第67話 ザ・ポリス④
私達はバスケットコートに近づくまでの間、マリファナを吸引した人間を撃ち殺していく。
「くぅ、またポイントが減った! マリファナ系マジでウザい!」
みはり先輩が嘆き喚く。
「ドンマイですよ。あと、撃つなら暴れているやつですよ」
「どうして?」
私はヤクモに聞く。
「ええとね、暴れてるやつは公務執行妨害や器物損壊罪があてがわれるからね」
「なるほど」
「よし。オルタとヤクモは変人奇人を。私は暴れてる奴を狙うよ」
「ずるいですよ。自分だけ得点のある奴を狙うなんて!」
◯
そして私達はようやくバスケットコートに辿り着きました。
そこでは数多くの人間がマリファナの吸引でおかしな行動を取ってました。
「よし。バンバン殺しちゃうよー」
とても警官とは思えない発言をするみはり先輩。
私達はバンバンと薬物中毒者達を撃ち殺していく。
その中で1人、逃げようとするやつがいた。
マリファナ中毒者達は暴れるか、意味不明な行動をするかのどちらかのはず。
その中で普通に逃げるのはおかしい。
「逃げるやつがいます」
「えっ!? オルタ、そいつは殺さず捕まえて! ブローカーだよ!」
ヤクモが声を張った。
「え、うん」
私は急いで相手を捕まえ、手錠をかける。
「あれ? 逃げたこいつだけ高得点だけど? どうして?」
「オルタ、そいつはブローカーだよ」
「ブローカー? そういえばさっきも言ってたけど何者?」
「ブローカーはね、薬を売ってるやつのこと。こいつを捕まえると密輸・密売、供給ルート、購入者が分かるんだよ。マトリが欲しがるやつだよ」
「なるほど。だからポイントが高いんだ」
「でも、こいつ捕まえると大変じゃない?」
みはり先輩が疑問を述べる。
「どうしてですか?」
「ヤクモ捕まらない?」
「捕まらないよ。買ってないよ!」
◯
「それじゃあ、他行こうか」
もう公園内ではドラッグパーティーはやっていないようなので、公園を離れることにした。
と、またそこで茂みから音が聞こえた。
(やはり何かあるのでは?)
私は茂みに近づく。
茂みの向こうは光もなく、木々が立ち並び暗い。
「おーい、オルター、何してるの?」
「いえ、こっちの方からやはり音が」
「おいおい、それはいいよー」
「駄目だよー、戻って!」
みはり先輩とヤクモが慌てて止めてくる。
(何か隠してる?)
私は2人の静止を振り切って、茂みの向こうに足を踏み入れる。暗闇の中に懐中電灯の光を向ける。
(なんかホラゲーみたいだ)
音が次第に大きくなる。
渇いた音が暗闇の中に響く。
(まさか喧嘩?)
「オルター、戻ってかなー!」
みはり先輩の言葉を無視して、私は奥に進む。
そして──。
「のおぉぉぉ!」
私はとんでもないものを見つけてしまった。
それは男と女の情事だった。
「ああ! 見つけたか。しゃあない。オルタ、捕まえな」
みはり先輩が溜め息交じりに言う。
私は拳銃で2人を撃ち殺した。
「おーい。どうして殺すの? カップルがいちゃついてるだけでしょうに」
「犯罪ですよ! ええと……公衆……公然? 猥褻物なんたら陳列なんたらですよ!」
私は慌てて弁明する。
「てか、知ってましたよね? なんで教えてくれないんですか?」
「ん〜? エロい話になりそうだしね。それにオルタが出歯亀しそうだから」
「しませんよ!」
「リリィとのコラボでやってたじゃん?」
「あれも事故!」
私はその場にこれ以上いたくなくてさっさと茂みを出る。
「どうしてあんなところで……」
「そりゃあ、キメセクだからだよ」
と、ヤクモが教えてくる。
「なにそれ?」
「薬でキメたあと行為に及ぶことだよ」
「なんでやるの?」
「気持ちいいから」
「どうして外で?」
「開放感かな」
「ヤクモ……」
「待って! 私、やってないからね!」
「どっちを?」
「どっちもだよ!」
◯
公園の出入り口付近に戻ると最初にドラッグパーティーを見つけた東屋が見えた。
その東屋には若い女性が2人いた。
「またドラッグパーティーか」
だけど、その2人は他とは違って生々しかった。
腕には複数の青痰が。
そして体が細く、顔色もげっそりとしている。かなりやばい感じだった。
「何これ?」
「パケとポンプがあるからスピードだね」
ヤクモは東屋のテーブルを見て言う。
「パケ? ポンプ? スピード?」
「きついやつだよ。ドラマとかでも見るでしょ? 注射器のやつ。パケは袋のこと。ポンプは注射器のことだよ」
東屋のテーブルにはヤクモの言う通り、小さいビニール袋と注射器が転がっている。
「へえ」
確かに言われてみるとドラマで見るような麻薬中毒者だ。
麻薬に依存しすぎて、どんどんおかしくなり、そして最後は死ぬ。
「スピードは直接体に打つから、効果が早いし、すごいんだよ」
「そうなんだ」
私は若い女性に手錠をかけようとしたけど、出来なかった。
「あれ? 操作不良?」
「オルタ、この子達は死んでるよ」
みはり先輩が悲しそうに告げる。
「死んでる?」
「うん」
「どうして死ぬまで麻薬を……」
「オルタは夢ってある?」
ヤクモが急にそんなことを聞いてきた。声にどこか悲しみの色がある。
「え? 特にないよ」
「それじゃあ、今は楽しい?」
「……まあ、それなりに」
みはり先輩に何か揶揄されそうかなと考えていたが、みはり先輩は何も言わなかった。
「世の中にはね、それすらも羨ましく思える人がいるんだよ」
ヤクモがしんみりと言う。
「どういうこと?」
「スピードはね、今も未来もお先が真っ暗な……ぶっちゃけ自殺一歩手前な人がやっちゃうんだよ」
「……」
「今も辛い、過去も嫌なことばかり、未来も真っ暗。もう普通には生きられないと嘆くような人がさ、忘れたくてスピードを打つんだよ」
「うつ病みたいな?」
「うん。嫌な過去は消すことはできない。なかったことには出来ない。終わったこと。だから今更、考えてはいけない。けれど……何度も何度も思い出したり、考えたりするんだよ。そして悔しくてイライラするんだよ。そして今はつまらない。どうすることも出来ない。未来も地続きで同じ。いや、ひどくなる一方かな」
「だから忘れるために?」
「……たぶんね」
みはり先輩がヤクモに近づきます。
「先輩?」
「ヤクモ、マジで麻薬やってないよね?」
「…………えっ!? ええ!? やってませんよ! なんでそんな真面目なトーンで聞くんですか?」
しばらく無言だったヤクモが、みはり先輩の言葉を理解して、ものすごく驚き、そして慌てる。
「やってませんからね。本当に」
「でも、あんた、すんごい声で麻薬について語ってたよ」
「うんうん」
私も頷く。まるで経験者のように語っていた。
「いやいやいや! 本当にやってませんから。空気読んで話しただけですから。麻薬中毒者って、こんな感じだよって」
「そういえばあんた、昔の夢は読モになりたかったけど、無理だったって配信で言ってたよね」
読モとは読者モデルのこと。うちの大学でも読モをやってる子がいるらしい。瀬戸さんとかやってそう。
「それでスピードなんてしませんよ!」
「ああいう。パリピな読モって、覚醒剤とかやるでしょ?」
「偏見! 偏見ですよ! 読モがスピードなんかしませんよ。むしろ、ああいう若者はピ◯キーですよ」
「ピ◯キーって?」
ピ◯キーというとスーパーとかで売ってるやつだけど。錠剤のような清涼剤。
「MDMAです。渋谷のピ◯キーって言われてるやつです」
「ヤクモ、あんたそっち系か」
「違いますよ! やってません! てか、読モになってないのにやってません!」
「夢潰えたからこそ……自首するなら早いうちに」
「してませーん!」
◯
このゲーム配信の後、『薬モ博士』がトレンド入りした。
もちろん、これが誰を指すのかは分かっているであろうから言わないでおく。