表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/307

第24話 迷推理【瀬戸真里亞】

 大学から少し離れた喫茶店の窓際の席から暖かな日差しが差し込んでくる。それを肌で受けると「ああ、もう夏だな」と感じる。


 夏は何をしようかなと思い馳せると、天野に付き合わされてビーチでナンパされるというが浮かんだ。


 ダメダメと私は首を横に振る。するとテーブルを挟んで私に対面で座る宮下さんはびくついた。


「ごめん。なんでもない」


 私は微笑んで目の前のパフェをスプーンで掬う。


「……はあ」


 宮下さんは、どうしてこうなったと言う顔でアイスコーヒーをちびちびと飲む。


 私も天野達と喫茶店に入るとアイスコーヒーを飲むが、本当はコーヒーは苦手でジュースが飲みたいのだ。しかし、ジュースなんて飲むと馬鹿にされる。ましてやパフェなんて頼むと子供かよと言われるのは目に見えている。


 でも、今日は天野達はいない。それに宮下さんはたぶん言いふらさないだろう。

 なぜなら、今から私はある話をするのだ。


「あの、話って何?」


 そろそろいいかな。


「ええとね。宮下さんって、赤羽メメ・オルタだよね」


 単刀直入に聞く。


「!? えっ!?」

「そうよね?」

「なっ、何言ってるの。そんなわけないじゃん」


 宮下さんは明らかに動揺する。


「それじゃあ、いくつか私がそうだと考えることを述べるね。ええと、まずは声が同じなのよ」

「!?」

「そして最初の……というか事故の時だけど」


 探偵というものはよくべんが回るものだと感心する。こう見えて迷探偵ドイルを全巻読破しているのだけど、いざ推理ショーまがいなことをすると言葉が詰まる。


 私は一口パフェを頬張ってから、


「レポートって言ってたよね。あの頃にレポートがあったのは文芸論Bだけなの。私、総会に顔が効くから、調べて分かっているの」


 まるっきりの嘘である。


「いや、大学って他にもあるし……」


 そりゃあそうだろう。


「次に配信でオルタは豆田って言ってたの。あれって、お友達の豆田さんよね? これも裏は取れてるから」


 これも嘘です。


「えっ、いや、あの」


 あわあわと宮下さんは違うよと手を振る。


「この切り抜き動画を見て」


 私はコードレスイヤホンを宮下さんに渡し、装着を促す。


 宮下さんはちょっと戸惑っていた。


(もしかして他人のだからとかじゃないよね?)


 でも、宮下さんがワイヤレスイヤホンを装着した。それを確認して私は問題の箇所を流す。


「どう? 言っているでしょ?」

「あ、う、うん。そうなのかな? わ、分かんないや」

「次に宮下さん、あなたはこの前、生協でハーブティーを買ったよね」

「うん。買ったけど」


 それが何という顔をしている。


「赤羽メメがこの前の配信で姉が青いハーブティーを買ったと言っているのよ」

「青いハーブティーなんて、そんなに珍しいかな?」

「まだシラを切ると? いいわ。なら、これを見ても知らないと言えるかしら?」


 私はSNSのとある画像を見せる。

 それは赤羽メメが青いハーブティーの包装を写したカメラ画像。


「このハーブティーに貼られているシールを見て」

「それが何?」

「このご時世、ビニール袋は有料よね。でも、買った物が少ないなら必要ないよね。そしてその時、レジでシール貼られたんでしょうね」

「そう……なんじゃない?」

「このシール。アップするとね」


 私は画像内のシールを大きくした。


「分かる? ここにうっすらとだけど、マークが記載されているのよ」

「これは……」

「これって、うちの大学の校章だよね?」


 そう。そのマークは我が大学の校章だった。

 ただ、うちの校章は他の大学の校章にも似ていて、さらにうっすらとしている。


 宮下さんが「そうかな?」とシラを切られるとどうしようもない。

 だから、宮下さんが口を開く前に私は続ける。


「そしてSNSに投稿された日付が6月29日」

「……」

「宮下さんがハーブティーを買った日は6月29日よね?」

「いや、でも、ただの偶然という可能性も……私以外にも買った人がいるかも」

「残念だけど、あの青いハーブティーは匂いがきつくて購入者が少ないのよ」


 裏どりのない真っ赤な嘘である。

 だが、ここはゴリ押しで進める。


「安心して。誰にも言わないから。私は赤羽メメのファンなの。色々と身バレするようなことがあったから心配して告げているだけ」

「…………誰にも言わない?」


 よし。落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ