きだ。


 豆田達は私が裏でこんなことをやっていると知ったらどう思うだろう?

 話した時、どんな顔をするのか楽しみ。


 ……ああ、駄目だ。話してはいけないんだ。


 VTuberの魂は秘密。


 でも、バレたらどうなるのかな?

 やっぱり驚くかな? それとも呆れるのかな?


 豆田は言いそう。「アンタは流されやすいのよ」と。


 うん。そうだ。流されて、私はここにいる。


 今回の交歓祭だってそうだ。流されて、手伝わされた。そして危険な目にも遭いかけた。あともう少し助けが遅かったら大変だったはずだろう。


 WGEも。

 チート疑惑も。


 私の知らないところで勝手に決まって、私を巻き込んでいく。


 WGEの後にはグラフリも控えている。


 大型コラボ企画だとか。社内組が張り切って企画したとか。


 そこには私が投じられる。ぽっちゃっと。池に投げられる石のように。

 関係ないのに繋がっていく。いつしか私が大きな波紋を生みだすことを願われて。


 ふと嫌な気持ちが生まれる。


 なぜだろう?

 なぜそんな気持ちが?


 水を加えられて煮詰めた砂糖はカラメルソースに。甘い結晶から苦味が生まれる。


 どろり、どろりと。

 でも、今の私に似合ってるのかもしれない。

 だって私はメメの反転。


  ◯


「宮下さん、起きてください」


 福原さんに呼ばれて、私はゆっくりと目を開ける。

 くぐもった声を出して、起き上がる。


「時間です」

「……はい」


 スマホで時間を確認しようとしたら、スマホは回収されたのだと思い出した。

 応接室の時計を見ると2時40分だった。

 50分にスタッフが訪れてきた。

 女性の研究員で福原さんの級友。名前は……名札を見ると深山水月と書いてある。


「準備の時間だけど大丈夫かい?」

「はい」


 私と福原さんは深山さんを先頭に施設内を歩く。


「他の人は?」


 福原さんが深山さんに尋ねる。


「準備だから彼らは呼んでないよ。それにWGEが始まったからね。彼らもそちらに集中したいんだろう」

「集中って、ネット配信を見てるだけでしょ?」

「一応こちら側はイベント会場に特別としてカメラをいくつか設置しているんだよ」

「そうなんだ」

「あまり興味がないようだね」

「英語分かんないし」


 その返答に深山さんは肩をすくめた。


 そして私達は研究室へと辿り着いた。


 中は机とソファ、3つのスクリーンのある部屋。スクリーン側の壁は一面ガラス壁。


 そのガラス壁の向こうに広い部屋がある。


 機械系の大きなボックス、太い配線、パソコン、大型から小型までのスクリーンが幾つもある。


 そして中央に椅子とテーブルがある。テーブルの上にはスクリーンと据え置きハードのスロッチ、コントローラが置かれている。あそこが私の通信部屋ということなのだろう。


 その広い通信部屋には数名の研究員がパソコンを操作している。その後ろに私達に施設内の諸注意を説明していたスタッフが指示をしている。他の研究員が報告をしてきたりしているので、もしかしてお偉い研究員だったのかな。


「彼はここの責任者だよ。羽山教授さ」


 私の疑問を深山さんが答えた。


「さ、福原君はそちらの席に。君は向こうに」

「なんで私はここなのよ」

「向こうは大切なところだからね。入れるのは一部の者だけ。いくらマネージャーだからと入れないよ」


 そう言われて福原さんは膨れっ面をする。


 そんな福原さんを無視して、深山さんはリモコンで三つのスクリーンの内一つを操作する。


 どうやら一つはテレビだったらしく、ネット通信でWGEの映像が流れる。


「では、君はこちらに」


 深山さんは名札でロックを解除してドアを開ける。


「宮下さん、頑張ってください」

「はい。頑張ります」


 私はガラスドアを通って、向こう側に入る。


 部屋の中央に椅子があり、深山さんにそこへ座るよう促される。椅子はゲーミングチェアに似ているが、少し形が違う。


「では、脳波測定のためヘルメットを被ってもらうよ」

「え?」

「大丈夫。重くはないよ」

「そういうのではなく、どうしてですか?」

「そりゃあ、君のプレイ時の脳波測定するためだよ。世の中には天才の脳波を知りたがる人はいるもんだよ」

「私の脳波なんて……」

「なに、これで君のチート疑惑も晴れるではないか。スロッチには不正プログラムはない。そしてこちらの科学技術で君の反応速度や技術面を数値化すれば誰ももう文句は言わないだろう」


 確かにそうだろう。

 けれど──。


「さ、じっとして」


 女性スタッフが白いヘルメットを私の頭に被せてくる。

 言われた通り、そのヘルメットは軽かった。


 パソコンを操作している男性スタッフが羽山教授に「リンク完了」と告げる。

 スクリーンの一つに私の頭上視点の脳が映し出される。


「誤差チェックを行え」


 と、羽山教授が女性スタッフに指示する。


「少しずらしますね」


 女性スタッフはヘルメットを左右前後と揺らす。「誤差チェック完了」と男性スタッフが言うと、女性スタッフは元の位置にヘルメットをきっちり被せる。


「ズレを確認するだだよ」


 深山さんは私に説明する。


「さて、準備を終わったことだし、ゆっくりしていたまえ」


 そう言って、深山さんは私の目の前のパソコンを操作して一つのディスプレイにWGEの配信を映す。


「そうだ。君は英語は理解できるかい?」

「いいえ」


「なら」と言って、深山さんはパソコンをまた操作する。


 すると日本語の字幕が表示された。

 すごい。瞬時に日本語で訳してくれている。


「ありがとうございます」

「これくらいは簡単さ。他に何か聞きたいことあるかい? 気になったことでもなんでもいいよ」

「ええと、それじゃあ、量子コンピューターって、あの箱なんですか?」


 私は室内にある大きなボックスを指差す。


「いやいや、全然違うよ。量子コンピューターは別室にある」

「そうなんですか。てっきり直接使用するのかと思ってました」

「面白い発想だ」


 深山さんは笑った。


  ◯


 スクリーンに日本語の字幕があっても、イベント内容はあまり興味のあるものではなく、暇だった……というか眠い。


「眠いのかい?」


 深山さんに問われた。


「いえ、別に」

「嘘をついても無駄だよ。脳波でしっかりと表示されているからね」

「……すみません。ちょっと眠くて」

「深夜だもんね。それに話によると大学の交歓祭が今日あって、手伝いをして大変だったらしいじゃないか」

「はい」

「少し仮眠するといい」

「では、少しだけ」


 目を閉じて、椅子の背もたれに身を預ける。


 深く息を吐くと体から力が抜けていく。

 意識が重力に引っ張られて落ちていくような──。


  ◯


 意識が落ちた先は真っ暗な世界だった。

 夢だと認識できるということは明晰夢ということだろう。


 なぜこんな夢なのか不思議だ。


 私は浮かんでいる。

 前に進もうと意識すると、ゆっくり幽霊のように進んでいく。


 空飛ぶ夢ではなく、穴底を浮かんでいくという夢。


 いや、もしかしたら穴底ではないのかもしれない。意識が落ちたから穴底と思い込んでいるのかもしれない。本当は空で、夜だから真っ暗なのかもしれない。


 でもそれだと星や月が瞬いているはず。


 何もない。


 私がイメージしたら生まれるのかな。

 少し目を閉じてイメージする。


 もういいかなと、目を開けると青白い光が目の前に生まれていた。


 弱々しく、どこか実体的であった。


 もう少し大きければいいなと願うと青白い光は球の大きさに膨らむ。


 人の形をイメージするとピクトグラムのような人の形になる。

 猫をイメージしたら頭が猫になった。しかもリアルな猫。


(うげっ、キモい)


 元に戻れと念じるも戻らない。

 猫人間は小首を傾げる。

 まるで意志があるみたいに。


 それで丸い球をイメージすると元に戻った。


 そして人の形をイメージして、もう一度ピクトグラムに。


 ピクトグラムは手を挙げたり、くるくる回ったり、せわしない。そして両手を前に伸ばすので、私は片方の手を握る。するともう片方もとピクトグラムは促す。


 両手を繋ぐと私達は踊り始める。

 ぐるぐると回るとピクトグラムはオルタになった。


(おお!)


 またぐるぐる回ると今度は私に。


 いや、ほんの少し前の私だ。高校生頃の。今よりも若い私。


 その青い白い私は徐々に色を持ち始める。

 そしてより完璧な人間になる。


 若い私が口を開けた時、暗闇が一瞬で白くなった。


 さらに声が外から聞こえてくる。それは私を呼ぶ声だ。


 白さは強くなり、私と目の前の彼女も白く塗りつぶしていく。

 もう1人の私が消える前に微笑んだ──ような気がした。


  ◯


「宮下君。時間だよ」

「……あ、はい」


 深山さんに起こされて夢の世界から目覚めると音のボリュームが上がっていく。


 WGEのハリカー・エキシビションが始まろうとしているのか、スタッフが慌ただしい。羽山という責任者が何かをせわしなく指示している。


「何があっ……この……数値は……ここにきて……自我……本体は……確立され……」

「予想プロセ……こんなの……まるでシンギュ……」


 周りが戸惑っている中、深山さんは嬉しそうな笑みをしている。


「何かあったんですか?」

「ん? ちょっと思いもしないハプニングがあってね」

「まずいやつでは?」

「いや、嬉しいハプニングさ。WGEには影響はないから、君はハリカーに専念したまえ」

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