第28話 夕食
「まじで!? ロスのWGEに!?」
夕食時、私はロスのWGEからオファーされたこと、そして出演することを佳奈に告げた。
「ちょっと、ご飯粒飛ばしてるわよ!」
佳奈の対面に座る母が注意する。
「ごめんなさい。で、お姉ちゃん、どうしてWGEに?」
「ええと、それのハリカー・エキシビションマッチに参加することになったの」
「アメリカ行くの?」
「いや、行かない。日本からの通信対戦」
「なーんだ。でも、日本のVTuberでWGEに参加するのは初なんじゃない?」
「ロスに行くならパスポートを作らないといけなかったわね」
と言って、母がエビフライを食べる。
「うん。でも、日本から参加だからパスポートはいらないよ」
「でも、どうしてオファーされたんだら?」
「そりゃあ、千鶴はハリカーが得意だからだろ?」
と、父が誇らしげに言う。
「得意でも今は色々とデマが……ね?」
佳奈が歯切れ悪く答える。
「うん。不思議だね。どうしてこんな時に私が選ばれたんだろ?」
「何? 何かあったの?」
何も知らぬ母が尋ねる。
「ハリカーでもチート疑惑がかけられているの」
「チート?」
「不正行為のこと。私が不正行為でハリカーをプレイしているっていう疑惑がかけられているの?」
「不正しているのか?」
父が問う。
「してない」
「そうだよ。お姉ちゃんが上手いから周りがやっかみでそう言っているだけだから」
「なんだと!」
父が険しい顔をする。
「まったく、どこのどいつだ?」
「ネット」
「ネット!? またネットか」
父が額に手をやり、溜め息をつく。
「ネットの連中はどいつこいつもそういう奴らばかりなのか?」
「皆が皆そういうわけではないよ」
「で、そんな中で千鶴が選ばれたってことよね? その大きなイベントに」
母が会話を軌道修正して聞く。
「うん。選ばれたの。なぜかな?」
「運営はちゃんとデマかどうか判っているんだ。だから選ばれたんだよ」
父はそう考えているようだ。
もちろん、そうである方がいいのだが。
「で、いつだっけ?」
「再来週だって」
「すぐじゃん。グラフリの講習とかぶらない?」
「かぶるらしいね」
「もしかしてグラフリには出ないの?」
「そっちも出るよ。ただ、講習は福原さんが調整するらしいって」
「グラフリ? それもイベント?」
母が眉を顰める。
「正確にはゲーム名。そのグラフリで多人数のVTuberとコラボするの」
「へえ。どれくらいの人と?」
「30くらいかな?」
「そんなに? 今のゲームってそんなに集まってゲームをするのね」
「部屋とかも大変そうだな」
「ネットだよ。リアルで集まらないよ」
「……通信か。変わったものだ。お父さんの昔の頃は皆が集まって、順番待ちしてゲームをしていたものだよ」
「佳奈もそのグラフリに参加するの?」
母が佳奈に聞く。
「ううん。そのゲームはCERO……対象年齢があって、私はそのゲームはできないの」
「対象年齢? それって、つまりエッチなゲーム?」
お茶を飲んでた私は母の質問にむせてしまった。
「ちょっ、ち、違うよ」
でも、あながち間違ってはない。そういうゲームもある。
「過激なゲームなの」
「過激? 激しくエロいってこと?」
「違う。どうしてエロにもっていくのよ」
「暴力で対象年齢があるのよ」
「ぼ、暴力だ?」
今度は父が声を上げた。
「ちょっと暴力性があるの」
正確には犯罪性なのだが、それを言うとますますややこしくなりそうなので、そこは黙ってることにした。
「そんなゲームをするのか?」
「世の中には人を殴る格ゲーがあるんだから」
「し、しかし……」
「このゲームは分かり易くいうとドロケイなの。刑事と泥棒。泥棒役があるから対象年齢が高いの」
「そうなのか?」
父は佳奈に聞く。
「うん。ストバトよりは暴力性は低いと思う」
ストバトはハリオと並ぶ有名な格ゲーである。正式名称はストリートバトル。
「でも、ストバトは対象年齢ないだろ? お父さんも子供の頃にやってたよ」
「今はストバトも対象年齢付きだよ」
「え?」
「殴るだけだからグラフリよりかは低いけどね。でも普通に考えて、人を気絶するまで殴るゲームはやばいよ。それならまだドロケイのような逃亡犯と警察の方がまだましじゃない?」
「そ、そうか……な?」
「ま、そういうわけだから、お父さんが心配するような過激なゲームではないよ」
と、佳奈は締めくくる。けど、佳奈もまだグラフリをプレイしたことないので、どういうゲームかはよく知らないのだ。
ちょっと親を騙してる感があって心苦しい。




