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VTuberをやっている妹のパソコンを勝手に使ったら、配信モードになっていて、視聴者からオルタ化と言われ、私もVTuberデビュー!?  作者: 赤城ハル
第4章

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第48話 6G【福原岬】

 宮下千鶴さんとの通話後、私はWGEのファイルを持って営業部海外営業一課に向かうためエレベーターホールに向かった。


 そこでプロデューサーの大河内光弘と彼の部下達とでくわした。

 大河内さんは私が腕に抱くファイルを見て、「なんだ? トラブルか?」と聞いてきた。


「いえ、トラブルではありません」

「なら、ファイルを持ってどこに行く気だ」


 正直めんどくさいと感じたけど、プロデューサーでもあるので、


「少し花塚さんに聞きたいことがあって」

「何を?」

「WGEの件で確認を」

なんの確認だ?」

「……」


 やんわりとこれ以上は詮索するなという雰囲気を作っても大河内さんはそれを無視してぐいぐい聞いてくる。


(もう! 早くエレベーターはきてよ!)


 しかし、なかなかエレベーターは来なかった。諦めた私は、


「WGEのハリカー・エキシビションマッチでの赤羽メメ・オルタがプレイする配信……通信部屋についてのご確認です」

「通信部屋? うちのスタジオの配信部屋だろ?」

「それが埼玉県和光市にある量子通信実用研究所なんです」

「はあ!? なんでそんなとこなんだよ!?」


 大河内さんが一際うるさい声を出す。

 まるで私が悪いみたいな言い方。


「だ・か・ら、私もそれを聞きたくて花塚さんの所へ向かおうとしているんです」

「それならそうと早く言えよ」


(なんでアンタに言わないといけないのよ)


「おい! 俺は少しこいつと花塚のとこに行くから、お前らは先に進めておけ」


 大河内さんは部下にそう命じた。


「えっ!? で、でも、グラフリ講習の……」

「予定日の説明ならお前達でも出来るだろ。こっちも終わったらすぐに向かうから」

「……わかりました」


(いやいやいや、待ってよ。大河内さんもついてくるってこと? え? なんか嫌だな)


 そこで電子音が鳴り、エレベーターが来て、ドアが開いた。


「行くぞ」


 大河内さんがエレベーターへと乗り込む。


「あの、別に大河内さんは……」


 後に続きながら私は困った声を出す。


 大河内さんの部下達もエレベーターに入り、降りる階のボタンを押す。


「グラフリにも支障が出るかもしれないだろ」


 いや、それはないだろうと私は心の中で突っ込みつつ、


「通信場所の確認ですよ?」

「それが埼玉の量研なんだろ? 通信ならうちのスタジオでも問題はないだろ? それがいちいち量研を使うなんておかしいだろ。外国のイベントに日本の研究所が絡むなんてさ」


 そして営業部のある階に辿り着き、大河内さんはエレベーターを出る。


「頼んだからな」


 大河内さんは部下達に命じる。


 私もエレベーターを降りて、大河内さんと一緒に営業部海外営業一課に向かう。


「量子テレポーテーションとか言っても擬似的な光速通信なんだろ? 結局は光より遅いんだ。それなのにわざわざ量子コンピューターを使うか?」

「大河内さんは量子論に詳しいんですか?」

「いや。俺は文系だからそっち系は……さっぱりだな。せいぜい齧った程度だ」


 そして営業部海外営業一課に着き、部長席へ向かう。

 席には花塚智子部長がいて、私達に気づいた。


「あら、お二人で何か用事かしら?」

「WGEの日本からの通信場所についてだ」


 大河内さんの言葉に花塚さんは目をぱちくりさせ、


「それが何? というか貴方、関係ある?」

「あるだろ。こっちはグラフリの件で忙しいのに、WGEでスケジュールがてんやわんやなんだよ」


 そう言って、不機嫌そうに大河内さんは鼻を鳴らす。


「それでどうして量子通信実用研究所なんですか?」


 私もファイルを開き、くだんのことが記されているプリントを向けて花塚さんに尋ねた。


「向こうからの要望なの?」

「向こう?」

「アメリカの運営イベント、ゲームソフトのメーカー、あと文科省から」

「どうしてだ?」


 大河内さんが一歩前に出て、花塚さんの机に手をついて詰問する。


「詳しくはわからないけど、実用的なデータが欲しいからでしょ?」


 花塚さんは大河内さんの睨みも何の空と言わんばかりに涼しげな対応をする。


「だからって……海外絡みだぞ。最悪、日本の研究データが取られるぞ」

「共同だから問題ないわよ」

「どうだか。アメリカが前に研究のためだとかで無理に和牛の精液を要求して、その後、アメリカが悪用して、世界各国に和牛の血をばら撒いたのを忘れたか?」


 その件は昔の話だが、私も知っている。確かそれで和牛をアルファベット表記にしたブランド牛が生まれたのだ。

 そのブランド牛は確かに霜降りがあり、美味しいが、やはりどこか質が落ちてそこまで影響はなかったとか。


 最終的には日本の和牛が()()()()()として落ち着いた。


「和牛とゲームは違うでしょ」


 花塚さんは椅子を回して、背を見せる。


「いい? これはイベントを……いえ、これからの通信関係のイベントをスムーズにさせるかもしれない大きな一手なのよ」

「それはどういうことですか?」


 私は花塚さんの背に向けて質問を投げる。


 花塚さんは椅子を回して、私へと向かい合う。


「1テラのデータを送るとしたらどれくらい時間がかかる?」

「え? ……ええと……そこそこ?」


 テラサイズのダウンロードなんてしたことないので、どれくらい時間がかかるとか聞かれてもわからない。


 花塚さんはクスッと笑い、


「もし量子コンピューターが実用化されれば、ほんの一瞬でしょうね」

「え? でも、量子コンピューターでも擬似的な光速のはずでは?」


 どうあっても光の速度は越えないと言われている。


「でも、通信量は違う。量子ビットが確立されれば、瞬時な大容量通信可能となり、社会は大きく変わるでしょうね」


 そして花塚さんは立ち上がり、両腕を横に伸ばす。


「6Gの時代がくるのよ。日本がどの国よりも先に最先端のIT技術を進むのよ。物作り日本の再誕よ」


 その顔には絶対的な成功を信じてやまないという表情があった。

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