第39話 ハリカー・メーカー⑤
佳奈のコースを走り終えた私達はルームに戻った。
『いやあ、最後はぶつかったり、吹き飛ばされたりと大変だったわ』
そう言って、キセキが一息つく。
佳奈が作ったアイスコースは3週目には氷漬けされたモブキャラが全員解放され、そこへさらに邪魔をしてきて大変だった。ラストのストレートにはサンタが爆弾を投げてくるし、私達は競争というのを忘れて、ひたすらゴールへと突き進んでいた。
一応、順位はキセキ、みはり先輩、ミカエル先輩、私の順。
「お褒めいただきありがとうございます」
『褒めてはないぞー』
「本当ロングストレートにして、バグのサンタをもう一体配置したかったんですけど、それだとゴールできないんですよねー」
『ゴールできないコースはNGだから。てか、なぜバグを見つけるかな』
『次はオルタが作成したコースね』
「はい。皆さんはどのコースを走りたいですか?」
『そうねー。一通り4つのコースを走ったからね。オルタの好きなのでいいよ』
『妨害や邪魔のないコースがいいわ』
『というか普通のコースが恋しくなったわ』
「では、マウンテンコースにしましょう。このコースは難しくはありません」
『簡単ということ?』
「簡単ですね。ただ、普通ではありません」
『それは楽しみね』
◯
シグナルが灯る。
3……2……1……。
『スタート!』
キセキが元気よく声を発する。
私の作ったマウンテンコースはミカエル先輩とは違い、すぐに飛ぶように作られている。
皆はカイトを広げて空を滑空。
『ん? あれ? 下は海? いや、空?』
普通なら下には森が広がっているが、森はなく空が広がっている。
「はい。空です。バグを見つけたんです」
『なんでバグを見つけるのよ。姉妹揃ってデバッカーなの?』
『ねえ? このままどこ行くのかしら?』
普通ならそろそろコースに降りるのだが、降り立つコースもなく滑空を続けている。
「目印としてリングを置きましたので、リングを目指して滑空してください」
空には大きな金のリングが浮いている。
リングを通過すると滑空スピードが上がる。
『で、いつまで滑空するのかしら?』
「ゴール地点までです」
『ええっ!?』
『なんてコースを作ってるのよ!』
キセキが文句を言う。
「いやあ、奇抜なコースを作ってたら、ずっと滑空するコースができちゃいました」
『ねえ、よく見てみたら普通の滑空と違う!』
『みはり、どういうこと?』
『普通十字キーの上を押すとカートは潜るように下に向きに、下を押すと対空を伸ばそうとカートが上向きになるの。でも、それができないの!』
『本当だ! なにこれ?』
「落ちることもできない安心な滑空です」
『ただのバグでしょうが!』
◯
アイテムボックスもないため、ただ滑空してゴールまで進むコース。
なにもないため2週目あたりですぐに飽きてきたようだ。
『ねえ、ここ最近何かあった?』
キセキが皆に問う。
『何もない』
『私も』
「同じく」
私はあったのだが、ここは黙った。
『ええ! 何もなかったの? それじゃあ、何かをやるとかそういうのは?』
『それなら来週にグラフリかな? ペーメンでの大型コラボ』
みはり先輩が告知する。
『おお! グラフリね。大型コラボってことは皆、参加なの?』
「私は無理なんです」
佳奈は残念そうに言う。
『メメちゃんは無理なの?』
「はい。年齢制限で」
『他にもコロンも駄目なのよね』
『あー。あのゲーム過激だからね。メメちゃんはリアルJKだっけ』
グラフリことグランド・フリーダムはCEROがZ。そのため高校生は参加できないのだ。
「代わりに姉が参加します」
『代打にオルタか。オルタはグラフリやったことあるの?』
「ないです。ですのでまず練習しないといけないんです」
それとキャラメイクもしないといけない。
『へえ。来週からなら、いろいろと大変ね』
『あっ!?』
ここでみはり先輩が思い出したように声を発した。
『ん? どうしたのみはり? トイレ?』
『違うよ。ええと、私ではないんだけど、確かオルタって、WGEのハリカー・エキシビションマッチに出るのよね? 大丈夫なの?』
「あ、はい。大丈夫です。なんとか調整しています」
『WGE!? ロスの!? えっ!? まじで!?』
ミカエル先輩か大きく驚く。操縦にもブレが生まれ、カートが揺れる。
『すごーい。アメリカに行くの?』
「いえ、日本からの参戦です」
『どうしてオルタにオファーが?』
『ミカ、オルタはあのイニシャルカーブができる実力者なのよ。正式オファーがきてもおかしくはないわ』
『そうね』
「いえいえ、そんなことありませんよ。私もオファーがきた理由は知らないんですよ」




