第40話 ハリカー・メーカー⑥
『さて一通り皆のコースを走ったけど、次は誰にする?』
『う〜ん? 自信のあるコースがあれば手を挙げるとか?』
みはり先輩が提案する。
『そうだね。私のこのコースすごいよとあれば教えて』
『なら、私のハリオコースはどうかしら?』
『それじゃあ、ミカのハリオコースをやってみようか』
◯
それから私達は自分達が作ったコースを走り回った。
今はみはり先輩が作ったアイスコースを走っている。
私と佳奈はというと、佳奈がコントローラーを持ってコースを走り、私はスクリーンを見て配信を見ている。
『そういえば、製品版ではニンジャコースが下地として使えるらしいよ』
キセキがふとそんな情報を告げた。
(ニンジャコース?)
『あのコースが!?』、『それって、大丈夫なの?』、「すごいですね」
私以外が驚いた。
「あの、ニンジャコースって何ですか?」
『オルタ、知らないの?』
「ごめんなさい。うちのお姉ちゃんはブランクがあるのでWeeVを知らないんです」
『本当? WeeVを知らないの?』
「V? Weeではなくて?」
『へえ、知らないんだ……ええとね、WeeVはWeeの後継機なの』
「スロッチではないんですか?」
『実は間にWeeVがあったのよねー』
『黒歴史ですわ』
と、ミカエル先輩が言った。
「黒歴史?」
『ミカ、別に黒歴史ではないよ。ツプラトゥーンやワークリとか名作が生まれたのよ』
みはり先輩が突っ込む。
『そうでしたね』
「でも、それらもスロッチから流行りましたよね」
『メメはWeeVの素晴らしさを知らないのね。今度、教えてあげる』
『みはりはツプラが好きだもんね。気をつけてね』
キセキがこっそりと佳奈に教えてくれるが、今は配信中でみはり先輩にも聞こえているはず。
『で、オルタはWeeVを知らないんだっけ?』
「はい。ただ、ツプラとワークラは知ってますよ」
ツプラトゥーンは街にペイントを塗るゲーム。実際の街をモデルに使ってることと、対戦ゲームがウリのゲーム。
ハリカー以来の大ヒットゲーム。
ワークラはワールドクラフトというゲーム。自分だけの世界に家を建てたり、畑や酪農を作って楽しんだりする。その他にダンジョンやレイドボス、イベントもあり、自由度の高いゲームで世界で最も売れたゲームとして知られている。
私もワークラはやったことないけど名前は知っている。
『WeeVはWeeの後継機で形はWeeとスロッチを足して割ったもの。基本はテレビゲームだけど、携帯型にもなるの』
「それって、まんまスロッチでは?」
キセキが教えてくれた内容はスロッチのスタイルと同じだった。
『でも、操作性や画質の問題。携帯型対応ソフトも少なかったのよ』
『あと、ウケなかったのよね』
ミカ先輩が割って入るとみはり先輩が、
『時代を先回りしたのね。スロッチではウケたのにどうしてかしら?』
『当時、他の携帯ゲーム機があったからね。だから売れなかったのよね』
『WeeV用のソフトをたくさんだしていれば!』
みはり先輩がどこか悔しそうに言う。
「ハリカーはあったんですよね?」
『そうそう。で、そのWeeV用ハリカーにニンジャコースがあったの』
ここでニンジャコースの話に戻る。
「どんなコースなんです?」
皆が驚くのだから、普通ではないのだろう。
『ニンジャ屋敷を走るコースなんだけど。簡単にいうと天井走りが問題になったの』
「天井走り? イニシャルカーブみたいな?」
イニシャルカーブという単語を発した時、私はちょっと緊張した。
『意味はちょっと違うかな。イニシャルカーブは技術で天井走りはコースの仕様なの』
「ああ! 壁走り的な」
ハリカーでは時折コース内で壁を走る時もある。
『そうそう。それの天井走り』
「それが問題なんですか?」
『それがね……酔うの』
「酔う?」
『うん。かなり酔うよ。ゲーム慣れしたプレイヤーでも酔うから問題になったのよね』
「へえ。私、ゲーム酔いするのでその天敵ですね」
今ではゲームに慣れ、ゲーム酔いも少なくなったが、それでもふとした時現れる。今回のハリカーコラボも佳奈と交互にプレイしていなかったら酔ってたかもしれない。
『ほとんどのプレイヤーが天敵だから。あまりにも酔うため公式から注意喚起が出たくらい。しかもスロッチ版ハリカーにはニンジャコースは実装も追加もされなかったしね』
「そんなにすごいんですか。ちょっと気になりますね」
『動画で見てみたら?』
「はい。あと見てみます」
『気をつけなよ。他人のプレイでも見てて酔うからね』
みはり先輩が釘を刺す。




