第41話 イベント終了
「ふう〜。疲れた〜」
コラボ配信が終わって、佳奈は一息つき、肩を揉んだ。
私も両腕を上げて伸びをする。
『今日はコラボありがとうね』
スマホからメッセージが届いた。送り主はキセキカナウ。
私はすぐに、『こちらこそ楽しかったです。またよろしくお願いします』と返信した。その後、みはり先輩とミカエル先輩にもメッセージを送った。
「お腹空いたね。今日のご飯なんだろう?」
私は佳奈の部屋を出て、1階のリビングに向かう。
「今日はカレー?」
リビングのドアを開けるとカレーの匂いが鼻腔を刺激する。その刺激でお腹の空腹もいっそう強くなった。
「そうよ。あら? 佳奈は?」
キッチンでカレーを煮込んでいる母が私に聞く。
「ん? あれ?」
てっきり佳奈が私の後ろについてきているとおもっていたらいなかった。
「まだ部屋にいるんじゃない?」
「配信は終わったの?」
「うん。終わった」
私は冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して、コップに注ぐ。そしてお茶をぐいっと飲み込む。
「ご飯は?」
「出来たけど、まだとろみはないわよ」
母はおたまで鍋のカレーをくるくる回している。
そのスピードからまだシャバシャバだと私は判断した。
そこへ佳奈がリビングに入って来た。
「部屋で何かしてたの? まさか切り忘れ?」
「違うよ。エゴサよ。普通、配信終わったらエゴサでしょ?」
佳奈が棚からコップを取り出してキッチンの冷蔵庫に向かう。反対に私はキッチンを出て、リビングの2人掛けソファに座る。
「お姉ちゃんは少しはエゴサしなよ」
佳奈がコップにお茶を注ぎつつ言う。
「ん〜。でも、いまは、叩かれているんでしょ? チートとかで」
私は2人掛けソファの上に上半身を横へと倒す。
わざわざ否定派の意見を見る必要はない。
きっと弁明しても火に油。
「そうでもなかったよ。WGEの件で鎮火したんじゃない?」
「えっ!? そうなの!?」
驚いた私は横にした上半身を再び起き上がらせる。
「うん。ネットも公式が認めったということで納得しているらしいよ」
「私の参加に否定している人はいないの?」
「いないとは言い切れないけど、肯定派が圧倒的に多いよ。むしろ今はかなり盛り上がってるよ」
「そうなんだ。良かった」
「良かったって……お姉ちゃんも報告でもしたら」
私はポケットからスマホを取り出して、SNSでWGEの件を報告した。
「なんかお姉ちゃんの報告……固い。業務連絡みたい」
「そう? こんなもんじゃない?」
「もっと明るく、嬉しさを表現しないと」
「難しいなー」
「それにいつも単調。もっと今何をしているかを投稿しないと」
「えー? どんなの? あまり身バレするようなのは駄目なんでしょ?」
「なんのテレビ見ているとか。なんの本読んでるとか。なんのスイーツを食べてるとか」
「はいはい、おしゃべりはそこまで。2人ともカレーが出来たよ」
キッチンにいる母が私達に向かって言う。
「「はーい」」
私達は棚からカレー皿を取り出して、炊飯器からライスをよそって、次にカレーをかける。
「『今、食事中。晩御飯はカレー』なんてSNSで投稿する?」
「いいんじゃない」
冗談半分で言ったのだが、まさか肯定されるとは。
「そんなんでいいの?」
「ファンはそういう生活の一面を知りたがっているのよ」
「それは少し分かるわ」
と、カレーをよそって席に座った母が言う。
「俳優とかタレントが、何が好きで何が嫌いとか気になるでしょ? ほら、ちょっと前に番組でもあったじゃない。互いの食べ物の好き嫌いを言い当てるやつ」
「ああ、あったね」
「千鶴も東野カナが何それが好きとか聞くと、それについて気になるでしょ?」
「そうだね」
「そういうことだよお姉ちゃん」
佳奈はうんうんと頷き、
「あと企業から仕事がくるよ」
「オファーというやつ?」
「そう。カレーが好きと発信したら来るかもね」
「そういえばVTuberのCMとか見たことある。カップ麺の味噌ラーメンのやつ」
他にもチョコレートやスナック菓子とコラボしてパッケージにどかどかとVTuberの絵が使われていた。
「覚えているわ。あの味噌ラーメン、すごい売れたのよね」
母が感心したように言う。
「売れた?」
「スーパーとか即売り切れてたわ。空っぽだからびっくりした」
「へえ。でも、チョコレートとかスナック菓子は売れてないんじゃない? よく値引きされてバーゲンコーナーで見かけるよ」
「まあ、売れてないのもあるけど。ああいうのを見ると悲しいよね」
佳奈が眉尻を下げて言った。
確かに自分のガワが使われたコラボ商品が値引きされバーゲンコーナーにあったら悲しい。




